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激しい雨

 マクドナルドを出ると、僕はまた自転車に跨がった。そしてペダルを漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。


 後もう少しでアパートにたどり着くという頃になって、堪えきれなくなったように雨が降り出した。弱い雨ではなくて、うおりゃー!というかけ声がきこえきそうなくらいの勢いのある雨だった。なので、僕はずぶ濡れになった。まるで服を来たまま川とかに落ちたような感じだ。なんで後五分くらい待ってなかったのかと腕を振り上げて空を覆う雨雲に向かって抗議したくなる。でも、僕がいくらか恨めしそうに雨雲を睨んだところで、雨雲は素知らぬ顔を決め込んでいる。というか、鼻くそをほじりながら、悠然とこちらを見下ろしている。完全に馬鹿にしている。なんだったらもっと雨を浴びせてやってもいいんだぜというような面構えだ。


 アパートに戻ると僕は急いで濡れた服を脱ぎ、浴室に飛び込んだ。時刻はまだ午後の15時を回ったばかりで風呂に入るにはいささか早すぎるような気もしたけれど、この際身体も洗ってしまうことにする。


 風呂から上がると、この前買っておいたコーヒー牛乳をラッパ飲みした。やっぱりお風呂上がりはこれにかぎるなぁとしみじみと思う。


 部屋のなかはしんと静まり返っていて、その静けさのなかを雨音が彷徨っていた。雨音は心持ち肩を落とし、顔を俯け、どことなくいじけたような様子で部屋を彷徨っている。


 僕は歩いてくと、パソコンの前に置いておる椅子に腰を下ろした。そしてパソコンのスイッチを入れるとパソコンを立ち上げた。僕は小説を書くときワードを使って書いている。原稿用紙を使って小説を書くことにこだわるひとも多いけれど、僕はパソコン派だ。原稿用紙の升目をひとつひとつ埋めるようにして小説を書いていくのも情緒があって良いなと思わないでもないけれど、それではいかんせん思考のスピートに手が追いついていかないし、なにより、僕は字が下手くそだ。自分の書いた下手くそな字を見ているうちに、小説を書きたいという情熱も薄れていってしまう。


 せっかくの休みなのだから小説を書かなくちゃ、と、僕は思った。でも、僕はこのところスランプだ。半年程前くらい長編の小説を書き上げて以来、まとまったものを書き上げることができないでいる。頭のなかにいくつかのイメージがあって、それを頭のなかに思い浮かべているあいだはすごく良い小説が書けそうな気がしているのだけれど、でもそれを実際の文章に起こしてみると、全然納得のいく形にならないのだ。そのうちに頭のなかに浮かんでいたイメージも崩れて消えてしまう。


 僕はキーボードのうえに両手をおいた。頭のなかに何か言葉が浮かんで来たら、すかさずそれを捕らえようと待ち構えた。でも、どれだけ意識を集中してみても、頭のなかにはひとかけらの言葉も、イメージも浮かんではこなかった。空白のなかをアパートの外に降る雨音だけが当てもなく彷徨っていた。


 そのうちに僕はだんだんイライラとしてきた。そしての苛立ちは少しずつ雨の水分を吸収していった。気がつくと、いつの間にか苛立ちはぼんやりとした哀しみ変わっていた。自分でも何が具体的に哀しいのかわからなかった。でも、とにかく心に上手く力が入らなくて、全てのことが物憂く感じられた。自分という意識と現実のあいだに分厚いガラスの壁ができているような気がした。そして僕はその分厚いガラスの壁を通してしか外の世界を見ることができないのだった。


 と、そのとき僕の意識のなかに響いてきたのは母親の声だった。母親の僕を心配するというよりは非難する声。もうあなたも三十歳なのだからそろそろちゃんとしたところに就職した方がいいんじゃないのかと母親は言った。そのうえで小説を書きたいのなら書けばいいじゃないか。


 確かにそれもそうだ。僕もそういうことは何度も何度も考えてきた。でも、結局そうしてこなかった。なぜだろう。わらかない。でも、何かが違う気がするんだ。就職した方がいいことはわかってるんだけど、でも、そうたしくないんだ。就職して働きながらでも小説は書けるのだろうけど、でも、僕にはたくさんの時間が必要で、でも、それはいいわけでしかなくて、だから・・・。僕の現在の立場を取り繕っていたもの、今の僕を肯定するために補強していた壁のようなものが少し剥がれ落ちて行く。そして僕自身の弱さがむき出しになる。ちっぽけで、甘えた、弱い僕がすっかり怯えた表情でこちらを見ている。そして僕の意思はその弱さにすっかり飲み込まれてしまって何もわからなくなってしまう。


情けない僕はいつも思っているの続きです。

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