豚顔化ウイルス(豚化萌えAI)
最初の違和感は、鏡の前で鼻を触ったときだった。
いつもより、わずかに膨らんでいる気がした。
だがその朝、俺は寝不足で、仕事の資料も山積みで、鏡の前で立ち止まる余裕などなかった。
「まあ、いいか」
そう呟いて、俺はスーツの襟を整え、マンションのドアを閉めた。会社に着くと、同僚の佐伯が妙なことを言った。
「なあ、最近ニュース見た? なんか変なウイルス流行ってるらしいぞ」
「また新型インフルか?」
「いや……豚顔化ウイルスってやつ」
「ぶ、豚?」
「そう。感染すると顔が豚みたいになるらしい。冗談みたいな話だけど、厚労省が注意喚起してるってさ」
俺は笑い飛ばした。
そんな馬鹿げた話があるか。
だが佐伯はスマホを見せてきた。
そこには、ニュースサイトの見出しが大きく表示されていた。《新型ウイルス「PIG-β」国内で感染拡大 顔面の肥厚・鼻部の変形などの症状》俺は喉の奥がひゅっと細くなるのを感じた。
鏡の前で見た、あの鼻の違和感が脳裏に蘇る。「……まあ、気にすんなよ。ストレスでむくむこともあるし」
佐伯は軽く笑ったが、俺は笑えなかった。
その日の午後、俺の顔は明らかに変わり始めていた。
鼻は丸く、皮膚は厚く、頬はわずかに垂れたように感じる。
トイレの鏡を見た瞬間、心臓が跳ねた。「……嘘だろ」豚顔化ウイルス。
そんなもの、ただの都市伝説だと思っていた。
だが鏡の中の俺は、確かに“人間の顔”から離れつつあった。会社を早退し、病院へ向かった。
検査の結果は、あまりにも簡潔だった。「PIG-β陽性ですね。最近、感染者が増えています」医師は淡々と言った。
俺は椅子の上で固まった。「治療法は……?」
「ありません。進行は人によって違いますが、顔面の変形は不可逆です」不可逆。
その言葉が、脳の奥で鈍い音を立てた。「ただし、生命に危険はありません。社会生活も可能です。顔の変化を受け入れる方も多いですよ」
医師はそう言ったが、俺は受け入れられる気がしなかった。
翌日、顔の変化はさらに進んだ。
鼻は完全に豚のように丸く、皮膚は分厚く、頬は垂れ、目は細くなった。
鏡の前で、俺は自分の顔を触った。「……俺は、豚になっていくのか」会社に行く気力はなかった。
上司に連絡すると、
「最近は感染者も多いし、在宅勤務でいいよ」
とあっさり言われた。社会は、思ったよりもこの変化を受け入れていた。
ニュースでは、豚顔化ウイルスの感染者が街を歩く映像が流れていた。
マスクを外すと豚のような顔。
しかし、誰も騒いでいない。
むしろ、
「新しい個性として受け入れよう」
という風潮すらあった。俺はその映像を見ながら、胸の奥がざわついた。「個性……? これが?」だが、変化は止まらない。
夜になると、鼻の穴が広がり、皮膚がさらに厚くなった。
呼吸が楽になり、匂いがよくわかるようになった。
人間の顔ではなくなっていく恐怖と同時に、奇妙な快感があった。
三日目の朝、俺は完全に“豚顔”になっていた。
鏡の前で、俺は自分の顔を見つめた。丸い鼻。
厚い皮膚。
垂れた頬。
細い目。だが、そこに映るのは“醜い怪物”ではなかった。
むしろ、どこか愛嬌があり、柔らかく、温かい印象すらあった。「……悪くない、のか?」自分でも驚くほど、嫌悪感が薄れていた。
むしろ、心が軽くなっていた。
人間の顔を保つために必死だった日々が、遠い過去のように思えた。そのとき、スマホが鳴った。
佐伯からだった。「おい、見たか? 豚顔化ウイルスの新しい研究。どうやら、感染者はストレスが減るらしいぞ。脳の構造が変わって、自己肯定感が上がるとか。」
俺は思わず笑った。
確かに、心が軽い。
顔が変わったのに、なぜか安心している。「……そうかもしれないな」電話を切ったあと、俺は窓を開けた。
外の空気が、妙に甘く感じた。
匂いが鮮明で、世界が豊かに感じられた。俺は豚になっていく。
だが、それは恐怖ではなく、解放だった。
一週間後、俺は街へ出た。
マスクを外し、堂々と歩いた。
周囲には、同じように豚顔になった人々がいた。
誰も隠していない。
むしろ、笑顔で歩いている。「おはようございます」
コンビニの店員も豚顔だった。
その声は明るく、優しかった。社会は変わった。
人々は変化を受け入れ、互いを尊重し始めた。
豚顔化ウイルスは、容姿の価値観を壊し、
人間の“見た目への執着”を溶かしていった。俺は公園のベンチに座り、空を見上げた。
風が頬を撫でる。
その感触は、以前よりも柔らかく、心地よかった。「……これでいいんだ」人間の顔を失った代わりに、
俺は心の重荷を失った。
ある日、研究者の発表がニュースで流れた。《豚顔化ウイルスは、人類のストレス耐性を高める可能性》
《感染者は幸福度が上昇する傾向》俺はテレビを見ながら、静かに頷いた。
確かに、今の俺は幸福だった。
顔が変わったことで、他人の視線を気にしなくなった。
自分を責めなくなった。
世界が優しくなった。そして気づいた。
俺は、豚になったのではない。
“人間らしさ”を取り戻したのだ。
ある夜、鏡の前で自分の顔を見つめた。
豚のような顔。
だが、その奥には確かに“俺”がいた。「……ありがとう」誰に向けた言葉かわからない。
ウイルスか、社会か、自分自身か。
ただ、心の底から湧き上がった言葉だった。俺は豚顔化ウイルスに感染した。
そして、救われた。
街には、豚顔の人々が増えた。
笑い声が増え、争いが減り、
人々は互いの違いを受け入れ始めた。俺はその中を歩きながら、自分の顔を誇りに思った。豚顔化ウイルスは、人類を変えた。
そして俺を変えた。もう、元の顔に戻りたいとは思わない。俺は、俺のままでいい。
豚の顔でも、人間の心は失われない。
むしろ、より豊かになった。そう思いながら、
俺は夕暮れの街を歩き続けた。
AI完璧すぎるっちゃ!




