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宇宙怪獣を裁かないといけなくなった閻魔大王

作者: 悠戯
掲載日:2026/05/18


 ここは地獄の裁判所。

 かの有名な閻魔大王が、死にたてほやほやの連中をバッサバッサと裁きまくる場所である。裁きを受けた死者は罪業に応じて地獄なり極楽なりに送られ、生前の清算が済むまでそこで過ごすことになるのですけれど……。



「閻魔大王さま、私は生前世の為人の為に尽くし……」


「たわけ者め、我が眼を誤魔化せると思うてか! 私腹を肥やすために働いた不正の数々、すべて見通しておる。針山地獄行きだ! 係官、連れて行け!」


「そ、そんなっ、どうかお慈悲をぉぉ!?」


「まったく、つまらぬ小悪党であった。それにしても係官よ、今日の死者の数は普段と比べても随分と多くはないか?」


「ええ、言われてみれば。忙しくて確認してませんでしたけど、現世で戦争か大災害でもありましたかね?」



 普段から忙しい場所ではあるものの、今日はひっきりなしに死者が詰めかけ一息入れるヒマもありません。裁判所の長である閻魔大王やその下で働く職員達は、食事やトイレ休憩すら我慢しているほどでした。


 まあ、この場所が平時より忙しくなること自体は長い歴史の中でも幾度となくあったこと。戦争や流行り病や自然災害など、現世の生き物が大量に死ぬ原因は色々とあるものです。こればかりは仕方がありません。



「では係官、次の死者のプロフィールを……うん?」


「大王さま、如何なさいました? 書類に不備でも?」


「いや、不備というか……」



 裁判を円滑に進めるため、開廷前には次に裁きを受ける者の情報が記載された書類に目を通しておくのが通例。あらゆる罪を見通す浄玻璃鏡じょうはりのかがみという便利グッズを昨今のIT社会に対応すべく改造し、順番待ちをしている死者を映し出すと自動的にA4用紙に印刷してくれるようになっているのです。


 この浄玻璃鏡・改によって裁判所の業務効率は大幅に改善。

 今日は久々の残業を覚悟しないといけないようですが、普段は定時退勤が常のホワイトな職場となっておりました。まあ、そのあたりは今回は特に関係ないのですが。



「なんだ、この……何? トカゲか?」


「ただの動物霊なら珍しくもないと思いますけど、どこか不審な点でもありましたか?」


「ううむ、紙の半分ほどが読めない文字で埋まっておってな、これはどこの国の言葉だ? ペットとして飼われていたが、外来種ゆえ故郷の文字でデータが出力されたというあたりか。写真を見た感じはトカゲっぽいのだが」


「はあ、左様ですか。しかし、しょせんトカゲなら功罪の程度も知れているでしょう。時間も押していますし、早々に裁きを進めるのがよろしいかと」



 地獄の至宝たる浄玻璃鏡とはいえ、元々は想定されていなかった形での使用ゆえか時に思わぬ形でデータが出力されてしまうこともないわけではありません。

 とはいえ、肝心の罪業の程度を見誤ったことは一度としてないですし、便利グッズに頼らずとも数多の死者を見てきた閻魔大王の眼力にかかれば仮に鏡が使えずとも遺漏なし。判読不能の箇所が多い書類については一旦忘れ、直々に死者と対面して罪業を判ずる方針に決まりました。



「では、係官。次なる死者をここへ」


「はっ、直ちに! 次の者は……うぎゃぁぁっ、怪獣だぁぁぁ!?」



 係官が開けるの待つことすらなく法廷の扉をブチ破って現れたのは、本日未明から数時間に渡り現世にて大暴れをした宇宙怪獣ジェノサイドン(三歳、オス)。なにしろ言葉を話せないので名前も現世の人間が仮に名付けたものですが。

 ちなみに先程の書類に記載されていた詳細不明の言語に関しては、恐らく『彼』の出身地である遥か宇宙の彼方の未知の文明圏で使われているものと推測されます。



『アンギャァァアアアアアアアアアア!』


「か、怪獣!? 早く避難しないと……」


「お、おお、おおおお落ち着け! いくら怪獣とはいえ死者は死者。我らが責務を放棄して逃げるわけには……いや、そもそも怪獣というのは動物霊のカテゴリで合っているのか?」



 顔つきこそトカゲそっくりですが、怪獣は全長100メートルを超えるであろう超ビッグサイズ。この裁判所の建物も相当に大きいのですが、先程から頭が天井にガンガンぶつかっては、壊れた建材が雨あられと降り注いできています。



「今日の大入りの理由が一発で分かったわい。こんなのが大暴れしたら、現世の人間などひとたまりもなかろうおおぉおお危なっ!?」



 疑問が一つ解決しましたが、困ったことに現在進行形で起きている問題は解決してくれそうもありません。ジェノサイドン君は三歳児らしいワンパクぶりで鋭い鉤爪の生えた腕や長い尻尾を振り回し、裁判所内の目に付くものを手当たり次第にメチャクチャにしています。先程まではよく大人しく順番待ちをしていてくれたものです。まだ死にたてで意識が朦朧としていたのかもしれません。



「罪状は、ええと、大量殺人に器物破損か。無間地獄あたりが相応しかろうとは思うが……ちょっ、こら、やめんか!? そもそも、コイツを地獄まで連行するのが無理ではないか!?」



 裁判所内の机などを積み上げて即席のバリケードとしていましたが、相手が強大な宇宙怪獣では如何にも心許ないというのが本音でしょうか。今はまだ奇跡的に裁判所の職員に犠牲者は出ていませんが、このまま暴れ続けていたら時間の問題でしょう。



「だ、大王さま!? あれ、あの口のとこ! アイツ、なんかビームみたいの吐こうとしてません!?」


「ああ、どう見ても必殺技っぽいなぁ!?」



 まさに万事休す。

 ただ力任せに腕や尻尾を振り回しているだけで建物が半壊の有り様だというのに、更に高威力であろうビーム攻撃など出されたら全壊は免れません。というか、建物の心配以前に閻魔大王や職員の命のほうが危ういでしょう。


 が、その時。



『シェアアッ』


「また乱入……今度は何者だ!?」



 今にもビームが発射されようかという寸前で、怪獣と同じほどの巨体を誇る偉丈夫が、強烈極まる飛び蹴りでもって強引に必殺技の発動を食い止めたのです。裁判所の壁を外からブチ抜く形でのキックだったせいで風通しが随分良くなってしまいましたが、まあ元から壊れかけていたのを思えば大した違いはないでしょう。



『シャアッ、キャオラッ』


『アンギャアアアアアア!?』



 不可思議な素材の銀色のスーツに身を包んだ巨人は、あれほど強かった怪獣を一方的に殴る蹴る。明らかに互角以上の健闘を見せています。



「ふむ……なるほどな」


「大王さま? なるほど、とは?」


「いや、あの怪獣も現世で死んだからこちらに来たのだろうが、あんなのがどうして死んだのかと思ってな。恐らくは、あの銀ピカにやられたのだろう。あっちもここに来ている以上、正確には相討ちだったのだろうが」



 現世で繰り広げられたであろう一戦目は両者死亡の相討ちという壮絶な激闘だったと推測されますが、この裁判所にて始まったリターンマッチで怪獣側が劣勢なのは、どうやら不意打ちとなった初撃の蹴りのダメージが響いているようです。銀色の巨人が繰り出すパンチやキックが面白いように突き刺さり、そしてトドメとなったのは。



「こっちもビームですねぇ」


「宇宙の連中はビーム好きだなぁ。これで完全に建物が吹っ飛んだが」



 偉丈夫が放ったビーム攻撃を受けた大怪獣は、その場で跡形なく爆散。

 元より魂だけの存在だった者に死はないはずなのですが、特に復活してくる様子もありません。未知の宇宙的要素が本来あり得ない異常な現象を引き起こしているのでしょう。まあ閻魔大王たちも流石にもう怪獣の相手はしたくないので、後腐れなく消し去ってくれて助かったというのが正直なところでしたが。



『フゥ……ショアッ』


「あの銀ピカ、空を飛んで……そのまま、どこか行っちゃいましたね」


「ううむ、我が眼力の判ずるところによると……なんか、生き返ったっぽいなアイツ。あんまり気軽に生死の境を踏み越えられると困るのだが……まあ、今から追いかけて連れ戻すわけにもいかんし。正直、もう宇宙の連中には関わりたくないし……」



 怪獣を倒した銀色の偉丈夫も一時的に死んでいたはずですが、こうも当然の権利の如く生き返られてはもう怒る気にもなれません。それに今はいなくなった連中のことよりも優先して考えねばならない問題が山積みなのです。



「裁判所、完全に更地になっちゃいましたねぇ」


「再建はおいおい進めるとして、当面はこのまま青空裁判といくしかあるまい。我の裁きを待つ者はまだ大勢いるのだ。さあ、気を取り直して次にいくぞ!」



 遠い未来、人類の最後の一人が現世を去るその日まで地獄の裁判所に休日はありません。想定外のアクシデントでちょっぴり風通しがよくなりましたが、裁判所の面々はまるで意に介していないかのように次なる裁判の準備へ取り掛かるのでありました。


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