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S級暗殺者一家の長男に転生したけど、日常的に電流浴びせられるわ飯に毒入ってるわで毎日辛すぎる  作者: 猫養鯛


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7

 五歳の誕生日に致死量の猛毒をプレゼントされ、括約筋に裏切られ人間の尊厳を床にぶちまけながらも奇跡的に生き延びた俺は、その数日後、ある重大な事実に気づいた。


 まず、ヴァルダード家は貴族ではなかった。これには驚いた。というか、ずっと貴族だと勘違いしていた。だって状況証拠が完璧に揃っていたのだ。


 その根拠を挙げていこう。

 まず屋敷が馬鹿でかくて豪華だ。大理石の床は鏡面仕上げで、五歳児の俺が走って滑って転んで後頭部を強打して即死する未来しか見えない危険な輝きを放っている。


 廊下には先祖代々の肖像画が飾られている。

 しかもその全員が、妙に目つきが鋭く、一人も笑っていない。全員が「今から人を殺しに行きまーす」みたいな表情をしている。肖像画なのに殺気がむんむん漂っている。貴族の肖像画って、もっとこう優雅に微笑んでたりするもんじゃないのか?


 他には使用人を何人も雇っている。中でも執事のセバスチャンは完璧だ。五十代くらいの紳士で、白髪を綺麗に撫でつけ、黒いタキシードを着こなしている。いつも背筋がピンと伸びていて、歩く時も音を立てない。


 メイドたちはフリフリのエプロンドレスを着ていて、全員が美人。ブサイクがいない。採用基準に容姿端麗が確実に入っている。面接時に顔面偏差値チェックされてる。


 こんなんどう見ても貴族だ。100%貴族。貴族確定演出。転生ガチャでSSR貴族を引いてる。虹色の光が出てる。


 しかし——現実は、俺の予想を遥かに超える斜め上の方向にブッ飛んでいた。


 ヴァルダード家は、家族ぐるみで暗殺稼業を営んでいたのである。


 財産は、全て合法的とは言えない手段で稼いだものだった。つまり殺しの報酬。血塗られた金であり、人の命の対価だ。


 何を言っているのか分からないと思う。俺も最初は分からなかった。理解するのに三日かかった。そして理解した瞬間、「あ、終わった」と悟った。

 その衝撃の事実を知ったのは、離乳食を終え、俺が家族と一緒に食卓を囲んで飯を食べるようになった頃だった。


「次のターゲットは北の大公だ」


 ターゲット。不穏な言葉で出てくる。


『営業目標の話だよね!? 売上目標の話だよね!? 今月のノルマ達成のために次に営業かけるべき顧客の話だよね!? 「北の大公」って大口取引先のあだ名だよね!?』


「報酬は八千万。悪くない」


『いや八千万て。営業で八千万て。一件で八千万て。どんな商品売ってんの? 家?別荘? 城? いや、城なら八千万は行くのか?』


「例の諸侯、A級の護衛が五人ついている。殺すのは少し面倒だな」


 もう無理だ、認めよう。完全に殺しだ。

 誰かを襲撃する前提の会話だ。最初は冗談かと思った。あるいは俺の聞き間違いか、何かの比喩表現だと。だが、同じような会話が何度も聞こえてくる。父だけではない。祖父も、祖母も、時には母まで、殺しの話をしている。


「今度の依頼は少し厄介ですね。南方騎士団の団長ですって」


「報酬はいくらだ?」


「一億二千万です。前金で半分」


「なかなかいい仕事じゃないか」


 こんな会話が、毎朝テーブルで交わされる。そもそも隠そうともしていない。俺が目の前で毒スープをちびちび飲んでる横で、家族は人殺しの相談を天気の話みたいにさらりとこなす。


 まるで「今日は曇りかな」「夕方から雨らしいよ」くらいのノリで「今日は誰殺す?」「騎士団長」「じゃあ報酬いくら?」「一億」「いいね」って。軽い。軽すぎる。人の命が羽毛より軽い。


 いや、もっと朝に相応しい話題があるだろ。普通の家庭の朝の会話ってもっとこう……「夜は何食べたい?」とか「今日の予定は?」とか、そういうやつ。


 俺の脳内で、勝手に朝食時の話題ランキングが作成された。


『朝食時の話題ランキング発表〜!


 第一位「今日の天気」

 第二位「今日の予定」

 第三位「誰を殺すか」


 って、さっそく三位がおかしいだろ! 普通は「今日の運勢」とかだろ! 


「今日のラッキー暗殺方法は撲殺です♪」

「ラッキーアイテムは鈍器♪」

「ラッキーカラーは返り血の赤♪」 


 とか言い出すのか!?


 星座占いで「獅子座のあなたは暗殺運が上昇中! 積極的に首筋を狙っていきましょう☆」とか出るのか!?


 「今日のあなたは殺人が捗ります☆ 絶好調です☆ ガンガン殺しちゃいましょう☆」


 とか言われても困るわ! 


 なんて、そんなツッコミを入れれば間違いなく”お仕置”きされる。あの地獄のような幻覚魔法をまた味わうことになる。だから俺は黙って毒スープを飲む。

 ちびちび、ちびちび。


 喉が焼け、食道が溶ける感覚。でも我慢。顔には出さない。「美味しいです」って笑顔で言う。そうしないと「まだ毒に慣れてないの? じゃあもっと濃いの飲む?」って濃度上げられてしまう。


 更に恐ろしいことに気づいた。俺が生まれた時のドミナス言葉を思い出す。


 『ついに我がヴァルダード家に悲願の男子が誕生したか! これでヴァルダード家の跡取りが確保されたな』


 跡取り——


 ヴァルダード家の跡取りというのは、暗殺家業を受け継ぐということなのだろう。つまり、俺もゆくゆくは人を殺さなければいけないのだ。


『接客業から殺し屋て。転職サイトにも載ってない職種だろ。履歴書の職歴欄、どう書けばいいんだよ』


 前世では理不尽に殺され、今世では殺す側になる。どっちも嫌だ。


 俺はただ、普通に生きたかっただけなのに。普通の家庭で、普通の教育を受けて、普通に学校に通って、普通に友達作って、普通に恋愛して、普通に働いて、普通に結婚して、普通に老後を迎える——


 そんな、ありふれた幸せが欲しかっただけなのに。

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