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ボクネコ〜奇跡の十日間〜  作者: Mr.ランジェリー


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第2話 ホシイネコ

本日のテーマは欲

翌朝、

パーカーに手を伸ばすと、フードの中にネコが入っていた。

昨日の出来事は、夢じゃなかった。

こちらを見るでもなく、ネコは丸くなったまま、しっぽだけを小さく動かしている。

その重みを確かめるように、フードの縁を指でつまんだ。

「……今日もか」

返事はない。

けれど、確かにそこにいる。

今日もフードを被らずに家のドアを開けた。

フードを被っていないせいか、

いつも微笑んでくれるはずの駅員さんが、

昨日も今日も微笑んでくれなかった。


いつもと同じ作業を終え、事務所に入ると

いつも作業服の社長が正装でトイレへ駆け込んだ。

誰かが、声を詰まらせていた。

いつもと様子が違う。

誰にも、何も聞けず、僕は会社を出た。


いつもの道をぼんやり歩いていた。

帰宅ラッシュの車道の端に潰れた段ボールに目を奪われていると、フードに違和感を感じた。

「ネコがいない?!」

後ろを振り向くと、

ネコはガードレールのポールの上に器用に立ち、

ドヤ顔でこちらを見て、視線を変えた。


「どうしたんだよ。」

と、ネコの視点の先に目をやると、ガードレールの

前で少年が段ボールを抱え、泣きながら呟いた。


「ごめんね…。」

段ボールの中には子猫。


次の瞬間、ネコはガードレールの上から軽い身のこなしで、少年の方へ向かい、少年の足に擦り寄った。

昨日と同じ空っ風が吹き抜ける。

ネコはガードレールの上に身を戻した。

目を閉じる暇もなく、

視界が、また金色に染まり、ビジョンが流れた。


ーー数時間前。

学校からの帰り道、

電柱の影に置かれた段ボールを見つけた。

中には、小さな猫がいた。

目も、まだちゃんと開いていない。

「……え?」

周りを見回す。

誰もいない。

抱き上げると、驚くほど軽かった。

そのまま、家へ連れて帰った。

玄関で靴を脱いだところで、母に見つかった。

「それ、どうしたの」

「……捨て猫」

少しの沈黙。

「返してきなさい」

即答だった。

「飼いたい」

そう言った気がする。

でも、声は小さくて、

自分でも本気かどうか分からなかった。

「本当に飼いたいの?」

理由はいくつか並べられた。

全部、正しい気がした。

「……どっちでもいい。」

気づけば、そう言っていた。

「どっちでもいいなら、もとに戻してきなさい。」

——元の場所に戻す。

段ボールを置いて、

中を覗く。

猫は、鳴いていた。

「ごめんね…。」


ビジョンは消え目の前に猫と少年がいた。


また、胸の奥がじんわりと濡れた。


「僕もあったよ。全く同じ出来事…」


その時、猫はもう一度少年の足に擦り寄り、

再びガードレールのポールの上に身を乗せ、

ドヤ顔が金色でボヤケていった。


この後の少年

「ごめんね…。」

と残し、その場を立ち上がった。

でも、その少年の腕の中には子猫がいた。

少年は家に帰り、

母親に同じ事を言われる。

「返してきなさいって言ったでしょ!」

少年は、黙ったまま、玄関に立っていた。

しばらくして、

もう一度、口を開く。

「……欲しい。 ちゃんと面倒見るから…」

声は震えていた。

母は、困った顔をした。

凍てつく空気に猫の小さな声が重なった。

母はため息をつきながら優しい視線を猫に置いた。

「ちゃんと世話できる?」

少年は、何度も頷いた。

勇気を出して、選択した言葉が、

少年の顔に"笑み"を添え、

少年は笑顔を絶やさなくなった。


胸の奥が、また濡れる。

次の瞬間、

別のビジョンが、重なるように流れ込んできた。


瑞生の時の翌朝。

登校中、

昨日の道を通ると、

段ボールがなかった。

代わりに、

道路の端に、潰れた段ボール。

車は、何事もなかったように走っている。

赤い染みが、

アスファルトに広がっていた。

胸の奥が、きゅっと縮んだ。

でも、立ち止まらなかった。

立ち止まることが出来なかった。


「僕も、本当は飼いたかった…

 あの時、ちゃんと欲しいと言っておけ…」


「ニャーーーーー!!!!」


「ドンッ!!!」


「???!!!」


空っ風がビジョンを掻き消した。

現実に戻ると、

目の前に、さっきの少年はいなかった。

足元には、ガードレールの上から落ちたネコがいた。

「太ってるのに無理するから…」

気のせいか、

昨日よりも、

毛並みが少しだけ濃くなっているように感じた。

「……欲しい、か」

声に出してみると、

胸の奥が、少しだけ痛んだ。

ネコは僕を見つめ首を傾げた。

ネコは、何も言わない。

また、フードの中へ戻っていく。

その重みは、昨日より確かだった。

歩き出しながら、

さっきの箱を思い出す。

風に飛ばされたのか、

車道に転がっていた、あの段ボール。

赤い染み。

見なかったことにした、あの朝。

「どっちでもいい。」

その言葉が、

今さら、喉に引っかかった。


「僕、1度猫とお風呂に入りたかったんだ。

 いいよね?」


「ニャッ?!」


言葉が空に舞っていく。

フードの温もりに背中を押され、一歩踏み出した。

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