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ハレトケ  作者: 鞘塚菊丸
8/12

第八話

(こいつらは一体何がしたいんだ)


 今までのやりとりを見てハルケの感想はあくびが出てしまうほどのものしかなかった。否、実際にあくびをした。現在体という実態がない中、あくびをする、つまりは自身に眠気があることにハルケは驚いた。かなり呑気なことを考えるハルケはおそらくここが戦場だと認識していないと言っても等しい。

 しかし、ハルケがそう考えるのもおかしくはなかった。

 現状、ダングライの応援へ行くようにお願いされた身だというのにこの有様というのは少々納得のいくものではないのだ。

 それははるけだけではなく、コーマツやセイも同じ考えだそうでコーマツがはじめに口を開いた。


「それなら私たちはこの戦争を第三者の目で見るようにしようじゃないか」


 コーマツは鞘に刀をしまう。


「ただ、お前たちのせいで帰れない。その落とし前だけはつけてもらおうか」


 ダングライの兵士たちは鼻で笑ってコーマツの話を聞く。


「何? 俺たちはただ、敵と思った奴らを敵として扱っただけダ」


 そこでマムシが一歩でる。マムシの眉間に皺がよる。


「本当に敵だと思っただけで船を燃やしたのカ? それにダングライの民とは思えないほど無礼ダ。どこの地方のもんダ」

「黙れ、あの国に行ったお前は祖国を裏切ったも当然なんだ。お前に無礼さについて言われる筋合いはなイ」


 他国と他国では文化が違うためか、それとも習慣が違うせいか、言語が違うせいか、何を言ってもこの兵士らの顔にハルケが望む顔は浮かばないのだろう。


「それデ? 船を失ったお前らはどうすル? たったの四人で来たお前らがそのまま首都へ行ったらそれはそれは敵としてもてなしてくれるだろウ」

「どうもこうも、帰るさ」


 セイ。

 

 一人の女性をコーマツが呼べばセイは一人の細身の男を連れて来た。


「うえぇ、ぐすっ、この中で一番偉そうな人、正真正銘の、ぐす、連れてきましたぁ、うぅ、怖いぃ」

「嬢ちゃん、そんなに泣かないでくれよ……、悲しくなるから」


 そう言って男は八の字に眉を寄せて困った顔をしてみせた。

 

「おい、そこの兵士、この軍服から見るにこいつらは例の国からの使者で間違いなさそうだ」

「……そうですカ……」

「お前らは戦争が終わった後にきっちり鍛え直してやろう。それよりもこの使者たちを我らダングライ第参軍基地に案内しろ」

「……はイ」


 不服そうに案内をテキパキとこなし始める揉めたあの兵士たちはまぁまぁ滑稽で、漁はケラケラと笑った。揺れるカンテラの灯火は小さな赤色で揺れるたびにそれは穏やかに揺れた。


「そこの灯火を持ったにいちゃん、この先は敵に場所を知られちゃ行けない場所だからその火を消してくれないか。もしかしたらその火が目立ってあいつらにばれちまうかもしれねぇから」


 漁はハルケの入ったカンテラをジィッと穴が開くくらいに見つめた。

 そしてニンマリと笑う。


(こいつ……)


「はぁいぃ」


(やっぱり)


 そこにおいてくれ、と指示が出された場所に指示通りにハルケを漁は岩の上に置いた。


「後で取りに帰って来るからいい子でいなよぉ」


 猫のように笑えば軽やかなステップを刻んで男に漁はさっさとついてってしまった。


(くそ……一人かよ……)


 この戦争について何もと言ってもいいほど知らないハルケはもしやあの男のいう知られては行けない場所で情報収集ができるのではと密かに期待をしていたのだが、それはキッパリと裏切られてしまった。

 ハルケの脳裏にゴメェンとかわいくもない顔で謝る若者の顔がくっきりと映し出され、ハルケは内心ムッとしながらも静かに灯火としてその場をほんの少し、その場を照らしたのだった。

 

 ハルケを一人残した彼ら四人というとそれはそれはハルケのことなど心底どうでも良さそうに周辺地域の地図を囲んでいた。現在四人がきていた場所は敵国の陣営からおよそ山を三つ越えた場所に位置するそうだ。緑で埋め尽くされた山といっても一つは火山という。噴火をする恐れはないもの、その火山は登ることが現在できないそうで敵がこちらに向かってきたということはその火山周辺の道をなんとか見つけてきたということが推測できる。


「味方の数は?」

「ざっと一万というところでしょうか」

「少ないな」

「元々は六十万人いましたが敵国の謎の武器によって半年で半減、さらに一年で一万人しか残りませんでした」

「武器、というのは?」


 細身の指揮官である男は両手で顔を覆うと武器を見た時の状況を思い出し、汗をどっとかいた。

 

「見えませんでした」


 見えない。

 

「見えないとは具体的に教えてもらいたい。物理的に見えないのか」

「物理的に、なのでしょうか。初めて見る武器ということには変わりないのですが何か球のようなものを筒状のものに入れて火をつけて球を発射させて戦っていました。発射までにかかる時間は少なくとも2、3秒ほど。一人では戦うことが難しいのかそこら辺に転がっている敵国の死体を肉壁にしていました」


 コーマツは「ほう」と一言顎を触りながらいうと地図をもう一度眺めた。


「現状この(不潔な猫)がいうにすぐ近くにある山を敵国が降ってきているそうだが。それに関してはどう思う」


 男は言葉が出てこないのか口ごもる。


「……ここには総力一万人のうち三千人しかおりません」

「君主様からの情報によれば首都はもう敵国によって弾圧され、残っている場所は数少ないと聞くが残りの七千人の兵士はどこにいる」

「この国の首都はそこまで大切な物ではありませんので、我々は特別地域区域を守れればそれで十分なのです」

「其方はその特別地域区域に残りの七千人がいると申したいのだな」

「……えぇ。そうです」

「ちなみに敵国の兵士の数は?」

「推定十万人かと」


(これはダングライが舐められているということか……? それともその特別な武器の使用者のみを確認した結果自然とそうなるのか……?)


 コーマツは頭を悩ませた。


「漁、あとどのくらいで敵軍は攻めてきそうだ?」

「あと、まぁ、三時間というところかなぁ」

「そうか」


 時間さえあれば地面の中に火薬でも詰めて爆発させる、つまりは罠を予め貼っておき、そこからじわじわと潰していこうとコーマツは考えていたが時間と現場にいる人数のことを考えればそれは不可能という現実に突きつけられた。残る道といえばもう互いの剣が混じり合うことしかコーマツは考えつかなかった。しかし、話を聞くかぎり、相手は未知なる武器を使って戦ってくるとなれば、ましてや遠距離戦に向いた武器であればこちらが圧倒的不利なのはコーマツの頭でも考えられた。

 顎に手を当て、コーマツが中心に立って考えれば、セイはまたグスグスと泣き始めた。


(この場で泣くのは流石にやめて欲しいな)


「どうした、何か不安なのか」


 コーマツが声を和らげてセイに声をかけるとセイはひぃと小さく怯えた。


「音がするわ……怖いっ、ぐす」


 世の中の女は強いというがセイという人間はどうだろうか。

 一般的に家を守る役目を持つと言われている主婦は夫のどんな些細なことに対しても小言をいうものらしい。子供が誰かに攫われそうになれば身をていしてでも守り抜くという。それは主婦だけに限らず、若い娘でもそうだ。自分の利益になるものをどんな力を使ってでもぶんどろうという精神を持つ。しかし、セイはそんな主婦のような女性でも、若い娘特有の精神を持っているわけでもない。

 しかし、女性とは案外強いもので、男性の見ていないところで何をしているのやら。

 セイは腰に持っていた扇子を広げると顔を隠し、扇子の要をギュッと力強く指先で押すと怒りを露わにした。


「あぁ! 本当に男の人って野蛮! 特に不細工は身にまとう空気でさいえ汚いんだわ! 武器の扱いもなっていない!」


(……また始まった)


 コーマツは呆れた顔でセイをみればいつもの事だと言ってもう一度地図を見た。

 しかし、セイの暴走は止まらない。


「コーマツ! コーマツ! 美形のあなたなら不細工達の居場所がわかるはずよ! どこ!? どこなの!?」


 セイとコーマツは歳が離れているものの互いに面識は一応とはあった。ただ、互いに第一印象との格差に無事、やられてしまった結果、セイのことを一方的に、またはセイもコーマツのことを一方的に知っていることとなっている。


「不細工は生きている価値なんてないのよ! あぁ、また不細工達が争っている音が聞こえるわ! 音まで不細工だなんて!」

「なぁ、このおねーさん、どうしてここまで不細工を嫌ってんの? てか不細工っていうの何回目? 流石に全国の不細工さんが泣いちゃうよぉ」

「お前は美形だからその発言ができるってこと忘れるなよ」


 コーマツに美形と言われたのが嬉しいのか漁は分かりやすく喜んだ。腰をくねくねと躍らせている。


「こいつはまぁ美形がこの世で最も好きな人間なんだ。だから、そう、うん……」

「メソメソ女にしてはすごいギャップだな……」

「ところでセイ、音が聞こえたというのはどういったことか説明できるか」


 セイは叫ぶのをぴたりとやめればコーマツの方に向かって扇子の先を向けた。扇子からはセイの殺気が籠りにこもっている。


「その言葉の意味よ、この不細工が言っていた武器と思われるものでこちらを山の中から攻撃してきているの。球といっても速さがあって風を切る音がここからするわ」

「漁、先ほどの山の位置は……」

「北北東だな」

「では軍にまず___」

「ちょっと待て」


 一人の若い兵士、それも一番最初に四人を敵と勘違いしていたものが近づいてきた。


「いくらなんでもどうして他の国の奴らに指揮を取らせてんだ。おかしいだろ」


 

 それはそれは正論が来たのだった。

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