第七話
本来、ハルケの国は滅多に外交をしないことで有名だ。そのため外国からの情報などハルケの国には一切入らなく、外国について興味を持つ国民はゼロと言っても過言ではない。ハルケのクラス国は実質自分さえ良ければそれでいい、という考えのもと国民が日々生活をしているからだ。他国のことなどたとえ戦争で近隣の国がいざこざをしていたとしても戦争をしているんだぐらいの感覚でしかない。
しかし、今回は違う。
「実は我の母国が今回宣戦布告されちゃってねェ。我の皇帝様が直々にお願いして戦場にきてもらうことになったんだヨ」
「ちなみにこいつの出身は『ダングライ』だ」
ハルケは火の先端を横に曲げる。首を傾げさせるのと似ていた。
「『ダングライ』はこの国と唯一貿易をしている国だネ。詳しいことは国のお偉いさんしか知らないけド、互いに孤立している国同士仲良くしてるってうちの国では有名だネ」
「ちなみにこいつは今この国に留学中のダングライの軍人みたいだよぉ」
猫のような口でケラケラと漁は笑いながら話す。口には魚を咥えながらというのに器用に喋る漁にハルケは関心する。
「国に帰れないことを哀れに思った君主様が我に『調理師』としてこの軍隊に入れるように手配してくれたんだヨ。間を見て国にこっそりと帰ればいいっていってくれたんダ。なんともあの国の王は寛大な心を持ってて感心するネ」
「そうだ、君主様は神なのだ。すごいのだ。もっと崇めよ」
(どうしてそこでコーマツさんが誇らしげにするんだろうね)
ここでハルケが不思議に疑問に思う。
「マムシさんはどうしてこの国に留学してきたんですか? 何をお勉強してたんですか?」
僕、気になります!
可愛らしくハルケがおねだりをする子供のような無邪気さを見せるとマムシは「かわいいねェ」とハルケの頭を撫でようとすると案外熱かったのかサッと手を元の位置に戻した。
「んー、子供には少し刺激が強いから我からは何も話せないネ。ごめんネ。知りたかったらそこの美女か堅物イケメンに聞くがイイね」
「コーマツだ、覚えとけ」
(話してくれないか)
ハルケはこの会話を通して改めて自分の今後進むべき道を決めようとしていた。
一つは海外へ逃げるようにしてのんびりと生活を送ること。
二つ目はこのまま戦争の様子を眺めて終わったら元いた国に戻って体を取り戻すこと。
ハルケ自身一つ目の考えの方が現実的だと考え、他国の話に食いついたのだが思うような情報が出ず、諦めざるを得なかった。情報がない中、新しい環境で生活したいなんて熊の群れに赤ん坊を放り投げるのと同じ行為である。
ハルケはそっと溜息をこぼす。
「そろそろ陸が見えてきた。最後に飯でも食べるか」
コーマツはそう言って一枚の木の皮と水を持ってきた。それはそれは土の匂いがしてまだ採ったばかりというのが察せられる。舌を出して食べたくないと顔に出す漁に反してコーマツとセイは何も言わず水で木の皮を洗う。
「ソレ、なニ?」
「牛蒡」
一般的に想像されるのは一つの棒のような見た目の土色の木の幹みたいな少し硬い食物繊維豊富なあの野菜。それに反してこれは木の皮としか見られないような見た目をしている。加えて細い。
「文句を言いたい気持ちはわかるが、食料の供給が少ない今はこれで我慢しろとの命令だ。我慢したまえ」
コーマツが一口食べればいつも通りの味にいつも通りの音がする。
互いにまずいと思っていても決して口に出さない黙食の時間はハルケにとっては苦痛そのものだった。
「……ハルケは食わないのか」
「はい、僕は何も口にすることができないので……」
「かわいそうだねぇ」
漁はガハハと笑って懐から魚を取り出す。それを生でヒョイっとなげ、頭から豪快に噛み砕く。骨まで食べるそうだ。魚特有の生臭さが漁の口から広がる。
「う、お前その魚どうした。食糧は牛蒡のみと決められてただろう」
「これは僕の自腹で買ったものだからねぇ。いいんだよぉ。欲しいの? もしかして欲しいの? あげなぁい」
「別に欲しくはないわ!」
(愉快な人たちだな)
どうやら牛蒡では腹がもたないらしい。セイがハルケにこっそりと教える。最近侵入者による畑や港での荒らしが多く、そのせいで十分な食料を得るのが難しいだとか、元調理師たちに食料を取られて大変だとか。とにかく国は今食に飢えてるいるという。
「あ、そろそろ着くネ」
錨を下ろし、船からハルケが下を見下ろすとハルケの馴染みの無い衣服を身につけた男の集団が待ち構えていた。
「あ、ハルケぇ」
漁がハルケを呼んでは捕まえ、一つの箱の中に入れる。硝子でできているもので外の様子がよくわかるようになっていた。どこか外国のもののようだ。
「これ『カンテラ』って言うんだって。侵入者達を拷問した時に拾ったやつなんだぁ、こんなかに入ってなよお前。火がうろついてたら普通怖いだろぉ?」
(窓ばりの牢獄に入れられた気分だ……)
「子供は静かにしてろよぉ」
船から降りると思っていた通りに男の集団に囲まれた。
「あー、みんな久しぶりだネ」
最初に声をかけたのはマムシだった。マムシが陽気に片手をあげて挨拶をすれば集団の一人が前へ出てきた。
「貴様ら、どこの国のものダ。まさか敵国のものか」
「それで敵国のものですって答えるバカがどこにいんのさぁ」
わざとなのか煽るようなことを言う漁に誰もが警戒をする。集団のもの達は重そうな鎧と剣を両腰に付けていた。鎧の隙間から見える布できた服は返り血のせいかそれとも自分の血なのかわからないほど赤かった。
「我らは君主様の命令より来た『調理師』だ。今回の戦争にてダングライの助太刀に参った」
コーマツの堂々とした構えに負けをとらむまいとさらに両手で剣を抜き始め、本格的な構えを取り始める。これはそのうち血の海ができてしまう。
「こちらも随分と舐められたものだナ。まさか料理人の奴らが戦場に来るなど馬鹿げてるネ」
正気のない目でコーマツを襲うもコーマツがさらりと剣を避けてしまう。
確かに調理師と言えば一般的には食事処などで料理をする人のことを指す言葉であるが、コーマツやハルケの知る調理師といえば軍隊的な意味が強い。
(ここで食い違いが起きるのは避けたい)
現在の状況的にここは戦場ということには変わりない。変に相手に誤解され斬り合いとなったところでどちらにも利益が出ない。むしろ傷を多くしてしまうことでダングライの勝率が下がるのは最も避けたい。
そしてハルケを除くの調理師四人の中で一人でもかけてしまったらそれこそ今後国を守るものがいなくなってしまう。それは君主という絶対的な支配者からしても国民からしても惜しいことだろう。
(まぁ俺は最悪逃げれるから黙ってよう)
「特にお前、誰ダ?」
偉いやつ奴なのかそれとも三流なのかがわからない。しかし彼はマムシを指さしては見下すように鼻で笑う。
「お前みたいな綺麗な顔の奴、この国にはいねぇナ。さては赤線からのはみ出しものカ? 戦場にある意味染っちまうネ」
どっと笑いが止まらない先ほどまでとは違う雰囲気にハルケは違和感を覚える。
(とにかくマムシさんを蔑むことを言っているのは間違いないが、綺麗な顔をしてるだけでそこまでいうか、普通)
「うわー下品な言葉。子供が聞かせたくない言葉ナンバーワンだネ」
それでも笑ってるマムシを見てハルケは何か胸に引っ掛かるものを覚えた。
「とにかく我達は君たちと共闘するためにここに来たのサ。そう身構えないでくれよ。それに見てよあれ」
マムシはひとつ山の先を指差した。一列の旗を掲げた軍隊がこちらに向かってくるではないか。手には見たことのない武器を持っている。行進というにはあまりもずれた歩幅で歩いてくる彼らはなんとも不気味だった。
「こっちにあと六時間したら到着ってところだネ」
(……マムシさんは目がいいのか)
「そうか、わかった。なら君たちが私たちを信頼してないこの状況で一つ聞こう。其方は私たちに共闘してほしいという考えなのだな?」
コーマツの問いには誰も答えようとしない。
コーマツはそれにハッと鼻で笑った。
「なんと志のないこと。国を守りたいがために私たちを呼んだと聞いていたがこの低落、さすがは人じゃない動物だ」
「あ、う、コーマツ、言い過ぎ、ぐすっ」
「なんか血の匂いもして臭いしねぇ」
マムシは何も言わなかった。またはいえなかった。
(確かに、こいつらは人じゃないな)
ハルケがうんと頷き共感すればマムシは揺れる火を虚ろげに眺めた。
(確かに、コーマツ達のあの国はあの国に住む国民以外を人間として扱っていないからこの反応も頷ける、けど……)
実のところマムシ自身、なぜこのようにダングライ側からも否定されている存在なのかが理解できていなかった。
(確かに我は綺麗な顔してるけど……)
それだけの理由だけで果たしてここまでいうだろうか。加えてダングライのものだというのにコーマツ達の顔を見るなり敵国だと判断するあたり何かがおかしいのだ。
そこでマムシはハッと気づく。
(もしかして__)
しかし時はおそかった。
「そこまで俺たちダングライのものをたすけたいというならその船の荷物、全部置いてきな」
一つ、爆音が響く。同時に火薬特有の木を焼きつける匂いがあたりに漂った。
「ダングライとお前達の国の貿易を人間のすることじゃないっていう意見でいっぱいだぜ、自称人間」
白い煙が縦に高く上る。
そこでセイが大いに泣いてしまった。
「あぁ、あっ、あぁあ」
セイが船に周りにとめられながらも近づくとそこには燃えてしまった食料箱があった。
船はボロボロに崩れ落ちれ、海の底へと落ちていく。
ハルケは黙ってそれを見ていた。
(やっぱり____)
マムシはキッとダングライの兵士たちを睨んだ。そして思うのだ。
___決してこいつらはマムシの誇るダングライの民ではないということを。




