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ハレトケ  作者: 鞘塚菊丸
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第六話

「あ、死んだ」


 男の声はハルケの無様な心臓を貫かれた傷口を指さしてその場に響く。

 そしてハルケの生気のこもっていない瞳を確認すると頭を掴んでそこから少し離れたところに投げ捨てた。

 男は女を抱き合うような影を作り上げると愉快に笑った。


「__に触れた罰だ。この虫ケラが」

「__、今、何をしたの?」


 女にはハルケの死体が見えていないのか戸惑いの声を男に向けた。


「んー、そんなの__は気にしなくていいよ。さ、家へ帰ろう」


 男と女の影はそうして消えていった。

 山の中に取り残されるハルケの死体。傷口からは一滴も血が出ないが心臓部分がやられてはもうハルケは人形の如くその場にとどまることしかできない。


「お、死んでるなぁ」


 今度はまた別の男がハルケの前に立つ。今度は影も気配さえもない。


「ごめんねぇ、あの子が殺しちゃったみたい。流石に一炊家の子でもこんなことされたら死んじゃうよね」


 呑気そうにハルケに向けて話すも死体は返事をしない。


「そうだ! 死体は返事をしないんだった! うーん、なんとかしたいけど、君、僕を裏切った家族がいるよね?確かトモル君、だったけ? えーどうしよう」


 あわあわとした表現が似合う口調をするその声は男か女かさえわからない。


「でも、君は何も悪いことしてないよね。ちょっと顔が整ってて……」


 ハルケを何かで揺さぶり、仰向けにする。


「うっわ、美人だ! なるほど、なるほど。トモルが君を殺せないのも頷けるなぁ。こりゃ、天罰が降るわー」


 霧の中から手が伸びる。


「でも、ここは神の領域。そこに自ら入った君も悪い。だからそれの罰は受けてもらうよ」


 腕は女性のようで手は男性のようにがっしりとしている。

 その手の中にあるナニカを片手で握りしめればそれは粉々の砂糖のようになり手からこぼれ落ちてはハルケの口の中へ。ハルケの身体中の管にその粉が侵入するとハルケの体がその場に根付いた。


「確か神の子は十歳までだったよね。多分君は十歳以下だから……うん、きっと大丈夫だね! あとはそれに耐え切って貰えば君はまた肉体を取り戻せるよー」


 すると霧から現れた一つの灯火。

 

「えーと、今きみの体は僕が預かってるよー。それできみの心?精神?はこの灯火ね。うん。あと何年かすれば君の体は君の心にあったそれはそれは美しー体に成長してまた合体して元通りになるからねー」


 灯火がゆらゆらと揺れる。


「それまで? そこでじっとしてくれればいいよ。なんかあったら後でここにくる奴らに任せるし」

 

 灯火が激しく燃える。


「大丈夫! 今の君は精神的には成長できるようになってるし、なんなら怪我もしなよ! 君の心が動いてる限りその火は燃えないから安心して!」


 灯火は激しさを抑え、再びゆらゆらと揺れる。


「後で僕の例の部下たちがきてくれるはずだから君を保護してもらうように言っとくね」


 それじゃ、僕はもう行かなきゃ。

 そう言って声の主はハルケの体をそっと地面から浮かせる。おそらくハルケの体を安全な場所に戻してくれるのだろう。


「あの子たちにも事情があるから、どうか許してやってくれ」


 そう言って声の主は完全にどこかへいってしまった。

 すると三名の調理師の服装をしたものがハルケの前へ現れた。


「これが戦争用の火の代わりか?」

「その割には釜戸で使う火よりも小さいぞ」

「霧晶山の火なんだぞ、きっとすごいに違いない」


 そう言ってハルケの()を木の枝で移すと小さな木箱に入れた。


「おい、燃え移らないのか?」

「なんでも君主様が木箱でと言ったそうだ」


 残りの二人が黙ってしまう。

 そのまま三人は山を降りていった。

 三人は軽い木箱を船に乗せるとまるで食料と大して変わらない価値があるもののように扱い、船を出航させる準備を始めた。船には総勢四人。木箱を運んできた三人は全ての木箱を置き終わるとホッと息をつき、その四人に対して深くお辞儀をした。


「調理師の隊服を期させていただきありがとうございました」


 うむ、と四人のうちの一人が満足げに頷く。


「我らに君主が直々にご命令されたからな。感謝は我らではなく君主にするがよい」

「さすが我らの君主様! こんなこと今まで生きていた中での一番の自慢話になります!」

「あぁ! 君主様!」


 万歳。万歳。万歳。


 木箱がその声の空気の気圧に負けたのか少し揺れる。木箱の中ではまだハルケの灯火は揺れていた。


「さぁ、我らはそろそろ出港するゆえ、其方達はすぐにこの船から降りたまえ」


 三人は満足そうに頷くとそのままそそくさと船から降りていった。


「やっぱり素直な人を見るのは気持ちがいいなぁ。僕、まだこの国にいたいよぉ」

「……君主様の言葉は……?」

「『絶対』」

「いいな」

「はぁい」


 軍服に首輪をつけた者がじっと揺れた木箱を見つめる。


(あの木箱、なぁんか変な感じがしない? 食糧じゃなさそうだしぃ)


 猫目と似た開いた瞳孔で木箱のかすかに動いたことを察知する。

 木箱の木材と木材の間を必死に見つめ赤く揺れるものに気づく。


(……あれは、火?)


 今すぐ仲間に知らせたほうがいいのか横目で他の三人を見つめるが他三名の表情を見てすぐに話す気が失せた。

 なぜならここに集められた四人は調理師として残された唯一をかき集めてできたものだからだ。

 トモルという元調理師による裏切りにより三名以外の調理師の三分の二はトモルととも行ってしまい、残りの三分の一は全てトモルという存在によって消されてしまった。まだ裏切られたことに関する情報は解体師一部と調理師三名の中でしか情報は共有されておらず国民に知られるとまずい。かといって速達お仲間に対して良い印象を持っているものは誰一人居なかったのだった。

 そんな奴らに自分の考えをポンポンと言えるのかといったらいえないはずだ。

 

「出航まであと十分かぁ。暇だねぇ」


 クワァ、と首輪の者があくびをする。まるで猫だ。


「お前は本当に君主様への忠誠心があるのか? 先ほどからあくびをするや残りたいなど無礼な仕事中では考えられないことをしてばかりではないか」

「逆に君たちは仕事人間すぎるんだよ。僕は君主様にはちゃんと忠誠は誓ってるし、あぁ言わなきゃわかんないか。そう、僕が忠誠を誓ってるのはあくまでも君主様だけ。君じゃない」

「貴様……」

「ごめんねぇ」


 ニタリと笑う様子さえクズの一環のように見える。

 その会話を聞いてなく女性が一人。


「何? メソメソしないでくれる? 気持ちわるいぃ。雰囲気悪くするじゃん」

「おい、貴様は___。どうした? 何かあったのか?」


 女性は何か話そうとするも泣き声で何も聞こえない。


「あ、ねぇねェ。我ここにいる人達のこト何も知らないから名前くらいそろそろ教えて欲しいなァ。さっきその可愛い子ちゃんに聞いても名前教えてくれないしネ」


 ちょうど鼻につく雰囲気をただ寄せる男性が手をひらひらとさせながら片手で髪をくるくるといじりながら近づいてきた。


「あ、我は周りからマムシって呼ばれてル。よろしくネ」

「私はコーマツだ」

「うあっぇ、うぐ、ぐす、セイです」

(スナドリ)でぇす」

「ハルケ」


 ハルケ、トモルの弟。

 四人がキッと振り返る。


(トモルの弟クン……!?)

(部下の仇__!)

(うわぁああああん!!)

(裏切り者の__!)


 火、だった。


 メラメラと優しく揺れる火から発せられた声。まるで妖術でも使っているかと思わせる見た目。

 誰もが生き霊かと勘違いされそうになるその見た目からは想像できないほど気だるけな態度だった。


「そろそろ出航しなくてもいいの? あと五分で出航だよ。四人だけなんだ」


 火はフラフラと周りを見渡す。食糧部屋があってそれぞれの部屋と見られる扉があって何よりもハルケの知らない木像作りになっている。


「どこに行くの?」


 誰も答えない。

 ハルケが近寄ると誰もが構える。


(俺が兄さんの弟だからか……?)


 共有されていてもおおかしくないとハルケが推測すると例の口調で喋り出した。


「お兄さん達、この国から出てどこ行くの? 僕、知りたいな」


 またしてもどこにも動かない。そこでハルケが目に入ったのは一人の隊員。メソメソと泣いてばかりいる女だ。


「セイさんはなんで泣いてるの? 大丈夫?」

「ヒヤァぁぁァァァ、近づかないでぇぇぇ」


 周りから見れば妖怪と思われるものが泣いている女性に近づくのはどう見てもこのあと女性を襲おうとしている図にしか見えない。

 そんなことハルケには想像もできなかったのか


(なんか怖いことでもあったのかな?)


 と一度鏡を見てこいと言いたくなる感想した抱いていなかった。


「お前、どこからやってきた。ハルケといったな。返答次第では殺させてもらう」


(これはここまでも情報は共有されていたと言うことであってそうだな)


「僕ななぁんにも知らないよ。知らない人にこの姿にさせられて困ってたらここに連れてこられたんだ。だからどうすればいいのかわからなくて、お兄ちゃんにはどっかいっちゃうし、僕どうすればいいのかわかんなくて、コーマツさん、助けて」


(我ながら子供らしい)


 子供というのは純粋なためよく平然と真実を口にする。自分が見たまんまのことを言う。ハルケは弟達の口調を真似しながら生きていた弟達のように助けを求める。自身が火の姿になっているのは百も承知だが顔がないだけまだマシだ。声の使い方によってはいくらでも人を騙せる。

 実際にコーマツという男はたじろいでいる。


(火がしゃべっている……? しかも子供? 助けを求めている? 私たちを裏切るつもりはないってことか?)


「きっと君主様がこの子をここまで連れてきたのね!」


 セイが先ほどまでの涙を流していない人物とは思えないほど生き生きと声を上げた。


「なんて慈悲深いお方! さすがだわ!」


 ハルケに近づきセイは耳に髪をかけて話しかける。


「私たちはこれから戦場に、他国に行くの。戦争を早く終わらせて君主様とこの国の人々を助けるためにね」


 ついてきてくれる?


 セイの先ほどまでの違う雰囲気に周りが息を呑む。

 泣いた後の目元さえ色っぽく見えるこの女はまさに魔性の素質が見受けられる。

 ハルケが四人を見渡せば確かに格好からして特徴的な者が多い。

 戦場に行く、というだけでハルケが無事に帰ってこられるかはわからない。ただ、この四人についていかなければハルケが今後どうなっていくのかの未来は見えない。


「うん、お兄さん達について行けば安心だよね」


 ハルケは何も知らない無垢な子供のままでいることにした。


「わかった、では出航するとしよう」


 コーマツの言葉に元気よくうんと頷けばハルケの火がひとまわり大きくなったのだった。

https://www.pixiv.net/artworks/136151200


↑今回登場したコーマツ、セイ、漁、マムシのお顔の資料を投稿しました。

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