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お宝発見

 明智君の視線の先に、私も視線を移すのは自然のことだろう。

 おおー! こ、これは……。

 私が、いの一番で声を大にして「これだー!」と言いたいところだけど、明智君が許してくれるはずがない。たまたま目を逸らした先の、明智君の身長の高さにあっただけで、見つけたくせに。もし私が明智君と同じ身長だったなら、この部屋に入ってすぐ……いや、入る前から気づいたかもしれない。

 負け惜しみを言ってないで、明智君に花を持たせてやるか。言うまでもなく、一番の功労者は、私だけどな。私がこの部屋に着目しなかったのなら、永遠に見つけられなかったのだ。これは負け惜しみではなく、事実だ。

 ただ、私は、手柄をひとり占めするような、人でなしではない。それどころか、なんなら明智君だけの手柄にしたいと思っている。だけど、明智君を甘やかしすぎると、明智君のためにならないから、公平に表しておくか。数字で言った方が分かりやすいな。私98パーセント、明智君1、5パーセント、明智君0、5パーセントの手柄だ。

 え? 阿部君は何もしてないだろって? 私の空耳だよな。そんな事を言うやつはいないと信じているが、もしいるなら、命の保証はないとだけ言っておこう。私では……明智君を加えても、阿部君を止められないからな。

 話を戻すと、明智君は壁に何かを見つけたのだ。偶然だけど。そこには、3センチ四方と小さいが、木目の壁とは明らかに違う色の木片が埋め込まれていた。いざ見つけると、なぜ気づかなかったのだろうと疑問に思うほど目立つ。

 田中太郎自身が分からなくなるのを恐れて、分かりやすくしたのだろうか。詰めが甘いというか、頭が……。

 よく知りもしない人をバカにするのは、やめておくか。結果として助かったのだし。

 この木片を取ると、きっと中にボタンなりレバーなりがあるに違いない。そしてそれを作動させると……へへへ。今となっては、何もないというのは、ありえない雰囲気の部屋だ。ここまで殺風景にしたのは、逆効果だったな。いつまでも喜んでないで、次に移らないと。実際に大金やお宝を確認してから、いくらでも喜べばいいのだ。

 しかし、こんなあっけなく田中太郎の脱税したお金というか隠し財産を見つけるとは。日頃の行いは本当に大事だな。残念ながら今日は持ち帰れないが、確認だけはしておきたい。

 あっ、ないかもと疑ってなんかいないぞ。どれだけの現金があるのかを確認したいのだ。そうすれば、私だけでなく阿部君も明智君もモチベーションが上がって、宝石盗難事件なんてものの数分で終わらせられるかもな。解決するかどうかは別として。

 ちなみに、万が一だけど、これだけ私を喜ばせておいて、何もないとなったら、宝石盗難事件すらもなくなるだろう。理由は察しておくれ。でも、それはないと断言しておこう。なぜなら、物語が中途半端で終わってしまうからな。というわけで、次に進むぞ。

 ただ、問題が一つ。この木片は、どうやって取ればいいんだろうか。壁から突き出ているわけでもなく、隙間も全くない。カミソリの刃すら入らない。吸盤のようなもので引っ張るしかないのか。明智君の肉球では無理だな。

 ここで早まり、強引に取って傷などの痕跡を残したなら、隠し場所を変えられてしまうかもしれない。それだけでは済まないか。警戒して警備員を100万人くらい配備させるだろう。そうなったら、さすがの私でもお手上げだ。私が相手できるのは99万人までだからな。くだらないハッタリ自慢をしている場合ではない。

 なんとかならないだろうか。物語が途中で終わる可能性も含めて、せめてこれがフェイクかどうかを確認しておかないと。もしかしたら掃除でもしていてうっかり壁に傷をつけてしまい、それを補修しただけの可能性がなくもない。壁の板と色を合わせられなかったのは、センスがないのか、もしくはちょっとおどけてみたかったとも考えられる。

 私が自慢の脳細胞をフル回転させていると、阿部君がしゃしゃり出てきた。阿部君が静かにしていられる時間なんてたかが知れているのだから、当然の結果だろう。

「リーダー、何をうたた寝してるんですか。これだから初老は……。ねえ、明智君?」

 明智君は自分の肉球を穴が開くほど見つめているだけで、返事をしない。私には遠く及ばないながらも、明智君なりに思案しているのかもしれない。

 明智君が自分を無視するという異常事態で、阿部君はどう思ったのだろうか。自分の意見を却下された事が、まだ記憶に新しいというところで。

 明智君が鉄拳制裁されるかもと一抹の不安がなくもないが、私は傍観者に徹するつもりだ。阿部君を止めたところで、犠牲者が二人になるだけだからな。

 せめてもと、無言で明智君の無事を祈ろう。

 明智君は、そんな私の気遣いに気づかず、再び壁の木片に目を移した。すると、怒りに燃えていながらも、阿部君も釣られるように、明智君の目線を追う。とうとう阿部君も壁の木片に気づいた。と同時に、それを押す。

 何も考えずに行動できる阿部君の良いところが、たまたまたまたま出た。なんと、それ自体がボタンになっていたのだ。他に気づいていた人もいたかもしれないが、黙っておくことを勧める。私と明智君が、旅に出るほど落ち込むからな。

 カチッと音がしたかと思ったら、すぐ横の壁がパッカーンと開いた。勢いが良すぎて、私と阿部君と明智君の3人とも、顔面を強打だ。どう考えても設計ミスだと思う。それとも、コソドロ対策なのだろうか。

 3人で当たったから威力が分散されたが、もし一人で当たってたらと思うと、チビりそうになってしまった。阿部君も明智君も同様だろう。なぜなら二人とももじもじしているし、明智君はまだしも、阿部君が開いた壁に仕返しをしないからだ。

 しかし恐怖を欲望で抑え込む術を知っている私たちは、すぐに切り替える。我々怪盗団は前にしか進まないのだ。開いた壁が次は閉まるかもと警戒しながら、仲良く中を覗き込んだ。そこには札束が大量に詰め込まれて……いるはずもなく、銀行かというくらいの大きくて頑丈で荘厳な金庫が備え付けられていた。

 通信教育課程の金庫破りや鍵の開け方壊し方を主席で卒業した私ですら、初めて見る代物に固唾をのむしかなかった。なのに、ボタンを見つけた事や壁を開けた事を自慢するでもなく、阿部君と明智君が潤んだ瞳で私に何かを訴えている。すぐにでも開けて欲しいのだ。私だって、すぐに開けて金庫の中を確認したい。

 だけど、この金庫は、ものの数分で開けられる代物ではない。時間をかけても、開けられるかどうかだ。今ここでサクッと開ければ、私の怪盗人生は大いに喜ばしいことになるだろう。阿部君と明智君は一生嫌がらせをしないばかりか、常に尊敬を持って接してくれて、お中元とお歳暮そしてあわよくばお年玉までもくれるに違いない。例え、金庫の中に何も入ってなくとも。

 試しに挑戦してみようかな。いや、だめだ。失敗すると、私の立場が危うくなってしまう。それどころか、いたずらに金庫を刺激すると、何らかの緊急警報が鳴るかもしれない。ハイリターンだとしてもスーパースペシャルハイリスクだ。

 私は、開いた壁をそっと閉めようとしたが、ビクともしない。阿部君と明智君が押さえていたからだ。今は開けられないし、ミッション当日も開けられる自信がないと、正直に話そうか。いや、だめだ。悲しみのあまり病気になってしまう。

 ミッション当日までに何か良い方法を考えるとして、とりあえず今をやり過ごさないとな。私のことだから、それまでに何か名案が浮かぶか、天が味方してくれるはずだ。頼んだぞ、神様。

 だけど、欲望の塊である阿部君と明智君を、何と言って説得すればいいのだろうか。神様は、私の代わりに名案を熟考し始めたから、アテにできないし。仕方がない。自分で考えてみるか。神様も私を見て学び努力するんだぞ。

 欲望の塊でわがままで情知らずで人でなしで犬でなしの二人に、ほんの束の間のおあずけを受け入れてもらうには……。あっ、簡単だった。おだてよう。

「世界に名だたる、名探偵ひまわり、名犬あけっちー、聞いてくれ。私たちの今日の仕事は何だ?」

「えっ? えっとおー……」「ワッ? ワッオー……」

 こっ、こいつら……。

 宝石盗難事件の捜査だと言ってしまったなら、この金庫としばしのお別れとなるのをしっかり知っている。もしくは本当に本来の目的をすっかり忘れたかだ。こんなどうしようもない二人に質問をした私が、未熟だったのだろう。私が、答えをはっきりと言わないと。

「私たちは、警視長付きの特別捜査官として、ここに来ている。事件を解決しないと、『ひまわり探偵社』の名に傷がつくだけでなく、警視長の顔に泥を塗ってしまう。分かるな?」

「警視長の顔にこってり泥を塗られようが大したことではないですけど、ひまわり探偵社の名に傷はいただけないですね。あっ、でも、警視長に恩を売っておいて損はなかったかな。うんうん」「ワンワン」

 実に阿部君らしい考え方だ。とは口に出して言わない。おそらく褒め言葉にならないだろう。かといって「嘘でも警視長の心配を……」なんて言うのは大間違いだ。へそを曲げて、よけいに金庫に固執しかねない。

 警視長と仲が良い明智君も、本心かどうかは別として、素早く賛成に回ってくれた。明智君にしたら、遠くにいる警視長よりも眼前の阿部君というところだな。さすが明智君。

 よし、ここで一気に金庫から離れさせてみせるぞ。

「そういうことだ。予定通りにお宝の場所が分かったのだから、今日の怪盗活動はここまでにしておこう。それじゃ、このヘンテコリンな宝石盗難事件をサクッと解決しようじゃないか。めいたんていー、アーンド、めいけーん、いくぞー!」

「はいっ!」「ワンッ!」

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