表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/32

置いていかれた怪盗団1軍

 太郎丸の日記片手に玄関まで戻ると、パンパンに膨らんだ唐草模様の大きな風呂敷包みが1つ……なかった。玄関前に停めてあった阿部君パパの車もない。ああ、そうか。すべてのカバンを頑張って車に詰め込んだのだな。あの強欲どもの力なら、確かにできる。私だけが置いていかれたのは、悲しいと言えば悲しい。だけど、覚悟していたし、むしろ背負って帰るつもりだった風呂敷包みがないから嬉しいくらいだ。

 とりあえず最低限のマナーとして、ドアだけは閉めて帰るか。玄関を通るだけだからって、私は油断しない。最後の最後まで緊張感を持ってミッションに臨むのが、大怪盗だからな。私は物音一つ立てずそっと歩き玄関のドアを抜けた。後はドアをそっと閉めれば、豪快にスキップを踏みながら帰れる。ドアに手をかけそっと閉めようとしたその時、私に不幸が襲った。

「わあっ!」「ワンッ!」「ガオッ!」

 背後からの大爆音に、私はドアを閉めると同時にドアにヘッドバットだ。痛すぎて、無意識に大声で叫んでしまう。すると、2階から「なんだ、なんだ。あれ、ドアが開かないぞ。おーい、誰かー……。ああ、そうだ、今日は誰もいない。この俺様なら力づくで開けられるはずだ。コノヤロー!」と聞こえてきたと思ったら、何者かに引きづられる。

「リーダー、逃げますよ。頭が痛くても全速力で走ってくださいね」「ワオンオンワンワワン」「ガーオー、ガオガオン」

 引きづられながら段々と意識がはっきりしてきた私は、ひとまず全速力で3人のふざけたバカたちに続く。なぜいるんだという疑問よりも、絶対に仕返ししてやると誓いながら。阿部君と明智君が私を驚かそうとしても、トラゾウが止めないとだめじゃないかと思うと、トラゾウに対する怒りが一番大きかった。

 田中太郎の屋敷の庭を、芝生や花壇を気にせず、門まで真っ直ぐ通り抜けた。途中ある柵や小川は颯爽と飛び越えて。門までたどり着いた時に、私だけが濡れていたが、あえて言わなかった。バカにされたくないからな。それよりも、聞きたい事があるし、なによりも叱り飛ばさないといけない。

「おいっ、お前たちのせいで顔面をドアにぶつけたじゃないか。今日だけで2回目だぞ。なんでそんなひどいことをするんだ? トラゾウも、このバカどもたちを止めないとだめだろ」

「トラゾウを責めたらかわいそうじゃないですか。悪いのはリーダーなんですよ」

「えっ! 私の何が悪いんだ?」

「だって、私たちがリーダーを待っていてあげたのに、全く気づかないで何かぶつぶつ言いながらドアをスローモーションで閉めてるから。とうとう本当に頭がおかしくなったと思って、ショック療法で正気に戻してあげようとしたんです。あのままほっておいたら、リーダーが異次元にでも行きそうで」

 なるほど。私の部下たちがいるなんて全く想定していなかったから、いるのに気づかなかったようだな。大怪盗ズハイと名探偵ズハイが同時にやって来たのもあったかもしれない。一応真顔で説明しているし、私は心が広いから、許してやるか。戦利品も莫大だしな。金持ちは喧嘩しないらしい。あれ? 何かおかしい。違和感がすごいぞ。ああー!

 私は、この時初めて気づいた。我々怪盗団が、コスチュームは着ていたが、いつもの覆面で顔を隠していなかったことに。なんて適当な奴らなんだ。アジトに戻るまでがミッションなのに。

「いつの間に覆面を外したんだ?」

「えっ? ああー。今日は最初から被ってなかったみたいですね。マリ先生が突然来て慌ただしかったから、すっかり忘れてましたよ。エヘヘ」

 えっ! ということは、私も……。私は顔を触りたい衝動を抑える。「リーダーだって例のロボットアニメのお面を付けてないじゃないですか」と責められたくないからな。それよりも、私たちが顔を丸出しでミッションをしていたことが、重大な問題だけど。

「お、おい、この屋敷にある監視カメラに……」

「大丈夫です。それらしきものはありません。あんな防犯に無頓着な『タナカラタロー』がそんな物を設置するわけないじゃないですか。電気代だってかかるし」

「そ、それも、そうだな」

 ありがとう、防犯意識が皆無の田中太郎。お前が今日中に『神のゲンコツ』部屋から出られるように、私が寝る前に、ほんの少しだけ祈ってあげよう。覚えていたらな。それよりも、まだまだ阿部君に聞きたい事がある。

「ところで、どうして、みんないるんだい? 私を待つためではないとは分かってるから、くだらないお世辞は言わないで大丈夫だ。どうせ阿部君は、お世辞はまだまだ苦手だろ?」

「そうですけど……お世辞でも、リーダーを待ってたとは言わないです。私のプライドが……。そんな事はどうでもいいですね。小さな誤算があっただけなんです」

「小さな誤算?」

「はい。獲物を全部積んだら、どうしてか、私たちの乗るスペースがなかったんです。計算上は、リーダーだけが乗れないはずだったんですけど」

 阿部君の計算は正しかった。お世辞ではなく、私はそう言える。ただ、阿部君ママと明智君とトラゾウの頑張りが、阿部君の計算に狂いを生じさせたのだろう。計算通りだったのは、唐草模様の風呂敷包みの大きさだけだった。

 阿部君ママは、本職の収入がまあまああるので、さほど強欲ではない。ただ単に、初めての怪盗のミッションで舞い上がり秘めていた怪力が爆発したのだろう。ただでさえあり得ないサイズのトートバッグが、阿部君ママの怪力に屈しなかったのが大きいが。

 トラゾウは、全く強欲ではない。私たちの役に立ちたくて、普通に頑張ったら、バックパックが何倍にも大きくなっていたのだろう。バックパックに意思はないが、限界だと言えなくて、健気なトラゾウのなすがままだったに違いない。

 明智君の強欲さは、計算できるものではない。

「そうだったのか。まあ小さな誤算でもあるが、嬉しい誤算でもあるじゃないか。まあ、たまには、みんなで今後の展望を話しながら歩いて帰るのも悪くないか」

「えー!」「ワー!」「ガオ」

 トラゾウ以外の人たちは反対らしい。分かっていたとはいえ、まいったなー。さすがに、こんな時間に、それも怪盗中に警視長を呼ぶのは……まあ、いいか。警視長だって、私たちの都合なんて考えないで、ひまわり探偵社を呼びつけるのだから。ちょうど田中太郎の屋敷の庭ならヘリも着陸できて、私たちは、ちょうど田中太郎の屋敷のすぐ近くにたまたまいる。うん、何も問題ない。

 問題があるとしたら、再び田中太郎の屋敷内に戻ることくらいか。私たちが逃げる時に後ろ姿を見られたかもしれないからな。初老の上下デニムとヒョウ柄のワンピース小娘とゴールデンレトリバーと本物のトラの、後ろ姿を。田中太郎が、心張り棒で開けられなくなったドアを開けるのに必死で、窓から私たちを見なかった可能性は高い。だけど、ないとも言えない。警視長が車で来てくれるならいいけど、私がどんなに説明しても、明智君とトラゾウを喜ばせたいということで、ヘリで来るに決まっている。警視長に頼むのはやめておくか。

 こうなったら、小林しかいない。一日に何度も呼ぶのは気が引けなくもないが……。ああ、そうだ。盗難事件の犯人が分かったからと言えば、申し分ない言い訳になるな。もう、ついでだ。人権無視とかなんとか言われようが、こんな時間でも、容疑者たちを取り調べしてやる。特に、五十嵐を。

 五十嵐よ、今の私には、太郎丸の日記があるのだ。強気に出てやる。明智君のためのドッグフードを私がそれとなく頼んだ時のお前の発言を、私は忘れてないからな。明智君の、いや地球上のすべての生物たちのために、私は頑張ってみせる。

 問題は、トラゾウは協力してくれるだろうけど、名探偵ひまわりと名犬あけっちーだな。すぐにでも帰って札束に埋もれながら祝勝会をしたいはずだ。私だけ取り調べに残って、阿部君と明智君とトラゾウを、小林に送ってもらえばいいか。私も一緒に帰りたいが、嘘でも取り調べをしないと、小林があまりにかわいそうだもんな。

「阿部君、小林を呼ぼう。新たな証拠が見つかったから、容疑者たちを取り調べしたい、と言えば……言わなくても、阿部君のお願いには二つ返事だろうけど。どうせなら、小林にも私たちの喜びを分けたいんだ。分けるのは喜びだけで、戦利品は一切分けないから、安心していいぞ。ああ、それと、取り調べで残るのは私だけだから、みんなは祝勝会を楽しんでおくれ」

「…………」

「あ、阿部君、どうしたんだい?」

「『名探偵ひまわりの推理ショー』の代わりに、実録『名探偵ひまわりの本格推理で犯人が口を割る』も悪くないですね、うんうん。でも……新たな証拠って、なんですか?」

「ああ、これだ。太郎丸の日記だ。さっき、たまたま見つけたんだ。これを読むと、『神のゲンコツ』の移動経路が見えてくる。後は、あること、ないこと、ないこと、ないこと、妄想なんかを突きつけて、自白されられると思う。『神のゲンコツ』はあるから、はっきり言って、盗難事件なんて解決できなくてもいいが、小林とついでに警部補君に手柄を挙げさせてあげようと。でも、阿部君、帰って祝勝会をしなくてもいいのかい? 阿部君ママだって待ってるだろ?」

「アジトには、眠っているとはいえ、マリ先生がいるでしょ? 今日は祝勝会はできないわねって、ママが。祝勝会はいつでも毎日でもできるので、切り替えて、名探偵ひまわりの方も頑張りますか」

「そ、そうだな。明智君もトラゾウもいいかい? 頼めば、小林か警部補君に送ってもらえるぞ」

「ワオンワンワワンワワワオンオンワ」「ガガンガー」

「明智君は、名犬あけっちーが帰るわけないワン、と。トラゾウは、楽しそー、と」

「ワワンワワワオンオーン……」

 あ、阿部君、明智君は首を横に振っているぞ。ある意味、阿部君は嘘をついたが、阿部君の耳には本当にそう聞こえたのかもしれない。どうでもいいか。ただ、明智君はどうやら帰りたかったみたいだな。起きてるか寝てるかは別として、マリ先生と遊びたかったのだろう。明智君、諦めるんだな。一応、明智君警視なんだから、阿部君警視とともに、小林巡査部長と警部補君と巡査の私たちの上司なんだぞ。事件が解決するかもしれない重大な局面には立ち会ったほうがいい。

「決まりだな。じゃあ、阿部君、小林を呼んでくれるかい?」

「はあ? ミッション中に携帯電話なんて持ってくるわけないじゃないですか」

「そ、そうだな。どうしよう?」

「あそこの屋敷に行って、こっそり借りればいいんじゃないですか、リーダー?」

 阿部君は、田中太郎の屋敷を指さしながら、私に行ってこいと目で命令していた。田中太郎は、何をしているだろうか。もし相対してしまったなら、かわいそうだけど、眠ってもらうしかない。顔だけは絶対に見られないようにしないとな。

 阿部君が目の届く範囲にいる間は、私は急いで戻った。そろそろ見えないだろうという場所まで来て、慎重に歩を進める。疲れたからではない。田中太郎がどこで私を見ているか分からないからだ。といっても、あんまり時間もかけれない。待たせずぎると、阿部君が怒るのもあるからな。

 ひとまず玄関までたどり着けた。戻ってこられたと言うべきか。『神のゲンコツ』部屋と大きな金庫の部屋だけが、明かりが点いている。あ、あいつら、点けた電気を消さなかったのか。それとも、田中太郎が改めて点けたのだろうか。ドアにそっと耳を当ててみる。うん、完璧な防音設備だ。ドアを開けなければ、田中太郎の様子は分からない。

 私は、全く音が出ないように努力して、ドアを開けた。

「出せ、コノヤロー」とドアを叩く音とともに罵声が聞こえてきた。プッ。どうやら、あの心張り棒は想像以上に頑丈にできているようだな。安心した私は、固定電話の在処を推理してみた……。ちっとも分からない。闇雲に探しても時間を無駄にするだけだ。私は意を決して『神のゲンコツ』部屋に向かう。

「おい、電話はどこにあるんだ?」

「えっ! お前は誰だー。ここから出しやがれ」

 私は心張り棒なんか見えないフリをして、さらに通りすがりの野次馬を演じる。

「出せと言われても、どうやってドアを開ければいいんだ? あっ、私は通りすがりの野次馬さんだぞ。通りを歩いていたら、なんか助けを呼ぶ声がしたから、失礼とは思ったが正義感で来てみたんだ」

「そ、そうか。早く出してくれないか?」

 こ、こいつ、信じたぞ。屋敷の前の通りを本当に歩いていたとしても、声なんて届くはずがないのに。バカなのだろうか。それとも、信じたフリをして、私を捕まえようとしているのだろうか。どうでもいいか。出す気なんて、私にはないからな。

「だから、開け方が分からない。警察を呼んでやるから、電話の場所を教えてくれ。私は携帯電話を家においてきたんだ」

「そうか。電話は、玄関を入ってすぐの左手だ」

 なんだ。暗かったから全く気づかなかった。まあ、何事もなく場所が分かったし、『神のゲンコツ』部屋からは離れているから、ヒソヒソ話さなくていい。小林に怪しまれずに呼べるぞ。

「すぐ呼んでやるからな。それまでマッサージチェアーででも休んでればいい」

「えっ! どうして、ここにマッサージチェアーがあることを知ってるんだ? おまえ、何者だ? なんか聞き覚えのある声だぞ。くうー、思い出せない」

「……」

 ま、まずい。調子に乗りすぎた。私は玄関近くにある電話に急ぐ。いや、急いだのは最初の一歩だけだった。急いで、明智君のように階段を踏み外したくない。明智君は、背負っていたバックパックがクッションになってくれたから無傷だったのだろう。薄っぺらい上下デニムの私では、大ケガするだ。足を引きずりながらボロボロの体で戻ると、薄情な部下たちに遅いと文句を言われてしまう。それから、指さしながら大爆笑だ。

 私は、廊下や階段や玄関ホールにある、ありとあらゆる電気を点けた。どうせ監視カメラはないし、田中太郎もしばらくは籠の中の鳥だ。明るくなった屋敷内を、私はゆっくり歩いた。寄り道しなかっただけでも褒めてほしいくらいだな。そして、ほとんど使われたことのない固定電話の受話器とやらを掴む。私は固まる。小林の電話番号を知っているし、固定電話の使い方も知っている。ただ、久しぶりに使う固定電話に、ふと感傷に浸ってしまっただけだ。さあ、かけよう。小林、出てくれよ。まずは、固定電話の感想でも話そうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ