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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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獲物が多すぎるのも考えものだ

 ああ、説明するのを忘れていた。それぞれのトートバッグやらバックパックやら風呂敷は、スペアが2つ3つずつあるので、車にはそのまま積めばいい。なので、パンパンに膨らんだカバンを置いてすぐに、空のカバンを持って大きな金庫の部屋に向かえるのだ。

 不思議に思った人が多数いるはずなので、もう一つ説明しよう。阿部君たちのような強欲な者が、スペアのカバンを2つ3つずつなんて少ないんじゃないかと思っているのだろうな。私の知る限りでは、トートバッグ3つ、バックパック5つ、風呂敷5枚だ。2つ3つではないが、それは言葉の綾だぞ。少ないことには、かわりがない。なぜか。簡単だ。カバン屋さんに、それだけしか売っていなかったわけではない。阿部君パパの車には、パンパンに膨らんだカバンをそれだけしか積めないからだ。なので、この強欲どもにしたら少ないこの数で妥協したにすぎない。

 ただ、本当のところを話すと、風呂敷は2枚余計だ。あくまでも保険なのだけど、トートバッグ3つバックパック5つ風呂敷3枚にパンパンに札束を積めてもまだ金庫の中にお金がたくさん余っているなら、強欲どもは迷いなく使う。

 そんなことをしても、風呂敷包みを2つ置いていくことになる……。そこそこの想像力しか持ち合わせていない人でも分かっただろう。私が1つを歩いて持ち帰り、空いた一人分の座席に残りの1つを積めば、すべてのカバンを有効に使えるのだ。

 だけど、そうすると、阿部君パパの車を運転する人間がいなくなるという、当然の疑問が出てくる。阿部君と明智君とトラゾウはできない。阿部君ママはできるが、阿部君パパが大事にしている車を大事には扱えない。なので、唯一運転できる阿部君ママが運転すると、阿部君パパが大変ご立腹になる。が、しかし、風呂敷包みの中には全く同じ車を何台でも買えるだけのお金があるとしたら? そう、阿部君パパは、ご立腹どころか大喜びだ。というわけで、阿部君ママ運転で、運転手問題はあっさりと解決してしまった。

 あとは、私が何事もなく帰ってくれば、作戦は大成功で終わる……。お願いだから、風呂敷が2つ余りますように。その分が少なくても、十分な利益を確保できるのだから。

 私が腹八分目を本気で期待していると、阿部君ママが空のトートバッグ持って、喜びの奇声を上げるのを必死に堪えながら大きな金庫の部屋に再び入っていった。明智君に追いつかれないなんて、阿部君ママ、なかなかやるじゃないか。

 阿部君ママが入ってしばらくすると、明智君が大口を開けて喜びながら入っていく。と思いきや、私に向かって親指を立て、さらに敬礼までしてくれた。かっこいいじゃないか、明智君。

 続いてトラゾウは、おそらく任しておいての意味だろう、わざわざ力こぶをアピールしてから入っていった。少し照れている。何をしてもかわいいな、トラゾウ。

 阿部君は前の3人からいくらか離されていた。一度で運んだ量が一人だけ格段に多かったから致し方ない。ただ、スキップを踏むくらいなら、普通に走った方が速いぞ、阿部君。焦っても仕方がないし、余裕があるのは良い事か。そして、分かってはいたが、阿部君ママ同様に、私に一瞥もくれず入っていく。前祝いと称して、火のついた爆竹を私に投げつけないだけで良しだ。

 そんな阿部君と入れ替えに、部屋から阿部君ママが出てきた。さっきと同じくらいにトートバッグは膨れているし、さっきと同じように小躍りしながら走っている。金庫にはまだまだ札束があるということだろう。大丈夫だ。車にはまだまだ積める。なので、私もまだまだ余裕だ。自分のミッションに集中だ。田中太郎の動きに聞き耳を立てよう。

「おおー、なかなか気持ちいいじゃないかー」の声とともに、マシーンが動く音がしている。マッサージチェアーを使っているのだ。『神のゲンコツ』を探し疲れたようだな。それほど動き回ったとは思えないが、還暦間際のヨレヨレのジジイには重労働だったのだろうか。初老の私には全く理解できないぞ。たまには年齢マウントも悪くないな。

 それはそうと、間の悪いやつだな、田中太郎は。『神のゲンコツ』がないと気づいてすぐに自分で探していたなら、そのマッサージチェアーの上にあったというのに。まあ、それでも、遅かれ早かれ『神のゲンコツ』は戻ってくる。警察官である小林が預かっているのだからな。何より間が悪いのは、田中太郎が悪いのではないが、『神のゲンコツ』がなくなったタイミングだな。そう、私たちが、特別捜査官になってすぐだったのだ。事件がもう少し早く起こっていたなら、ひまわり探偵社がここに来ることはなかった。大きな金庫のへそくりにも、もちろん気づかなかった。中身を根こそぎ持っていかれるなんて……。同情はしないがな。粛々と見張りをするだけだ。

 とりあえず、マッサージが終わるか、マッサージチェアーがへそを曲げるまでは、私は何もすることがない。時おり「気持ちいいー」や「うひゃー」に紛れて「絶対にひれ伏せさせてやる」や罵詈雑言が聞こえてくるので、少なくとも声がしている間は、我々怪盗団はやりたい放題だな。

 おっ、阿部君ママに追いつけ追い越せとばかりに、明智君が出てきた。私にはもう目もくれない。さっきよりもさらに足の回転が速くなっている。回転が速くなったところで、さっきと同じように床を捉えられないので、進むスピードは変わらないが。いや、むしろ遅いくらいだ。回転が速すぎて制御が難しいのだな。一応は前進しているので、ほっておくか。階段まで行けば、重力が後押ししてくれるだろう。

 続いて出てくるのはトラゾウと思いきや、阿部君が出てきた。どうした、トラゾウ。何か事故でも……いや、それなら阿部君があんな普段通りにミッションをこなしていない。私が命の危険に晒されていても、阿部君の感情に起伏はない。だけど、トラゾウに何かあったなら、阿部君のような人間失格自己中心的冷血悪魔でも、まずはトラゾウの救出に命を捧げるだろう。

 冷静に分析しながらも、持ち場を離れてトラゾウの様子を見に行こうか迷っていると、トラゾウがしっかりとした足取りで出てきた。と同時に、トラゾウが遅かった理由を知る。なんと、トラゾウの背負っているバックパックが、さっきの2倍はあろうかというくらいに大きくなっていたのだ。私にわざわざ力こぶを見せたくらいだから、トラゾウは本気を出したに違いない。トラゾウもすごいが、バックパックもなかなかやるじゃないか。

 トラゾウの無事に安堵し、潜在能力に感心していると、いつしか田中太郎の声がしなくなっていた。出てくるかもしれない。いよいよ私のメインミッションが始まる。ドアを抑えて田中太郎が出てこれないようにするという、大怪盗の私にしか完璧にはできない高難度の。一筋だけ汗をたらし、私はそっとドアノブを掴んだ。さあ、いつでも来い。

 待つこと10数秒、ドアノブはうんともすんとも言わない。なるほど。田中太郎は寝落ちしたようだな。おそやく……いや、きっと。マッサージチェアーの作動音はしっかりと聞こえているし。部屋から出てくるなら、マッサージチェアーを止めるはず。電気代が無駄になるからな。そう考えると、少なくともマッサージチェアーが動いている間は、私は手持ち無沙汰だな。せっかくだから、少し金庫を見に行くか。中がどうなっているのか大いに興味がある。ドアに心張り棒をかましておけば、例え田中太郎が出てこようとしても数分は稼げるだろう。うん、十分戻ってこられる。

 私はそっと心張り棒をかましてから、大きな金庫のある部屋に向かった。今さら驚いてみたが、電気が点いている。田中太郎に気づかれなければ問題ないか。仕事もしやすいし。それよりも金庫だ。率直な感想は、で、でかいだ。そして札束はまだまだ残っている。正確には、トートバッグ1つとバックパック1つと風呂敷3つ分だな。私が徒歩で帰るのが確定してしまった。

 それでも、先に帰ったみんなが戦利品を下ろして、すぐにとんぼ返りで迎えにきてくれる……わけがない。全く期待できない希望は持つと、必要以上に疲れてしまう。田中太郎の屋敷から我が家兼アジトまでは、自分の足だけで移動しなければならない。これは前提であり、最終結論だ。

 私の脚力を持ってすれば、歩いたとして5時間くらいで収まるだろう。走れば、2時間を切ってしまうかもな……。うーん、まあまあかかるなあ。それに、よくよく考えれば、重い重い札束をたくさんたくさん背負わなければならないんだった。調子に乗ってマラソン世界記録を作るつもりで突っ走ったなら、ものの10秒でバテてしまうかもしれない。夜明けまでに帰れればいいという軽い気持ちで、のんびり帰ろう。

 問題は、泥棒と言えばの唐草模様の大きな風呂敷包みを背負っていては、注目を浴びるということだ。注目を浴びたがっていると言っても過言ではない。せめて目立たない模様の風呂敷をチョイスしてくれればいいものを。くだらない遊び心なんて……まあ、怪盗には必要か。

 それに、一般市民に見られたところで、さほど心配することはないだろう。こんな怪しい私には、見て見ぬ振りをしてくれるに決まっている。からんでくるのは酔っ払いくらいだ。軽く投げ飛ばせば気を失い、目が覚めたころには私の事なんて記憶にない。覚えているにしても、夢を見たと思う程度だ。

 問題は、巡回中の警察官だな。泥棒丸出しの私に説明を求める権利がある。正直に言っても、どうせ脱税したお金なので、被害者の田中太郎が認めないだろう。私はただのおかしい奴だとして簡単に処理してくれるだろうか。してくれるだろう。被害者がいないのだから。だけど、田中太郎は我々怪盗団の存在と犯罪を知ることになる。凄惨な仕返しをするに決まっている。うん、警察官に正直には話せないな。

 でも、唐草模様の風呂敷包みの中の大金を、どう言い訳したら、あっさり解放してくれるのだろうか。私なら、家までついていくだろうな。それは、まずい。我が家兼アジトには、被害届が出された戦利品が一応皆無だ。とりあえずは捕まらないが、この先、怪盗活動をしづらくなってしまう。ひまわり探偵社も特別捜査官をクビだな。阿部君と明智君が怒り狂ってしまう。

 警部補君のような奴なら、何も怖くない。面倒くさがって、怪しい奴がいたなら速攻でUターンしてくれるからな。だけど、残念ながらというか有り難いことに、日本の警察官は優秀で真面目で市民のために己を犠牲にするのだ。警察官と会ってしまったなら、私は100パーセント職務質問されてしまう。どうやって乗り切ろうか。しばし時間をくれるかい。

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