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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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作戦会議は長ければいいものではない

 少しとはいえ全速力で走った私は、まず、玄関のドアの前で膝に手を付き息を整えた。歳のせいではないからな。本当に超人的な……。言い訳をしたところでだな。バカな3人のバカ笑いだけはどうしようもない。せっかく恥をかいたのだ。とりあえず、みんなが玄関に来るまでの間は休憩しておこう。

 しかし、今日はそういう日だったのだろう。なんと、玄関のドアが私を急襲したのだ。しかし、私は吹っ飛ばなかった。不屈の精神で耐えたからではない。ちょうど玄関前までたどり着いた2つのカートが、私を抑えたからだ。簡単に言うと、ドアとカートの挟み撃ちだな。吹っ飛ばなくて良かったが、ドアの勢いの衝撃をすべて受け止めた痛みはなかなかのものだった。心根が優しいトラゾウはもちろん、私の不幸が大好物の阿部君と明智君ですら笑わない、それほどの大打撃だ。

 ただ、3人が笑わなかったのは、私を心配したからではないが。見えなかったわけでもない。カートに商品が山積みでも、阿部君は前が見えるようにきちんと隙間を作っているのだ。そんな事はどうでもいいか。ドアが私を叩きのめし、ドアとカートの間で私が『トムとジェリー』がよくなるようなぺちゃんこになっていても、私のかわいい部下たちが笑わないのは……みなさんすでにご存知だろう。少し前にに触れていたからな。

 そう、私をぶちのめした阿部君ママの方に目が行っていたからだ。阿部君ママの名誉のために言うと、わざとではない。そして、阿部君ママの存在に、私の部下たちは視覚で理解したが、私は聴覚で推測した。

「さあ、行くわよー」

「……」「……」「……」「うっ……。あ、阿部君、阿部君ママに説明してあげなさい」

 私はリーダーの威厳を保ちながら、私がするべき事を、阿部君にお願いした。とてもじゃないが、今の私は、声を出すのも辛かったから。阿部君も責任を感じてくれたのか、明智君トラゾウとともに、まずは少しカートを下げてくれる。私は、『トムとジェリー』の世界が続いているような気持ちでおもいっきり空気を吸い込み、元通りのリーダーになった。見た目だけは。著作権の問題があるかもしれない。『とむー&じぇり』としておこう。著作権問題はあっさり解決したところで、体の痛みだけはどうしようもない。しばし休憩しよう。阿部君とはいえ、阿部君ママに説明して納得してもらうには、時間がかかるはずだ。

「ママ、ミッションは暗くなってからだよ。その前に、トラゾウ歓迎食事会という名の作戦会議だから。それから、トラゾウ親睦会という名のミッションを決行だよ。いや、親睦会というよりは運動会かな。

「ああ、そうだったわね。それよりも、これを見てよ。じゃじゃーん。私のコスチューム、ちょっと地味じゃないかな?」

 私は阿部君ママの言葉で瞬時に元気を取り戻した。言葉の力って、やはり偉大だな。

「ぷっ。じゃじゃーんって……うっ」

 元気を取り戻した私の背中に、どうやら誰かさんの右ストレートが入ったようだ。私の体は再び痛みに支配される。先ほどまでの痛みがぶり返し、痛みの狂騒曲?協奏曲?が私の体中を駆け巡っているようだ。トラゾウ歓迎食事会の料理を作れないほどに痛いのが正直なところだ。だけど、本当に作らなかったなら、私の命の保証はない。死ぬ気になれば、なんだってできるからな。そのつもりで、阿部君はほんの少しだけ手加減したようだし。でも一人ですべてをこなすのは難しいかもしれない。

 そうだ。明智君とトラゾウに手伝ってもらおう。下ごしらえならできるはず。問題はどうお願いすれば手伝ってくれるかだな。トラゾウは二つ返事で手伝ってくれるとして、明智君は……やっぱりお金で釣るしかないのだろうか。いや、世界を股にかけるドッグフードハンターの件があるぞ。今日くらいは、ボランティアという言葉が、明智君の辞書にレアキャラのように現れているかも。それでも、恩着せがましい言い方はご法度だ。言葉の魔術師である私の本領を発揮する時だな。せっかく苦労して言葉の魔術を披露するのだから、ついでに阿部君母娘も巻き込めないだろうか。違う意味で、明智君も阿部君母娘もまとめて料理してやる。

「阿部君ママ、阿部君ママにとっては初めてのミッションのようなものだろ? 悪徳政治家の件では、ずっと車の中にいたもんな。正直に言って、私たちと息が合うか分からない。だから、親睦を深めるのためにも、みんなで一緒に料理を作らないかい? 一緒に何かを成し遂げることで、性格や長所短所も分かるというものだろ、阿部君?」

「うーん、リーダーのくせに、一理ありますね。どう、ママ?」

「確かに、リーダーのくせに、的を射ているかもしれないような気がしなくもないような」

 こ、このバカ母娘。『リーダー』とは、本来は絶対的な存在なんだぞ。『くせに』なんて付けていいものではない。と口に出さずに説教してやった。本当はぎりぎり当たらないくらいにぶん殴りたいところだけど、一応は私の意見に賛成のようだから、勘弁してやろう。

「では、私の指揮のもと動いてくださいね」

「えー」「やだー」「ワンオ?」「ガオッ!」

 おそらくだけど、快い返事をしたのは、トラゾウだけだ。阿部君はまだしも阿部君ママは料理上手だから、仕切りたいのだろうか。阿部君は、よくよく考えたら阿部君ママの事は熟知していることに気づいたから、普通に手伝いたくないのだろう。明智君は、単純に話を聞いてなかっただけだな。

「じゃあ、阿部君ママが仕切ってくれるかい?」

 これなら、阿部君も手伝わざるを得ない。阿部君が手伝うのだから、明智君も間抜け面で見学というわけにはいかないだろう。私はトラゾウと仲良く、みんなのフォローをしよう。たまには責任逃れをするのも悪くはない。と腹をくくったのに、阿部君が横槍を入れてきやがった。阿部君ママはなぜか安堵しているし。阿部君と阿部君ママの阿吽の呼吸があったようだな。

「だめだめ! ママは料理上手だけど、あくまでもオーソドックスなの。世界に二つとない独創的な料理は、リーダーにしか作れないよ。それに、ここでリーダーが目立たないと、存在価値がないじゃない」

 阿部君は、自分が手伝いたくないがために、阿部君ママに仕切らせたくないのでは? 私が作る料理を欲しているのは本音だろうけど。参考までに聞いてやるか。作ってやるからと言えば、手伝う気になるだろうし。

「どんな料理が食べたいんだ?」

「かつてない美味しいもの」

 人を散々バカにしておいて、よくそんな無茶で曖昧で向こう見ずなリクエストができるものだ。

「作ってやるから、私の指揮のもと動けよ」

「えー」「やだー」「ワンッ!」「ガオッ!」

 おそらくだけど、トラゾウプラス明智君も気持ちよく「イエス」と言ってくれた。他の約2名を説得するには、貴重な時間を大量に無駄にしてしまう。それに、私の鋼の精神をズタズタにしてしまうだろう。

「阿部君母娘は、お好みの材料を適当に持ってくれるかい? その大変な役目を終えたら、後はテレビでも観てくつろいでおくれ。明智君とトラゾウは、かつてない美味しい料理を一緒に作っておくれ」

「はいっ!」「はいっ!」「ワンッ!」「ガオッ!」

 結局、作戦会議は料理を作りながらではなく、料理を食べながらになってしまった。明智君とトラゾウを確保できただけでも、私の言葉の魔術が炸裂したと世間は評価してくれるに違いない。

 そして、私と明智君とトラゾウの仲良しトリオは、かつてない美味しい料理を完成させた。いつもそうだけど、全く同じ料理をもう一度作れと言われても、二度とは作れない自信がある。一期一会、と言えば、私を風流だと思ってくれるだろうか。二度同じ料理を出すと、食べるだけ担当の奴がぶつくさと文句を言うから、記憶したりレシピを作ったりしても意味がないし。と言ってるそばから、食べるだけ担当とその母親が、いの一番に食べ始めた。

「これ、美味しいわね」

「でしょー。こんなリーダーでも一つくらいは取り柄があるから、なんとか私も一緒に働いてやってるんだよ」

「分かるわー」

 こ、こいつら……。まあいい。私だって、利用できるだけ利用してやる。まずは、ここにはいないが、阿部君パパの車を借りるか。阿部君パパは、いっちょ前に、送り迎えをしてもらって俳優業に勤しんでいる、というのは事前に調べてあるのだ。阿部君が愚痴っただけだけど。私の類まれなアンテナがきちんと拾ったのだ。まずは、私も腹ごしらえをしよう。

「明智君、トラゾウ、私たちも食べよう。自分たちで作ったという調味料がある分、私たちの方がそこのわがまま母娘よりも美味しく感じるぞ」

「ワンッ」「ガオッ」

 阿部君母娘は遠慮なしに食べたいだけ食べるのは想定済みなので、相撲取りが100人でかかっても食べ切れないくらいに作っておいた。その分、時間はかかったが、それだけお腹も減ったので、私は喜んで作った。明智君は、ときおり私を睨んでいたがな。トラゾウがなだめてくれてなかったなら、私の体の至る所に噛み跡があったことだろう。

 終わりよければすべてよしだ。私は、明智君とトラゾウの手にマジックテープでナイフとフォークを付けてあげる。そして、私をセンターに横並びでテーブルにつく。阿部君母娘とは向かい合う形で。後は、セルフサービスだぞ、明智君トラゾウ。

「では、作戦会議を始めようか?」

「まずは、リーダーがパパの車を取りに行きます。これが、鍵です。はい。本当は、大きなダンプカーで行きたいけど、そんな急に用意できないし目立つし運転できる人がいないので却下です。パパの車でも、国家予算分は無理にしても、何十億円は積めるでしょう。というわけで、夜中になったら、みんなでタナカラタローでしたっけ、あいつの屋敷に向かいます。後は流れで。以上です。質問も意見もアラ探しも受け付けません。リーダー、食べ終わったら、いつでも車を取りに行ってくださいね。私たちは、ここで待機しているので」

「……。あ、阿部君?」

「受け付けません。さあ、料理を堪能しますよ。明智君もトラゾウもいっぱい食べてね」

「……」「ワンッ!」「ガオッ!」

 せめて、阿部君パパの車を借りるのは、私が決めたことにしてくれないだろうか。いや、それだと、阿部君パパが勝手に車を使われたことを怒った時に、すべてが私の責任にされかねないか。破格なレンタル料を請求されてしまう。仕方がないから、阿部君の手柄にしてやるか。できない部下にも何か活躍の場を与えるのも、リーダーの大事な仕事だしな。私はミッションそのもので活躍するし、それで十分だ。

 さあ、料理をお腹いっぱい食べるぞ。それから、孤高のリーダーらしく、一人寂しく、阿部君パパの車を取りに行くか。

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