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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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20/20

私の推理は正しい方向へ進んでいるのだろうか

「では、信頼できる紳士で名探偵の私の質問に答えてくださいね。再度聞きます。田中奈々さん、あなたは田中太郎氏がこのような事をする理由に、思い当たる節がありますね? 田中太郎氏が仕組んだと仮定してですけど」

「はい。私が離婚を切り出したからだと。もともと仮面夫婦でしたし、太郎丸が大学を卒業することもあり、今がちょうどいい機会だと」

「やはりそうでしたか。それで、財産分与の条件を良くするために、あなたや太郎丸君を貶めようとした。家庭内の窃盗だけではさほど効果がないのは、法律に詳しくない私でも分かります。そこで、田中太郎氏は足りない頭で三日三晩考えた。でもいい案が閃かない。そんな時に気分転換で観たワイドショーにヒントが出てきたのでしょう。喜び勇んで、五十嵐とできていると見せかけることにしたのです」

 まるで見ていたかのような私の名推理に、阿部君明智君だけでなく、真面目巡査部長までもがついてこれないようだ。口をポカンと開けて斜め上を意味なく見ている。こ、こいつらは、私の名推理が気に入らないのだろうか。

 田中奈々は、私の推理を、それもあるかなと、賛成におもいっきり傾いているというのに。無表情を分かりやすく作るという斬新な方法で。ほ、本当に、田中奈々は私の推理を肯定……大大大否定なんてしていないのだ。うーん、埒が明かないな。態度だけでなく口でも賛成の意思を現してもらおうと、私はすがる思いで田中奈々をガン見した。

 頼む。安直な発想に感じなくもないけど、ないこともないような気もしなくもない、とか言ってやんわりと可能性を残しておいてくれ。私を味方に付けておいて損はないと判断するのに、田中奈々は時間を要したようだ。私の不甲斐ない部下及び真面目巡査部長が、ここぞとばかりに私に襲いかかる。

「リーダー、暇だからってテレビの見過ぎなんじゃないですかー、ヒヒヒ」「ワンワンワオン、ワーオ」「リーダーさん、ドラマじゃ……プッ」

 こ、こいつら、さっきまで私の名推理に感嘆していたのに。それに、お前たちは何の捜査もしてないじゃないか。いじけて帰ってやろうかな。たまにはプチ反抗をしてやろうと決断したところで、田中奈々が恥ずかしそうに話しだす。助かった。もし本当に帰ったなら……それこそ三日三晩反省会だな。その前に明智君が必死に止めてくれるだろうけど。それよりも、田中奈々の話だ。まさか、私をバカにしないよな。

「主人が私を貶める方法をどのように考えたかは、私には分かりかねます。ただ、そちらのユニークな探偵さんは実績もあるようなので、少なくとも私よりは先を行っているのでしょう。そうですね……先を読んだというか、当たったというか。いずれ分かることですので、正直に話します。主人が、私と五十嵐さんを良い仲だと見せかけようと画策していると、ユニークさんは考えましたね?」

 お、おい。私は、ユニークさんではないぞ。ユニークな一面なんて一切持ち合わせてないし。しかし、現状で私の推理に一目置いている数少ない人の気持ちを害する発言は、控えた方がいいかもしれないな。遠回しで妥協するか。

「私、リーダーの名推理に賛同していただき感謝します。それで、いずれ分かることとは?」

「賛同はしておりません。ユニークリーダーさんの中の主人評は、大きく見積もりすぎなので。主人の浅はかな思考では、もっともっと控えめでいいのですよ。あの人が私を貶めるなら、せいぜい泥棒呼ばわり止まりでしょうね。五十嵐さんを容疑者の中に入れた理由は、たまたま今日この屋敷にいたからだと思います。あの人は、そういう人なんです」

 えっ。よくもまあそんなバカが、世界のホテル王になれたものだな。よほど運が良かったのだろうか。いや、田中奈々がそう言ってるだけだ。私の名推理は……忘れるか。引きずっていると、ユニークさんから、妄想バカに格下げされかねない。せっかくユニークリーダーさんに格上げして、リーダーさんになりそうな……えっ? ま、まさか、ユニークリーダーさんというのは、ユニークの中のユニークいわゆるトップオブザユニークのつもりじゃないだろうな。捜査に集中するか。

「なるほど。それで、いずれ分かることとは?」

「ああ、そうでしたね。私は料理長の五十嵐さんを愛しております。五十嵐さんも私を……」

「へえー、そうなんですか…………。ええー! なんですとー! そそそそれは、まことの事なんですか?」

「はい」

「田中太郎氏は?」

「もちろん気づいておりません。気づいていたなら、私が離婚を申し出た時に言ったはずです」

「ということは、本当にたまたま、五十嵐さんは容疑者に入れられたということですか?」

「はい。警察関係の方が、素人の主人の意見をそのまま鵜呑みにするのはどうかとは思いましたけど。でも、今となっては正解でしたね。主人は、そういう運だけはあるんです」

「なるほどー。なるほどー。なるほどー」

 私は相槌を繰り返しながら、真面目巡査部長を促し、田中奈々から少し離れた。田中奈々に聞かれたくない話しをするためだ。阿部君は、真面目巡査部長の死角をキープしつつ、ついてくる。堂々と一緒に話し合えばいいものを。『神のゲンコツ』を見つけた張本人なのに、自分は知らなかったと意地でも貫き通すためだろう。確かに、私はまだ薄っすら疑われているからな。真面目巡査部長の目がそう言っている気がしてならないのだ。なので明智君は未だにヌイグルミを演じている。私の腕の中で。重くはないと言えば嘘になるのだろうけど、さっきも言ったように私が安心できるからだ。冤罪という最悪の結末で私たちが犯人とされても、明智君だけは諸々の理由で捕まることがないのは、明智君も知っている。なので無駄な抵抗はしない。だけど下ろしたなら。逃亡確実だろう。

 田中奈々に聞こえない所まで来るとすぐに、私は一方的に真面目巡査部長に相談した。本当は名探偵らしく優雅にどっしりと構えていたいのに。真面目巡査部長に先手を打たれたら、犯人にされるかもしれない。だなんて、これっぽっちも疑ってないぞ、真面目巡査部長。だから真面目巡査部長も私を疑うんじゃないぞ。普通に考えたら、分かるだろ? せめて素手で触るんじなかったな。あっ、真面目巡査部長もうっかり素手で私から奪い取ったぞ。私を犯人に仕立てるなら、巻き添えにしてやる

「お、おい、真面目巡査部長、この場合は財産分与に影響するんじゃないのか?」

「そ、そ、そうですね。詳しくは分かりませんけど、感情論で言うなら、取り分を減らされても致し方ないと。そして、これで盗難事件の方は、何もかも田中奈々の言うことを鵜呑みにするっていうわけにはいかなくなりました」

「振り出しなのか?」

「必ずしも降り出しだとは思いません。むしろ田中太郎狂言説が有力になってきたかと」

「そ、そうだよな。突然の告白で動揺して、私は弱気になってしまったかもしれない。少なくとも、私が犯人ではないだろ?」

 ついつい気になっていた事を口に出してしまった。わざわざ言うなんて、普通に考えたら逆効果だろう。自分で自分の首を絞めるようなイージーミスをするなんて、私の名探偵の名声が儚く消えてしまう。いや、もういい。名探偵でなくとも、大怪盗の名声が残っている。

 とはいえ、名探偵の名声を犠牲にしたのだ。なので、真面目巡査部長よ、断言してくれ。『神のゲンコツ』を盗んだ容疑者に、私だけは含まれないと。

 しかし、真面目巡査部長は、私の切羽詰まった質問を無視して持論を展開する。私が犯人でないなんて、言うまでもないと言いたいのだろうか。言わないと分からない事って、世の中には山ほどあるというのに。それとも、まさか私をまだ容疑者に入れてあるとかじゃないだろうな。言いづらいから、言わないのか。ないとは思うが、私の話を聞いていなかった可能性も考慮に入れるべきか。

 もう一度聞くのは、さらに私を追い詰めかねないしな。とりあえず素知らぬ顔をして、私の弟子候補のお前の持論を聞いてやろうじゃないか。聞いてはやるが、ちょっとでも私を疑う発言をしたなら、覚悟しておけよ。阿部君を大声で呼び、明智君を叩き起こし、3人で潤んだ目をして懇願してやるからな。私たちの泣き落としは、なかなかだぞ。

「こんな個人的な事情を正直に話すくらいなのだから、話す事はすべて真実だという可能性は高いです。そう思わせるがために、一見都合の悪い事を話して信用させたとも言えますが。二人の関係が田中太郎氏に気づかれてしまうと財産分与が不利になるのは目に見えているので、『神のゲンコツ』だけでも自分のものにする方法があれば実行するかもしれないですね。これ一つで、100年間毎日贅沢三昧しても、お釣りがくるくらいの価値はあるので」

「なるほど。離婚する前に強引に自分の所有物にしておいて、身につけている宝石や貴金属だけは思い入れがあるとか言って頂くつもりか。その代わりに、現金銀行預金有価証券不動産なんかを放棄するとか言えば、田中太郎のような悪どい奴はあっさり了承するかもな。そこまで考えていたなら、田中奈々は……。でもどうしてマッサージチェアーに? …………、……、ああー! そうか! ふっふっふっ……。あれは、ただのマッサージチェアー、ではないな。田中奈々だけが知っている、田中奈々専用の宝石箱だ。私のような大怪盗……大探偵……名探偵なら分かる。仮に、この屋敷に泥棒さんが入ったとして、マッサージチェアーなんかに高価な宝石があるなんて想像すらしないだろう。まして周りに高そうな宝石類がたくさん飾ってあるのだから、まずはそれを盗もうとする。一刻を争う時に、マッサージチェアーで体を癒やしてから取り掛かろうとするバカ泥棒なんていない。泥棒心理を徹底的に考え下した答えが、マッサージチェアー型宝石箱だ。ある意味鉄壁の金庫だな。大きいから、たくさん入るし」

「リーダーさん、あなたは何者なんですか?」

 まずい。盗む側の心理描写が的確過ぎたかもしれない。『泥棒さん』とか言ってしまったし。本当は怪盗心理も話したかったけど、私の正体を見破られる危険を犯したくなかったのだ。真面目巡査部長は鋭いからな。現に何かを怪しんでいるようだし。

 ちなみに、怪盗心理とはこうだ。ほんの一部だけど話しておこう。怪盗は盗む行為を楽しむ時が多々あるから、マッサージチェアーには躊躇わずに座る。気に入っても、持ち帰りはしないが。祭りのお神輿のようにして帰るのは楽しいが、中古はいらない。それも、悪人が使っていたのなんて。ふざけて、すべてのパワーを『強』にしておくくらいだな。悪人から盗んだお金で、真面目な電気屋さんから買えばいい。

 信じられない人がいるのかもしれないが、阿部君が良い例だ。捜査中だったけど、怪盗中でもきっと座っただろう。もしくは、明智君が。今回は、たまたま阿部君が先手を取れただけだったのだ。

 怪盗心理は、今はこれくらいにしておこう。私の人生を左右する大事な事があるのだ。真面目巡査部長に何か言い訳をしないといけない。しかし、何者と聞かれて、何と答えればいいのだろうか。給料据え置き警部よ、下らない寝言を言って時間を稼いでおくれ。できたなら、給料を少し上げてくれるように、警視長に掛け合ってあげるぞ。警部補に降格という代償は支払うだろうけど。『給料据え置き警部』は字面が長いから、『バカ警部補』の方が何かと便利だし。さあ、給料据え置き警部……。

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