ネット恋愛反対
「すきだよ」
スマホの画面に、それはよく咲いた花みたいに繰り返された。
彼の言葉は軽くなかった。たぶん、重かった。
だけど私は、どう返せばよかったかわからなかった。
だから、たいてい既読だけつけて、スタンプで流した。
彼とは、ゲームのボイスチャットで出会った。
最初は名前も年も顔も知らなかった。
ただ、夜中に人がいる安心感だけで、通話を繋げたまま寝たりした。
そういうのが、きっと「仲良くなる」ってことだった。
告白は、勢いだったと思う。
「会ったことないのに好きっておかしいよ」って言った私に、
「でも好きなんだよ」って言ってきた彼の声が、なんだか怖かった。
怖いのに、なんで「うん」って返したのか、よく覚えてない。
寂しかったのかもしれない。
それとも、彼の言葉が、何かを代わりに埋めてくれたからかもしれない。
「今日もすきだよ」
「○○と話せると、ほんと幸せ」
「はやく会いたいな」
そのたびに私は、心の奥が少しずつ砂になって崩れていくのを感じてた。
言葉が重ねられるほど、自分の「すき」がどこにもないことが浮き彫りになった。
画面の向こうで、彼はどんどん本気になっていく。
私は、ただのまま。
ただの「いい人だな」と思う、誰か。
好きかどうかもわからない誰か。
「好きになれたら楽だったのにな」
そう思う瞬間が、日に日に増えていった。
結局、私はちゃんと「好き」とは言えなかった。
何度も口まで出かかったけど、すべて飲み込んだ。
だって、嘘つきたくなかったから。
彼が重ねる「すき」に、私は一度も答えなかった。
ただ、溺れているふりをしただけだった。
今も通知が鳴ると、少しだけ胸が痛くなる。
それは恋じゃなくて、たぶん罪悪感の形。