8話
静かな夜。
煙や血の匂いが充満する廃工場で、俺達と梵罵の奴らが睨み合う。
「さ〜あさぁ。ここで全員爆死です〜〜〜」
そう言って笑うのは、梵罵のボス長尾。
奴の他に、幹部の竹之内と、10数人の手下。
さらには刃裟羅の幹部である、雑賀まで来ている。
一方こっちは、俺と石田の兄貴、蓼丸の兄貴、それから夏目。
元々1人で戦っていた石田の兄貴の救援として俺達が駆けつけたのだが、それでも人数不利。
結城組の兄貴達の強さは相当だが、油断できねぇ。
気を抜いた瞬間死ぬ。
ペーペーの俺にも解る。
この状況に息を呑んでいると、蓼丸の兄貴が口を開いた。
「長尾と三下共は俺と夏目で充分や。海星、苗木。お前らは目の前の奴に集中せい」
「はい……」
石田の兄貴は静かに返事して、雑賀を睨んだ。
だが俺は、簡単に呑み込めない。
「蓼丸の兄貴…。けどそうなったら、兄貴1人で10人くらいを相手することに……」
「あの、俺も居るんスけどぉ!?」
「苗木ィ…。多分気ィ遣ってくれてるんやろうけどなァ」
その時、蓼丸の兄貴の目が鋭く光った。
「俺を誰やと思うてんねん。あんな三下共に負けるかァ。そもそもおどれは俺の心配しとる場合か?」
「ッ!!」
目の前の竹之内を見る。
奴は血走った目で俺を睨んでいた。
俺は一回、コイツに敗北してるんだ。
当然リベンジを果たすつもりだが、よそ見しながら戦って、勝てる相手じゃない。
「それでえぇ。しっかりやりや」
蓼丸の兄貴はそう言って、長尾達に目線を戻した。
この人は、敢えてこの選択をしたんだ。
俺達に邪魔が入らないように。
結城組長も、石田の兄貴も、化け物じみた戦闘能力を持っている。
蓼丸の兄貴だって、きっと強い。
俺は兄貴の武運を祈りつつ、目の前の竹之内に集中した。
「そろそろ再開しようじゃないか」
雑賀がそう言って、拳銃をぶっ放した。
「当たるか」
石田の兄貴が銃弾を躱しながら飛び出す。
一瞬で雑賀に近づくと、忍者刀を振り降ろした。
「おっと」
雑賀は横っ飛びでそれを回避する。
“ガンッ!!”
振り降ろされた忍者刀が、地面にぶち当たった。
それが開戦の合図だった。
「やっ、やるぞ!!!」
「ぶっ殺せェえええええ!!!」
梵罵の手下達が、蓼丸の兄貴に襲い掛かる。
「そうか兄ちゃんらァ、そんなに死にたいんか」
蓼丸の兄貴のククリナイフが、ギラリと光った。
「死ねェええええええええ!!!」
1人の手下が、ナイフを振るう。
「遅すぎるわ」
だが蓼丸の兄貴はすれ違いざまに、そいつの腹を斬り裂いた。
「ぐふっ_____!!!」
そいつは血を吐き、前のめりに倒れた。
「いっ、今だ!!!」
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
「死ね蓼丸____!!!」
さらに3人が、兄貴に向かっていく。
「アホやなぁ。黙って来れんのか?」
蓼丸の兄貴はずっと冷静だ。
薄ら笑いを浮かべながら、取り出したのはスプレー缶。
兄貴はそれを手下達に吹き掛けた。
「ぐぎゃぁアアアアアアアアア!!!」
「げほっ!!何だこれェええええ!!」
「目がぁアアアアアアアアアアアアア____!!!」
スプレーから出た霧を吸った奴らは目を覆い、何度も咳き込む。
この場で視界を切るのは命取り。
蓼丸の兄貴は、既に奴らの隣に居た。
「ちと改良した催涙スプレーや。ほんじゃさいなら」
別れの挨拶をしながら、兄貴は奴らの命脈を次々と絶った。
「ヒヒャヒャヒャ!やってくれますね〜〜〜。ならば一気に吹き飛んでもらいましょう〜〜〜〜」
手下の失態を見かねた長尾が、懐から爆弾を出そうとする。
しかし、それよりも先に…。
“ドン!!”
銃弾が長尾の右肩を貫いた。
「あぎゃぁアアアアアアアアアア____!!!」
長尾が悲鳴を上げて地面に転がる。
その弾丸を放ったのは、蓼丸の兄貴だった。
いつの間にスプレー缶から拳銃に持ち替えたのだろう。
「隙あり過ぎや。ナメとんのか。ほんでお前らもボス守らんで何しとんねん」
その説教は、長尾の手下達にも向けられた。
「外道な上に無能。生きる価値無いなァ」
蓼丸の兄貴はそう言うと、銃を乱射した。
長尾の手下達は抵抗できず、次々と撃ち抜かれていった。
一方俺は、竹之内と睨み合っていた。
「馬鹿かお前。その様で俺に勝てると思ってんのか?」
昼に竹之内に殴られまくって、俺の体はボロボロの状態だ。
傷は全く治ってない。
実は動く度に痛む。
だが、そんなもんどうってことない。
「テメェらが傷つけた人達の痛みに比べたら、こんなもんそよ風なんだよ。てかよぉ、お前こそボロボロじゃねェか」
竹之内は額から胸にかけて斬られていて、さらに爆傷まで負っている。
これは石田の兄貴によって負わされたものだ。
「災難だったなぁ。ブサイクが増してんぞ」
「ナメやがって!クソガキがァアアアアアアアアアア!!!!」
挑発に乗った竹之内が飛び掛かってきた。
俺も迎え撃つように前に出る。
「オルァアアアアアアアアアア____!!!!」
竹之内が叫びながら、拳を振るう。
だが何故か俺の目には、それがスローに見えた。
「うおおおおおおおおおおお_______!!!!」
俺は雄叫びを上げながら、その一撃を躱す。
その勢いのまま、奴の懐に飛び込んだ。
「オラァアアア!!!!」
俺は竹之内の腹に、思いっ切り拳をぶち込んだ。
「グホァアアアア______!!!」
竹之内は呻き声を上げ、後ろに下がった。
ある程度気合いが入ってるのか、奴は倒れずに踏み止まった。
「ゲホッ……ナメんなァアアア!!!」
竹之内が再び雄叫びを上げる。
そして奴の拳が、俺の顔面を打ち抜いた。
「ぐッ………!!!」
血が弾け、脳が揺れるような感覚。
俺は倒れそうになりながらも、なんとか踏ん張る。
これくらいが何だ。
こんなもん、奴らに踏み躙られた人達の痛みに比べたら……。
「そよ風だって……言ってんだよ!!!!」
俺は竹之内の顔面を殴り返した。
「ゴフッ……、ウガァアアアアアアアアアア!!!!」
竹之内もまた、俺を殴る。
こうなったら、単純な殴り合いだ。
殴られたら殴り返す。
先にぶっ倒れた方が負け。
ただそれだけの勝負。
殴り合いってのは、一種の我慢比べなんだよ。
「ゼェ…ゼェ……」
「ハァ………ゴフッ!!」
いったいどれだけ殴って、殴り返されただろう。
気づけばお互い、顔面ボコボコだ。
「ゼェ……ゼェ………クソッ!!」
竹之内が悪態を吐く。
奴の顔には、疲労と僅かな焦燥が見えた。
(なんだコイツ……!昼間あんなに弱かったのに、全然倒れねェじゃねェか!どうなってやがる!!早く倒れろよ!!)
一見互いに決め手に欠ける状況だろう。
だが、俺の粘りが竹之内のメンタルを徐々に削っていたんだ。
「さっさと……倒れろぉオオオオオオオ!!!」
焦った竹之内が、力任せに拳を振り降ろした。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
それに対して俺が選んだのは、頭突き。
竹之内の拳を、額で迎え撃った。
“ゴキッ_______!!!”
鈍い音が、周囲に響き渡った。
俺は反動で後ろによろける。
そのまま背中から倒れそうになるが、なんとか踏ん張った。
額が割れたようで、血がポタポタと地面に零れる。
だが、ダメージは竹之内の方がデカかった。
「ぐっ……がァアアアアア!!!拳がっ……アァアアアアアアアアアア_____!!!」
奴は右手を抑えてのたうち回っていた。
今の激突で、拳が砕けちまったらしい。
竹之内の右手は、もう死んだ。
俺も頭が揺れてるような感じがするが、そんなもん関係ねェ。
「おい。それくらいで何泣いてんだよ。テメェらに泣かされた人達の痛みは、そんなもんじゃねェぞ!!!」
俺はゆるりと竹之内に歩み寄る。
痛がってる奴を見ると、さらに怒りが込み上げてきて……。
目の前が、真っ赤に見えた。
「立てよ。まだ左が使えんだろ。左で殴ればいいだろ。なァあ!!!!」
「ヒッ!」
竹之内は短く悲鳴を上げた。
図体デカいくせに情けねェ声出しやがって。
もういい、終わらせる。
俺は竹之内に向かって歩を進めた。
「ッ……!!このっ……ガキがぁアアアアアアアアア!!!」
ヤケクソなのか、竹之内が立ち上がり、襲い掛かってきた。
上等だ。
最後に、とことんぶちのめしてやる。
「うるせェクソデブが!!!!」
俺は右ストレートを竹之内の顔面にぶち込んだ。
「ゲガッ!!!?」
もろに食らった竹之内は、白目を剥く。
よく見ると歯が折れて、口から飛び出していた。
だが無論、こんなもんじゃ終わらせない。
「オラどうしたァアアアアアアアアアア!!!!」
今度は腹を蹴り上げる。
竹之内は豚みたいな呻き声を上げ、背中から倒れそうになる。
だが、まだ楽にさせねェ。
俺は竹之内の胸ぐらを掴んで、無理矢理立たせる。
そしてひたすら殴りまくった。
「さっきの威勢はァ!!!どこ行ったァ!!!!あァ!!!?」
「うぶっ!!!ごべっ!!!…やっ、やめ……ンボべッ!!!!」
ここから竹之内は、ただ殴られるだけだった。
悲鳴を上げるだけの、ただのサンドバッグ。
コイツ、こんなに弱かったのかよ。
俺は昼間こんな奴に負けたのか。
そう思った時、自分自身に対しても怒りが湧いてきた。
「オラァアアアアアアアアアア!!!!」
俺の怒りの拳は、竹之内の顎を打った。
それが決定打となり、奴の意識は飛んだ。
「ハァ…ハァ……。……俺の勝ちだ…、クソ野郎……」
俺が手を離すと、竹之内は糸が切れた人形みたいに倒れた。
「ゴフッ……。あぁ…そうだった……」
俺はポケットから、ドスを取り出す。
これは事前に蓼丸の兄貴から受け取った物だ。
あの人は言っていた。
しっかり殺せ……と。
「ッ……!!」
俺は今まで何度も喧嘩をしてきたが、人を殺すなんてことは無かった。
けれど、俺は今からコイツを殺さなければならないんだ。
これが俺が飛び込んだ世界なんだ。
解っているのに、ドスを持つ手が自然と震える。
……なにビビってんだ、俺。
ビビるな。
牧浦を殺すって決めただろうが。
刃裟羅を潰すって決めだろうが。
ここで日和って、義成の仇が打てるか。
思い出せ。
コイツらがやってきたことを。
「……じゃあな。先に地獄に行っとけ」
俺は竹之内の胸に、ドスを突き立てた。
体が限界だったからなのか、それとも殺人に対するショックからなのか…。
俺はしばらく動けなかった。
一方、石田の兄貴と雑賀は得物を構え、一定の距離を保っていた。
お互い、まだデカいダメージはない。
ふと雑賀が、俺の方を見た。
「ほぅ……。きみの弟分、勝ったようだね。なかなか根性あるじゃないか」
「………」
「だけど、殴られ過ぎたね。あれはもうまともに動けないだろう。何なら、先に逝ってもらおうか」
俺を殺そうとすれば、石田の兄貴は必ず庇う。
その隙を付けば斬れる。
そう考えた雑賀が、俺に銃口を向けた。
だが、その瞬間_____。
“ガッ______!!!!”
雑賀が持つ拳銃に、なんと苦無がぶつかったんだ。
「何っ!?」
雑賀の手から、拳銃が弾かれて落ちる。
しかし、奴に休息は無かった。
(ッ………!!……いつ踏み込んだ…!?)
一瞬にも満たない時間。
なんとその間で、石田の兄貴は雑賀の懐を侵略していたんだ。
「死ね」
感情の無い声でそう言いながら、石田の兄貴は忍者刀を横に薙いだ。
「ぐおっ_____!!」
その一撃は、雑賀の腹を斬り裂いた。
だが奴は反射的に後ろに飛んでいて、致命傷は免れていた。
とはいえ、これはかなりの深傷だ。
「ゴフッ……。君…ワープが使えたのか……!?」
この状況でも、雑賀は軽口を叩く。
奴が言うように、実際俺の目から見ても、石田の兄貴は速すぎてワープしたようにしか見えなかった。
「チョロチョロすんな」
石田の兄貴は追撃に出る。
さっきと同じくらいのスピードで雑賀に迫り、忍者刀を振り下ろす。
「ぐっ________!!」
雑賀は山鎌で受け止める。
腹を横に斬られた状態で、これはきつい筈…。
だが、奴は不敵に笑っていた。
「ゴフッ……!フフッ…もらった!」
雑賀は血を吐きながら、山鎌で忍者刀を絡め取った。
これにより、兄貴は忍者刀を動かせなくなった。
「フッ_____!」
続いて雑賀が、石田の兄貴の顔面目掛けて口から血を噴き出す。
しかもなんと、その中に針が含まれていた。
「フン……」
だが、石田の兄貴もエグい。
顔を傾けるだけで、それを躱してみせたんだ。
しかし、雑賀の攻撃はまだ終わらない。
「これはどうかな」
次は金的狙いの前蹴り。
顔への攻撃後に、これは予想外。
…の筈だった。
「食らうか」
石田の兄貴は、その蹴りを足でガード。
なんとこれも防いでみせたんだ。
(これも反応できるか。だが、目が下に向いた)
突然、雑賀の服の袖口から長い針が降りてきた。
雑賀はそれを掴むと、素早くそれを石田の兄貴の首に刺しに掛かった。
“グサッ_____!!”
針が肉を貫く。
しかし……。
「ッ……!!?」
「……つまらねェ」
針が刺さっていたのは、石田の兄貴の左腕。
兄貴はこれすらも防いでみせたんだ。
「なんという……!」
「終いだな?」
痛みを気にすることなく、石田の兄貴が左腕を動かす。
そうすると、雑賀の針を持つ右手もどかされた。
2人の目線の先には、互いの顔のみ。
この状況石田の兄貴が繰り出したのは、頭突きだった。
「オラァ!!!」
“ゴッ______!!”
「うぶっ!!!」
石田の兄貴の額が、雑賀の鼻っ柱を折る。
だが、兄貴はこれで終わらせない。
追撃として、雑賀の鳩尾に前蹴りを食らわせた。
「ゴハッ……!!!」
血を吐き散らしながら、雑賀は転がっていく。
奴はもう、ボロボロだった。
「ゲホッ…。石田海星……。ここまで、とはね……」
雑賀はこの状況でも、薄ら笑いを浮かべる。
「きみの首は…また今度だ……」
そして懐から、黒い球体を取り出した。
「……ッ!!逃がすか!!」
その球体を見た途端、石田の兄貴が飛び出した。
だが、それより先に雑賀は球体を地面に叩きつける。
その瞬間、白い煙が一気に広がった。
雑賀が居たところに向かって、石田の兄貴が忍者刀を振るう。
しかし、それは空振った。
「チィ___!」
石田の兄貴は煙に向かって、苦無を3本投げる。
だが、どれも当たった様子はない。
煙が晴れた頃には、雑賀の姿は消えていた。
よく見ると、奥の窓ガラスが割れている。
そこから外に出たようだ。
「チッ!逃げやがった…」
石田の兄貴が小さく呟き、舌打ちをする。
静かだが、沸々と怒りが伝わってきた。
「おぉ〜、そっちも終わったか。こっちも片付いたで〜〜」
戦いの余韻に浸っていると、蓼丸の兄貴が長尾を引き摺り、こっちに歩いてきた。
梵罵アジト内の奥の個室。
俺達はそこに、長尾をぶち込んだ。
そして周りに、奴が作った爆弾を置いていく。
「まっ…ままま待ってください!私を殺すなんて、あっ
、ありえません!未来への、損失ですよ!!?」
「黙れ」
石田の兄貴が長尾の顔面を蹴る。
そして奴の髪を掴んで持ち上げる。
「思い上がってんじゃねェぞ。テメェはこの世に必要ねェんだよ」
石田の兄貴の冷たい視線が、長尾に突き刺さる。
長尾は顔を真っ青にしていた。
よく見ると、奴の両手足はあり得ない方向に曲がっている。
蓼丸の兄貴に折られたようだ。
「これ、時限式やな」
その蓼丸の兄貴が、1つの爆弾を持ってきた。
それに付いた時計が示す時間は、10分。
兄貴は躊躇なく、その爆弾のスイッチを押す。
すると時間が減り始めた。
「なっ…ななな何をしているのですか____モゴッ!?」
慌てた長尾の口の中に、蓼丸の兄貴は爆弾をぶち込んだ。
「ムゴォオオオオ_______!!!」
「なにビビっとんねん。本望ちゃうか?自慢の爆弾で死ねるんやからなァ」
「ムゴッ……ムゥウウウウウウ____!!!」
長尾は、首をブンブンと横に振る。
その様子を見た蓼丸の兄貴の額に、青筋が浮かぶ。
「せやんなァ…。死にたないよなァ……。せやけどなァ、お前に爆殺された人達も、み〜んな死にたくなかったんやァ」
「ウブッ______!!!」
「せやけど……時間までにここから出られたら、助かるかもしれへんで。まっ、せいぜい頑張るんやなァ」
蓼丸の兄貴はそう言うと、部屋から出ていく。
石田の兄貴は長尾を、地面に叩きつけた。
「出るぞ」
「はっ……はい」
「解り…ました……」
石田の兄貴に言われ、俺と夏目も部屋を出る。
長尾の絶望する顔を見送りつつ、兄貴はドアを閉めた。
そして時間は経過し……。
“ドカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!”
爆弾が、起爆した。
その後も何度か爆発音がする。
周りに置いていた爆弾も、連鎖的に爆発しているようだ。
工場内がオレンジ色に照らされて、パチパチと火の音もする。
その様を見ながら、蓼丸の兄貴がタバコに火を点ける。
「ふぃ〜……。みんなお疲れさん。ようやったわ。特に苗木。初のカチコミにしては上出来や」
「あっ、ありがとう…ございます……」
蓼丸の兄貴が褒めてくれたが、正直素直に喜べなかった。
竹之内を刺した感覚が、まだ手から離れない。
蓼丸の兄貴は、それを察してくれた。
「……まぁ、最初はみんなそんなもんや。海星も最初はそんな感じだったしなァ」
「石田の…兄貴も……?」
俺は恐る恐る、石田の兄貴の方を見た。
「……」
石田の兄貴は、無言で俺から視線を逸らした。
「石田の…兄貴……!」
俺は、石田の兄貴と向き合った。
この人に、言わなければならないことがある。
「本当に、すみませんでした!俺は石田の兄貴の気持ちも、カタギの皆さんのことも、考えていませんでした!本当に、何も見えてませんでした!」
「……」
「こんなことを言う資格はないかもしれませんけど、俺は……結城組を続けたいです!義成達のような犠牲者が出ないように、この町の皆を守り続けたいです!そのために、強く、なりたいです!」
「…」
「こんなこと、聞きたくないかもしれません。ですが…こんな俺ですが……これからもどうか…よろしくお願いします!俺を、結城組に居させてください!!!」
俺は石田の兄貴に、深々と頭を下げる。
この人は今、どんな顔をしているだろう。
正直顔を上げるのが恐い。
そもそも、どの面下げてがこんなことを言ってるんだよ。
こんなの、叩き斬られたって仕方ない。
そんなことを思っている矢先、石田の兄貴が口を開いた。
「……明日は、朝から掃除だ」
「ッ……!?」
俺は咄嗟に顔を上げた。
石田の兄貴が目の前に立って、俺を見ていた。
表情は読めないが、その目には厳しさが宿っていた。
「全力でやれ。強くなりてェならな」
「ッ……!!はい!!」
そう応えると、石田の兄貴が背中を向けて歩き出す。
俺はその後を追った。
この人は、多分まだ俺のことを認めてくれていない。
だからこそ、まだまだこれからなんだ。
「まったく…ほんま素直じゃないな。夏目、俺らも帰るで」
「はっ…はい!」
蓼丸の兄貴と夏目も歩き出す。
こうして俺は、結城組に入ることができた。
そして、刃裟羅の傘下の組織を潰すこともできた。
だが、結城組と刃裟羅との戦いは、まだまだここからだったんだ。