7話
俺の名前は苗木宗佑。
蓼丸の兄貴、それから夏目と共に、梵罵のアジトに乗り込んだ結城組の舎弟だ。
アジトでは、既に戦闘が始まっていた。
既に4人も死んでるし、爆発の跡がある。
それから長尾と、血塗れの竹之内、それと10数人の手下と思われる奴ら。
さらには、山鎌を持ったピエロみたいな見た目の不気味な男まで居る。
それに相対するように、石田の兄貴は立っていた。
この人数相手に、今まで1人で粘っていたのか。
「よっ、海星。救援来たで」
「石田の兄貴!助けに来ました!」
蓼丸の兄貴と夏目が声を掛けた。
「蓼丸の兄貴、少々ややこしかったんで、助かります。ですが……」
石田の兄貴は、俺に視線を向けた。
「ガキィ……。なんでテメェがここに居んだ。破門っつったよな?」
その目は怒りで燃えている。
当然だ。
兄貴からしたら俺は、私情で組を利用しようとした挙句、負傷したカタギを見捨てて主犯を追って、返り討ちに遭ってノコノコ帰ってきた…。
弱い上に自分勝手。
カタギを守る気もない。
石田の兄貴にとって、俺はそんな奴だ。
「鉄火場でテメェに何ができンだ。先にぶち殺すぞ!!」
石田の兄貴から、明確な殺意を向けられる。
恐い。
メチャクチャ恐い。
全身から汗が噴き出る。
……けど。
それでも、俺にはやることができたんだ。
結城組でやることが。
「石田の兄貴!俺________!!」
俺がそう言いかけたとき……。
“ダン!!”
一発の銃声が鳴り響いた。
石田の兄貴が体を逸らす。
その隙を、銃弾が通り抜けた。
「ほぅ、なかなかの集中力じゃないか」
見ると山鎌の男が拳銃を向けていた。
石田の兄貴は、無言で忍者刀を構える。
「おや?弟分とのお話はいいかい?」
「弟分じゃねェし……、話はテメェを殺してからだ」
その瞬間、石田の兄貴と山鎌男が激突する。
忍者刀と山鎌の、斬撃の嵐。
石田の兄貴もそうだが、あの山鎌の男もただ者じゃない。
「あいつ、“首刈り”雑賀やな」
蓼丸の兄貴がボソリと呟く。
「首刈り…?」
「せや。雑賀譲二。あいつも刃裟羅の幹部や。山鎌で人の首を刈ってコレクションしとるから、付いたあだ名は“首刈り”雑賀」
「……あいつも?」
「あぁ。梵罵は刃裟羅の下部組織。幹部が居てもおかしくないわな」
雑賀譲二…。
あいつも、牧浦と同じく刃裟羅の幹部。
それに、人を首をコレクションにしているだと…。
「蓼丸の兄貴、あいつが人の首をコレクションにしてるっていうのは…?」
「あぁ、文字通りや。無関係のカタギを襲って首刈っとる。今すぐにでもぶち殺したいくらいや」
蓼丸の兄貴の額に、血管が浮かぶ。
俺も雑賀に対して怒りが湧いてきた。
しばらく2人の戦闘を見ていると……。
「クソがァアアアアア!!俺を無視すんじゃねェええええええええ!!!」
竹之内が、石田の兄貴に後ろから襲い掛かった。
まずい。
俺は自然と走り出していた。
そして竹之内の手が石田の兄貴に届く前に…。
「オラァアアアアアアアアアア!!!」
俺は拳で竹之内の顔面を打ち抜いた。
「ゴハァアアアアアア______!!!!」
不意を突いたのもあってか、竹之内は派手に地面に転がった。
「ほぅ?」
「テメェ……」
俺の行動が予想外だったのか、雑賀と石田の兄貴が動きを止めた。
「ッ……!!…ガキコラァ!!邪魔すんじゃねェ!!!」
血を撒き散らしながら、竹之内が吠える。
コイツの目標が俺に変わった。
それでいい。
石田の兄貴の邪魔はさせない。
「クソガキ!邪魔すんな!!」
また石田の兄貴に怒られる。
俺を叱責した隙を見て、雑賀が山鎌を振るった。
「ッ!!」
石田の兄貴は間一髪、忍者刀で止めた。
「石田君、話は私を殺してからじゃなかったか?」
「言われなくとも……そのつもりだ!!」
石田の兄貴が力尽くで忍者刀を振り切る。
その勢いを利用し、雑賀が後ろに跳んだ。
再び2人に距離ができる。
その隙に俺は口を開いた。
「石田の兄貴!!」
「邪魔すんなっつってんだろ!!」
「俺、結城組でやりたいことができたんです!!!」
俺は思い切って、そう叫んだ。
「……」
石田の兄貴は、ジロリと俺を見る。
その間、何故か雑賀も手を出してこなかった。
俺は言葉を続ける。
「俺は、何も見えてませんでした!復讐のために、結城組の皆さんやカタギの皆さんを踏み躙りました!ですが、蓼丸の兄貴と話して、初心に帰って……目が覚めました!だからもう、間違えません!!俺を、結城組に居させてください!!!」
「…………」
石田の兄貴の目が、俺の目をジッと捉える。
やっぱりこの人達は、目の中をじっくりと見る。
相手の本心を知るために。
「……話は後だ。まずこの鉄火場で生き残れ」
石田の兄貴は、俺に背を向けてそう言った。
そして視線を雑賀に移した。
「はい!!」
俺も竹之内に向き直る。
奴は拳を鳴らして立ち上がっていた。
「ガキィ、昼間俺にボコられたこと、忘れちまったのかァ?」
「あんなんどうってことはねェ。俺は負けず嫌いなんだよ。お前みたいな外道に、もう2度と負けねェ!」
俺も拳を握りしめた。
それを見た蓼丸の兄貴の目が、少し険しくなる。
「苗木ィ。お前にとっては初めてのカチコミやけど、俺らにとって粛清ってのは殺しや。さっき言った通り、しっかり殺りや」
命が懸かっているからだろう。
その口調は厳しいものだった。
そして俺の上着のポケットには、蓼丸の兄貴から貰ったドスが入っている。
ビビってないなんて言ったら嘘になる。
俺は今まで人を殺したことがない。
俺に殺れるのかっていう、不安もある。
だけど、腹を括るしかないだろう。
刃裟羅に踏み躙られる人間を、これ以上出さないために、奴らを殺す。
俺は、そういう道を選んだんだ。
「……はい!コイツは必ず殺します!」
俺の応えを聞いた蓼丸の兄貴が、満足げに笑った。
「えぇやん。よく言ったで苗木。……さてと」
蓼丸の兄貴も前に出る。
右手に握られているのは、ククリナイフ。
兄貴は長尾とその手下達に向かって、ゆっくりと歩み寄る。
「ヒヒャヒャヒャ!化石極道が3人増えたところで、結果は変わらないのですよ!全員派手に吹き飛んで地獄行きです〜〜〜」
笑いながらそう宣言する長尾に対し、蓼丸の兄貴の額に血管が浮かぶ。
「やかましい。しょうもない価値観でカタギを吹っ飛ばしたお前は、壮絶死しかあらへん。夏目、援護射撃頼むで」
「はっ、はい!」
夏目も震えながら、拳銃を構える。
こうして各々対戦相手が決まった。
結城組による粛清は、ここからだったんだ。