6話
「……話…ですか?」
「あぁ。再就職に向けてのアドバイスくらいはできると思うで」
俺の名前は苗木宗佑。
目の前に立つ蓼丸千秋と、思わぬ再会を果たした結城組の舎弟だ。
いや、もう結城組は名乗れないな。
俺は梵罵の奴らに敗北し、ボロボロになって帰還。
その後石田の兄貴にぶっ飛ばされて、破門を言い渡されたんだ。
事務所の床に倒れ、今後どうしようか考えていた矢先に、この人が現れたんだ。
「ボロボロじゃないスか!手当てしましょうか!?」
そういえばこの眼鏡も居るんだった。
「いやいらねェ…。ってか誰?」
「あっ!申し遅れました!はじめまして!俺は夏目隆!この結城組で舎弟をやらせてもらってます!昨日入ったばかりの苗木君ですよね!?俺の方が先輩なんで、そこんとこ履き違えないように!」
「お前もまだ一ヶ月しか経っとらんやろ」
蓼丸の兄貴が呆れながら、夏目を押しのける。
正直うるさかったらありがたい。
そうして兄貴はしゃがんで、俺に視線を合わせた。
「海星が声荒げるとか、あんま無いことやで。お前何やらかしたんや?言うてみィ」
話しやすいようにしてるんだろうか。
蓼丸の兄貴の口調は明るい。
「……実は、ですね」
俺はここまでの経緯を話し始めた。
その間蓼丸の兄貴は、黙って相槌を打っていた。
夏目が口を挟もうとすると小突く。
とにかく静かに話を聞いてくれた。
そして俺が話し終えたあと、兄貴は大きく頷いた。
「そりゃお前が悪いな。俺でもシバいとるし。てかシバいてえェか?」
「うぐっ……」
この人、軽い調子で心を抉ってくる……。
「……おっ、俺が悪いのは、解ってます」
「ほ〜〜ん?具体的にはどの辺が海星を怒らせたと思う?」
「威勢よく突っ込んでいきながら、返り討ちにされて帰ってきたところ……ですかね」
「解っとらんやんけ!」
“バシッ!”
「い”っ______!!!」
俺は頭を引っ叩かれた。
ヤバい、体中の傷に響く。
蓼丸の兄貴は頭を掻き、呆れた様子で続ける。
「誰だって最初は弱いモンや。うちは武闘派やけど、新人に戦闘力の高さは求めてへん。それより求めるのは、シマを、カタギを守ろうとする気概やな」
「気概……ですか」
「あァ。俺らは自警団や。守代払ってる店は守らなアカンし、シマの人間も大事にせなアカン。この辺治安悪過ぎて警察も目が回らんから、俺らが守ってんねん。ここまではえェか?」
「はい……」
「シマ荒らしは当然粛清すべきや。せやけどそいつらと一緒に、死にそうなカタギがおったらどうや?粛清と救護、どっちを取るべきや?」
「……そりゃあ、救護を………ッ!!!」
ここまで言われて、ようやく気づいた。
俺はあの時怒りに呑まれ、雑居ビルに取り残された人達を見捨てたんだ。
守らなきゃいけない人達を無視する。
ここで一番やってはいけないことだったんだ。
「待て苗木!!救助が先だろうが!!」。
思い返せば、石田の兄貴もそう叫んでいた。
俺はそれを無視して、梵罵の奴らを追ったんだ。
大した強さも無いくせに。
こんな奴、破門されて当然じゃねェか。
「解ったみたいやな」
「はい……」
俺の顔を見て、蓼丸の兄貴はニヤリと笑う。
それからすくっと立ち上がった。
「……ちなみにやけど、結城組は最初4人だけやったやったんや。その4人、誰やと思う?」
「えっ?…えぇと…」
いきなりそんなことを聞かれ、俺は戸惑う。
なんでいきなりそんなこと…。
まぁでも初期メンバーっていうなら、半分はなんとなく解る。
「長とカシラ…は確定でしょうか……。あと2人は…解らないです」
「俺と海星や」
「へぇ…蓼丸の兄貴と……えっ!?石田の兄貴!!?」
「えぇえええええええええ_____!!!?」
これには俺も夏目も驚く。
蓼丸の兄貴はなんとなく解る。
だが、石田の兄貴が初期メンバーだという事実は衝撃的だった。
「石田の兄貴って、そんな昔から居たんですか?」
「俺達とそこまで歳変わりませんよね!?」
「せやな。何なら、長が最初に出会ったメンバーが海星や」
蓼丸の兄貴によると、石田の兄貴が長に出会ったのは、10歳の頃だったらしい。
当時親からネグレクトを受けていた兄貴はろくに食事を与えられず、ゴミ捨て場を漁る毎日。
痩せっぽちで、髪が伸び放題で、服もボロボロ。
兄貴の姿が不気味に映ったのか、周りの大人達は見て見ぬ振りをしていた。
そんな日々を送っていた矢先に、長が兄貴を拾ったそうだ。
「そんで俺らが愛情込めて育てた結果、メチャクチャ強くなったもうたわ。まぁあいつにとって結城組は実家。スイートホームっつーわけや」
「……」
石田の兄貴にとって、結城組は大切な居場所だったんだ。
自身をここまで強くしてくれた人達が、築き上げた場所。
それを俺は、自分の復讐のために利用しようとした。
兄貴の気持ちなんて考えず、自分勝手な理由で踏み込んだんだ。
そんなの、誰だってキレるだろ。
「ははっ……。こんな奴、破門にされて当然っスね。蓼丸の兄貴、俺…極道向いてなかったみたいです……」
「そうかァ?俺はそう思えんけどな」
自虐的に笑う俺に対し、蓼丸の兄貴の反応は意外なものだった。
「苗木宗佑。お前の情報は何度か入ってきおったで。下衆を見たらシバいとるガキが居るってな」
「そうだったんですか…?」
「こういう時こそ初心に帰ってみるモンや。今まで殴った下衆の顔を思い返してみィ。苗木、お前なんでそいつら殴った?」
俺は言われた通り、今まで殴ってきた奴らを振り返る。
義成をいじめた奴ら。
妊婦を蹴りやがったおっさん。
駄菓子屋の婆ちゃんを脅してた悪漢。
ホームレスの爺さんを蹴っていた3馬鹿。
正直両手の指じゃ数え切れない。
けれど、どのケースにも共通していることがある。
それは下衆共が、自分より弱い奴を踏み躙っているところだ。
腹が立ったらぶん殴る。
腹が立つ時は、決まってそういう奴を見た時だ。
「……腹立つからです」
「どういうところが腹立つ?」
「自分より弱い奴を平気で傷つけて、笑ってるところ……ですかね。そういう奴らは、無性に殴りたくなるんです」
「……ええやん」
この時、蓼丸の兄貴の目が光った気がした。
「弱いモンを助けて、強いモンに屈さず立ち向かう。それを任侠って言うんや。苗木、少なくともお前の心には任侠がある。極道向いとるで」
「……ですが、俺は…自分の復讐のために……。自分勝手な理由でこの組に……」
「正直、入門動機は何でもえェよ。中には暴力振るってもえェからって理由で入ってくる奴も居るしな。大事なのは、入った後どうするかや」
「入った後…どうするか……」
刃裟羅への復讐のために、俺にできること……。
その時頭に過ったのは、2人の顔。
今回の爆破事件で爆傷を負った、ツムギというコンカフェ嬢。
重症のあの娘を無視してしまったことは、本当に悔いでしかない。
そして、義成だ。
あいつは俺に巻き込まれて殺されたようなものだ。
その2人に、今の俺がしてやれること…。
そんなの1つしか無いだろ。
「蓼丸の兄貴……俺、刃裟羅をぶっ潰したいです!」
雑居ビルの爆破も、義成を殺したのも、全部刃裟羅だ。
奴らは平気な顔で、いや、寧ろ楽しみながら人殺しができる。
野放しにしておけば、きっとこの先も犠牲者は現れるだろう。
だからこそ、刃裟羅は絶対に潰さなきゃならねェ。
俺はまだまだ弱いだろうが、それでも刃裟羅に立ち向かわなきゃならねェんだ。
この命を賭けて。
これ以上、踏み躙られる人間を生まないために。
その覚悟を認めてくれたのか、蓼丸の兄貴が深く頷いた。
「ほな行こか。まずは梵罵潰すで。海星のことやからもう終わってるかもしれんけど」
「いいんですか!?」
「そう言うてるやろ」
「ッ…!!……ありがとうございます!…ところで、梵罵のアジトってどこに…?」
「とりあえず付いてこい。俺情報通やねん。海星にアジトの場所教えたのも俺や」
蓼丸の兄貴はニヤリと笑ってそう言った。
石田の兄貴が言ってたこの手の情報に詳しい人って、この人だったのか。
「カチコミですね!?頑張ってください!!」
何故か夏目に声援を送られる。
コイツは行かないのか……。
「何言うとんねん。お前も来い」
「あ”へ”ぇぇええええええええ_______!!!!」
やっぱダメだったらしい。
蓼丸の兄貴は夏目の後ろ襟を引いて走り出す。
俺は全力で後を追った。
俺達が事務所を飛び出す少し前、石田の兄貴は梵罵のアジトに付いていた。
「なるほど、廃工場をそのまま利用している訳か」
兄貴は迷うことなく、アジトのドアを蹴破る。
「オラァ!結城組の出入りだ!」
「なんじゃあ!!?」
「げっ!あいつは!」
「結城組の石田!!?」
廃工場の中には、20人近くの半グレが居た。
突然の襲撃者に、奴らは戸惑う。
そいつらに向かって、兄貴は刃物のような視線を送った。
「爆弾魔の下に付くテメェらも死ぬしかねェ」
そう言って石田の兄貴が抜いたのは、忍者刀。
これは実際に忍者が使っていたとされる、反りのない直刀だ。
兄貴の殺気に冷や汗を掻きながらも、前に出ていた3人の半グレが、得物を出す。
「ひっ、怯むな!見た感じあいつ1人だ」
「結城組の石田。殺せば箔付くぞ!」
「一斉に___ッ!!?」
一斉に掛かれ。
1人がそう言おうとした時…。
「勘違いしてんじゃねェぞ」
なんと石田の兄貴は、既に奴らの懐を侵略していた。
「俺1人で充分なんだよ」
そう言って石田の兄貴は、忍者刀を横に振るう。
その容赦の無い横薙ぎは、3人の命を一瞬で刈り取った。
「えっ_____」
一瞬の出来事に、とある1人の半グレの頭がフリーズする。
すると間髪入れず…。
“ドスッ”
「ぐべっ___!?」
そいつの額に、苦無が突き刺さった。
自分が死んだことにも気づかないまま、そいつは後ろに倒れた。
この間、僅か5秒。
石田の兄貴はその短い時間で、4人も殺してみせたのだ。
この事実に気づいた残りの半グレが震え上がる。
「うっ…嘘だろ……!?」
「何も見えなかった……」
「ばっ、バケモンだ……!!」
石田の兄貴が半グレ達を睨む。
それだけで、奴らはビビって後ずさった。
完全に戦意喪失している。
「まっ、待ってくれ!爆弾作ってんのは長尾さんだけで、おっ、俺達は関係ねェんだ!!」
1人が必死に弁明し始めた。
しかし、兄貴は赦さない。
「爆弾魔囲ってる時点でテメェらも同罪だ。しょうもない人生悔いながら死ね」
石田の兄貴はもう1本苦無を抜き、弁明した奴に投げようとした。
だがその時……。
「ッ____!?」
石田の兄貴は、背後から迫る殺気を感じ取った。
「チッ……」
舌打ちをしながらも、素早く横っ飛び。
それと同時に、兄貴が立っていたところを山鎌が通り抜けたんだ。
「あらら。石田海星の首を獲れたと思ったのに。速いじゃないか」
山鎌の持ち主が、そう言って不気味に笑った。
そいつは長い金髪を一本結びにしていて、何か塗ってるのか、唇は真っ青。
左目には、黒星のタトゥー。
さらに首を囲むように、黒いトランプのダイヤみたいなタトゥーも入っていた。
この異様な出で立ちの男を、石田の兄貴は知っていた。
「……刃裟羅幹部。“首刈り”雑賀だな?」
「あらら、私を知ってるか。嬉しい限りだ」
この雑賀という男は、石田の兄貴を前にして表情を崩さない。
2人が睨み合っていると、奥の部屋から長尾と竹之内が歩いて出てきた。
「騒がしいと思って来てみれば…。雑賀さん、来てくれていましたか。それから石田さん、わざわざ死にに来たのですが?」
「ガキィ、たった1人で来るたァ度胸あるなァ」
部下が既に4人殺されているというのに、コイツらもまだ余裕そうだ。
長尾の顔を見たと同時に、石田の兄貴の額に血管が浮かぶ。
「長尾ォ…。テメェのくだらねェ趣味で、何人死んだと思ってんだ」
「彼らは私の芸術を充分に引き立ててくれました。それで死ねるのですから、本望に決まっているでしょう」
「ぶち殺す」
兄貴は再び苦無を投げようとする。
だが、すぐそこに雑賀が居る。
「無視しないでくれ。悲しいじゃないか」
雑賀が山鎌を振り下ろす。
石田の兄貴は、それを際で躱した。
「彼らは仲間なんだ。これ以上減らさないでくれたまえよ」
「そうか。じゃあテメェから死ね!」
次の瞬間、2人は斬り合いに入った。
忍者刀と山鎌。
2つの凶器がぶつかり合い、室内を金属音が木霊する。
だが、石田の兄貴の相手は1人じゃない。
「オラァ!!ぺしゃんこにしたらァ!!!」
デカいハンマーを持った竹之内が、背後から迫ってきていた。
「面倒くせェな」
石田の兄貴は、またも横に飛ぶ。
その次の瞬間、竹之内のハンマーが落ちた。
威力は凄まじく、コンクリの床にヒビが入った。
ぺしゃんこにならずに済んだものの、兄貴に休息の時間は無い。
「そう避けると思ったよ」
既に雑賀が次の攻撃に移っていた。
山鎌で下から上に切り上げる。
石田の兄貴は凄まじいバックステップでそれに反応。
だが少し間に合わず、胸を浅く切られた。
「ファーストヒットは私が貰った。次は首だね」
「これくらいで喜んでんじゃねェよ」
傷を負い、不利な状況にも関わらず、兄貴の目は死なない。
とはいえ、この状況が続くのはマズい。
「オラァアアアアア!!もう一発行っとくかァアアアアアアアアアア!!!」
事実、竹之内が再度突っ込んできていた。
さらに躱した先を捉えるため、雑賀が兄貴の背後に回る。
「同じ手が通じるかよ」
石田は懐に手を入れる。
そこから取り出したのは苦無と、なんと炸裂弾。
そして苦無を雑賀の顔面に、炸裂弾を竹之内の足元目掛けて、ほぼ同時に投げた。
「うぉおおお!!マジかァアアアアア!!」
「おっと」
竹之内は急ブレーキを掛けたものの、足元で炸裂弾が爆破。
そのまま後ろに吹き飛ばされた。
雑賀は体をずらして苦無を外す。
だが、ほんの僅かに雑賀のスピードが落ちた。
兄貴の狙いはそれだった。
持ち前のスピードで、一瞬にして雑賀との間合いを潰す。
次の瞬間……。
「お前ちょっと吹き飛んどけよ」
石田の兄貴の全体重をかけた蹴りが、雑賀の鳩尾に突き刺さった。
「ぐふっ!!!」
雑賀が苦悶の表情を浮かべ、後ろに吹っ飛ぶ。
蹴りの反動を利用し、石田の兄貴は雑賀と逆方向に跳んだ。
その先に居るのは、膝を付く竹之内。
炸裂弾の爆破によって、ダメージを受けていた。
「まずはテメェからだ」
「ぐぅううウウウウウウウ!!!」
石田の兄貴が忍者刀を振り上げる。
竹之内はそれをガードするため、ハンマーを構えた。
“ドシュッ!!”
落雷のような唐竹割りが落ちた。
兄貴の忍者刀は、ハンマーの柄を真っ二つに切る。
さらには竹之内の額と鼻先、胸を縦に斬り裂いていた。
「ぐぅウウウウウウ!!!クソガキィいいいいい!!!」
まるで、死んでたまるかとでも言うように、竹之内が怒声を発する。
そして石田の兄貴に掴み掛かった。
だが、奴の手は空を切る。
既に石田の兄貴は半歩引いていたんだ。
「ゲホッ!ちょこまか逃げるなコラァ!!!」
「逃げねェよ。テメェは殺せるからな」
石田の兄貴が再び忍者刀を振り上げる。
するとそれを妨げるように、1つの拍手が鳴り響いた。
長尾が、手を叩きながら前に出てきたんだ。
「す〜〜ばらしい!流石は結城組の最強戦力石田さん。見事な戦いぶりです」
「頭おかしくなったんかコラ」
「そんな素敵なあなたに、特別なプレゼントです。お受け取りください」
長尾は厭らしく笑いながら、石田の兄貴に向かって何かを投げた。
「おいおいおい!俺も居るんだぞ!」
その直前、竹之内がその場から避難する。
石田の兄貴も、即座に反応する。
「マジで面倒くせェなァ!!」
悪態を吐きながら、その場を離れる。
そう、長尾が投げたのは爆弾だったんだ。
それが地面に付いた瞬間…。
“ドカァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!”
激しい爆発を起こした。
オレンジ色の炎が飛び散り、白煙が天井に昇る。
その様を見た長尾が、狂気的な笑みを浮かべた。
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!成功だ!!!やはり我が子の晴れ姿は美しい!!!」
手下が換気のために窓を開ける中、長尾は狂ったように笑い続けた。
「チッ、やっぱイカれてんぜあの人は」
竹之内は呆れた様子で長尾を眺めていた。
対して雑賀は、いたって冷静だった。
(長尾光太郎。奴の爆弾作りの腕は優秀だ。是非とも刃裟羅に置いておきたい。そのために…)
雑賀は梵罵の半グレ達に目を向けた。
「君達、何を日和っている?」
「さっ、雑賀さん…」
「いや、俺ら如きじゃ、戦いに入れませんって」
「何を言っているんだ?君達には私が付いている。長尾君や、竹之内君も居るだろう。さらに君達が加われば、もう石田海星に勝ち目は無いだろう。それに、私は石田海星の首を獲った者を、刃裟羅の幹部候補として推薦しようと思っているのだが、どうだ?」
雑賀は半グレ達に発破を掛けたんだ。
勝てるかもしれない。
名を上げるチャンスかもしれない。
そんな希望が、奴らを色めき立たせる。
「たっ、確かにいけるかもしれねェ」
「長尾さんと竹之内さんも居るしな…」
「おっしゃやるぞ!!」
「俺が幹部候補だ!!」
梵罵の半グレ達が、ここにきて盛り上がりを見せたんだ。
少し離れた柱の陰で、石田の兄貴がその様子を見ていた。
(チッ、雑魚がやる気になりやがった。……竹之内はまだ動ける。長尾の爆弾も油断できねェ。隙を作れば雑賀に斬られる。だりぃなァ)
心の中で毒を吐きながらも、石田の兄貴は後の展開について思案する。
だが、そのタイミングで……。
「石田の兄貴!!」
「はじめまして!!結城組です!!!」
「名前だけでも覚えて、地獄に行ってや〜」
俺と夏目、蓼丸の兄貴が、工場内に乗り込んだんだ。
「ッ!?………テメェ…」
俺を見た石田の兄貴の目に、また怒りが宿った。