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結城組  作者: マー・TY
5/8

5話

「戻りました」

「戻り……ました…」

「おぅ、お疲れ〜。……って、なんだァ?」

 俺の名前は結城高虎。

 見回りから帰ってきた海星と苗木を迎え入れる、結城組の組長だ。

 しかしコイツら、何故か会った時より距離がある。

 苗木は何かを思い詰めている感じだ。

 それに対し、海星は苗木を見もしない。

 ていうか、見回りする前より機嫌悪い。

 ここは組長として、ちゃんと話を聞く場面だな。

「どうしたお前ら?随分気不味そうじゃねェか。何かあったか?」

 とりあえず俺は、2人に声をかけた。

「別に何も」

「……何でもないっス」

 しかし2人はこの反応。

 いや絶対何かあったじゃねェか。

 俺は海星に対し、話を続ける。

「苗木の奴、何かやらかしたか?」

「何もやらかしてませんよ」

「じゃあ海星、お前なんでそんな不機嫌なんだよ」

「……奴の性根が気に入らないだけです。復讐のために俺らを利用しようとか…」

「……あぁ、なるほどな」

 苗木は半グレ組織“刃裟羅”の幹部に、親友を殺された。

 だから奴らと敵対し、唯一互角にやりあえる結城組に入門したんだ。

 全ては親友山井義成を笑いながら殺した、牧浦遊真への復讐のために。

 まぁ、俺はそのことを知った上で組に入れたんだけどな。

 居間でそんな話していると…。

「海星〜、帰っておるか?」

 古風な喋り方をする中年の男が入ってきた。

 ワイシャツの上から着物を羽織っていて、長い髪を1本に纏めている。

「塚原のカシラ……」

 海星がその男を見て、ボソリと呟く。

 そう、この男こそ結城組の若頭 塚原官九郎つかはらかんくろうだ。

「おぉ、戻っておったか。ちと事務作業の方を手伝ってはくれぬか?蓼丸たでまる椿野つばきの仙堂せんどうも逃げおってのぅ……むぅ?」

 塚原の視線が、苗木の方に移る。

 そういえばまだ紹介してなかったな。

「こやつは新入りか?」

「あァ。なかなか気合が入ってる奴だぞ。ほら、挨拶しろ」

「あっ…苗木宗佑です!」

「ふむ、苗木か……」

 塚原は苗木の目の前まで歩み寄った。

 その途端、苗木は緊張した面持ちを見せる。

「ッ……!!」

「そう臆するな、何もせぬよ。儂は塚原官九郎。この組の若頭を務めておる。ここでは2番目に偉いと思っておいて良い」

「よ、よろしくお願いします…!」

「しかしお主、何か迷った目をしておるのぅ。悩み事か?」

「ッ……!?」

 塚原は目を見るだけで、苗木の心情を言い当てやがった。

 裏社会を生きる俺達の目は鍛えられている。

 相手の目の奥を見れば、何を考えているのか、何を思っているのかが大体解る。

 特に塚原は、この能力がずば抜けていた。

「まぁ良い。苗木、お主も来い。アガリの計算を教えてやろう」

「えっ?ぐぇえええええ!!?」

 塚原は切り替えるや否や、苗木の後ろ襟を掴んで背負った。

 今から事務作業か。

「お前ら頑張れよ〜」

 俺はそう言って軽く手を振る。

 すると塚原が、ジト目で俺を睨んできた。

「何を言うておる。長、お主もじゃ」

「えぇ〜?俺も?」

「どうせ暇じゃろうが」

「暇って……。俺組長なんだけど?」

「ここ1週間分の作業が残っておる。先月もサボりまくった挙げ句、月末に地獄を見たじゃろうが。今から終わらせるぞ」

「長、やりましょう」

「海星お前まで……。はぁ…わ〜ったよ」

 こうして、俺、塚原、海星、苗木による、地獄の事務作業が幕を開けた。




 作業が終わった頃には日付が変わり、俺達4人はデスクに突っ伏していた。

「……とりあえず、やり…切ったな」

「なんとか、終わったのぅ……」

「お疲れ、様です……」

「頭……痛っ…」

 俺は伸びをして、グロッキー状態の苗木を見た。

 塚原が付きっきりだったとはいえ、初日にしてはよく働いてくれた。

 まぁでもおそらく、事務作業はほぼ完璧だろう。

 塚原がいろいろ叩き込んだからな。

「お疲れ苗木。今日は……いや、昨日はよくやったな。帰ってゆっくり休め」

「えぇ……いいんですか?」

「あぁ。明日……いや今日か。ややこしいな。とにかく、12時からでいい。やる気があるなら来い」

「ッ……!!はい、解りました……」

 苗木はフラフラと立ち上がると、事務所から出て行った。

 その背中を、塚原は見送る。

「事務作業でもしていれば気が紛れるかと思ったが、あやつ大丈夫かのぅ?」

「まぁそればかりはあいつ次第だろ。なぁ海星」

 一言呼ぶと、海星は顔を上げた。

 その表情は、どこか自信無さげだ。

「長、やっぱり俺に新人教育なんて無理ですよ。カシラの方が教えるの上手いじゃないですか」

「何言ってんだ〜?まだ1人目だろうが。そりゃ誰だって手間取るだろうよ」

「儂らもたくさん教えたじゃろうが。だから海星、今度はお主の番じゃ」

「………」

 組長と若頭にここまで言われると、流石にぐぅの音も出ないか。

 まぁでも、気持ちは解らんでもない。

 苗木はちょっと特殊だからな。

 ほとんどの新人は、極道への憧れとか、名を上げたいとか、そういう思いを持って入ってくる。

 それに対し、あいつの場合は復讐心だ。

 まっ、そういう奴らに極道の本質を教えるのも、上の役目なんだがな。

「……俺にできますかね…。あいつの教育」

「できるさ。お前ならな」

 海星の表情はまだ暗い。

 責任感が強い分、不安もデカいんだろうな。

 だからこそ、明るい言葉をかけてやる。

「お前は俺達からたくさん習ったんだ。それを今度は苗木に教えてやりゃァいいんだよ。それに、あいつに関してはお前が適任だと思うぜ」

「それってどういう……」

「そのうち解る。さっ、一旦解散だ!しっかり休めよ〜〜」

 俺は柏手を打って締め括る。

 海星は小さく頷くと、事務所を後にした。




 時間が進んで昼過ぎ。

 苗木と海星は、また一緒に見回りに出ていた。

 ルートは昨日とは別。

 ただ、2人の間にほとんど会話は無かった。

 海星は必要なこと以外何も言わねェし、苗木もそれに対する返事だけだ。

 流石に気不味過ぎるだろ。

 これからほぼずっと一緒だろうに…。

 まぁ、昨日会ったばっかだし、仕方ねェか。

 そんな2人が次に向かうのは、とある雑居ビルだ。

 このビルには各階に、カラオケやバー、コンカフェ等の店がある。

 そして各々が結城組に守代を払っている。

 この日もまた、各階に顔を出すだけのつもりだった。

 だが、もう少しでその雑居ビルに差し掛かるところで……。

“ドカァアアアアアアアアアアアン______!!!!!”

 突如として、爆発音が鳴り響いた。

「ぐっ……!?」

「うぉおおお!!?なんだっ!!!?」

 あまりの轟音に、苗木は驚く。

 海星は瞬時に空を見た。

 爆発が起きたであろう場所から、黒煙が上がっている。

(あの位置は…まさか……!!!)

 海星は走り出す。

「ッ…!!石田の兄貴……!!」

 苗木も慌てて後を追った。

「チィ…やはりか…!」

 海星の表情が曇る。

 奴の予想通り、訪問する筈だった雑居ビルが燃えていたんだ。

 その入り口で、1人のコンカフェ嬢が倒れていた。

 海星はその娘を起こす。

「ツムギ!しっかりしろ!」

「うっ、うぅ……石田さん…」

 ツムギという名のコンカフェ嬢は爆傷を負い、弱っていた。

 それでも掠れる声で、言葉を紡ぐ。

「みんなが…まだ…中に………」

「何だとっ!?」

 海星は雑居ビルを見上げる。

 窓ガラスが割れ、瓦礫が落ち、未だ大火が上がっている。

 そんな環境で、まだ取り残されている人間が居るという。

 それと同時…。

 苗木は近くの路地裏の陰に、怪しい男達が居るのを見た。

 1人は短髪で無精髭の大柄の男。

 そしてもう1人は、ロングコートを羽織った長髪の男だった。

 2人は燃える雑居ビルを見て、ニヤニヤと嗤っている。

 その表情は、牧浦が義成を殺した時のものと似ていた。

「お前らか……!」

 苗木はその2人に、怒りが籠もった目を向ける。

 その視線に気づいた2人は、奥へと駆け出した。

「苗木!消防と救急車呼べ!」

「お前らかァアアアアアアアアアア!!!!」

 海星の声を掻き消す勢いで、苗木が怒鳴る。

 そして奴らが逃げていった路地裏へと走り出した。

「待て苗木!!救助が先だろうが!!」

「待ちやがれェエエエエエエエエ______!!!!」

 海星の制止の声を無視し、苗木は奴らを追いかけていった。

 怒りのままに路地裏に入り、角を曲がっていく。

 そして、すぐ横を川が流れる道に出た時…。

「ッ!?」

 なんと追っていた2人が、待ち構えていたんだ。

「夢中になって見過ぎましたか。まぁ、こんな雑魚なら問題ないでしょう」

「坊や、兄貴分を置いてきてよかったのかぁ〜?」

 2人は余裕そうな顔で、苗木を小馬鹿にする。

 苗木は怒りに震える声で、口を開く。

「ビル燃やしたの、テメェらだな?」

「えぇ、いかにも」

「なんであんなことをした!?」

「私の偉大さを知らしめるためですよ」

 長髪の方が、誇らしげにそう言い放つ。

「はじめまして。梵罵ボンバー長尾ながおと申します。最も、もうすぐ刃裟羅の幹部になりますがね」

「なんだと…!?」

 なんとこの長尾という男は、刃裟羅の名前を出しやがったんだ。

 驚愕する苗木を他所に、長尾は勝手に話を続ける。

「私の趣味は爆弾作りでしてねぇ。作り上げた我が子があらゆる物を破壊する様が、とてつもなく愛おしいのですよ。そうして爆発を繰り返していた私ですがねぇ……最近、刃裟羅にスカウトされたのですよ」

 興奮しているのか、長尾の頬が紅潮する。

「“暴力による支配”。刃裟羅の理念は実に素晴らしい。我が子が組織の象徴となる。刃裟羅といえば、私の爆弾。そうなる未来を想像するだけで……イッてしまいそうですぅ〜〜〜!!」

「……よぉく解ったわ」

 身を捩って叫ぶ長尾に対し、苗木が拳を構えた。

「変態爆弾魔……!!テメェはここで、俺がブチのめす……!!!」

 長尾に向かって、激しい怒りをぶつける。

 それに対し、奴は苗木を鼻で笑った。

「あなた如きでは私に触ることさえできません。竹之内たけのうち君、や〜ってしまいなさい」

「おぅ!任せろ!」

 竹之内と呼ばれた大柄の男が、苗木の前に出た。

 そして掛かってこいと言わんばかりに、指を曲げて挑発する。

「サービスだ坊や。打ってみろ」

「あァ!?」

「どうせ俺が一方的に勝つんだ。これくらいのハンデがねェとつまらねェだろう」

 竹之内は自信満々に、デカい腹を突き出した。

 元はプロレスラーか何かだろう。

 奴の腹筋は鍛えられていた。

 その態度に、苗木の怒りがさらに増した。

「いいんだな?」

 苗木が前に出る。

 そして、拳を固く握った。

「後悔すんなよ!!!?」

 苗木は全力で竹之内の腹を殴った。

「ッ……!!うおっとぉ……。少しはやるようだなぁ」

 竹之内は全力の腹パン食らって尚、ピンピンしていた。

「なにっ……!?」

 苗木の背中を、冷たい汗が伝う。

「オラァ!!俺の番だァ!!!」

 今度は竹之内の拳が、苗木の腹に突き刺さった。

「ガハッ_____!!!」

 腹を固める暇もなく、その一撃はまともに入った。

 そして苗木が倒れると、竹之内は馬乗りになって顔を殴り続けた。

「オラオラオラオラァ!!さっきの威勢はどこいったガキィ!!!」

「ぐっ!ガハッ……ゴホッ!!!」

 上から一方的に拳をぶつけられる。

 苗木の意識が、徐々に薄れていく。

(畜…生……。こんな……奴に………!!)

 こうなってはもう、抗う術が無い。

 そして、苗木が完全に意識を失ったところで、竹之内が胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「あ〜あ。伸びちまったよ。つまんねェなァ」

「可哀想に〜。川にでも捨てておきましょう」

「そうだな」

 竹之内は苗木を、川へと放り投げた。

 意識の無い苗木は、そのまま下流へと流されていった。




 その後河川敷まで流れ着いた苗木は目を覚ます。

 空はすっかりオレンジ色になっていた。

 相当な時間眠っちまってたらしい。

「……くっそ!」

 苗木はしばらく立ち上がれなかった。

 殴られ続けた上に、川に流されたんだ。

 体はボロボロだろう。

 だが、肉体よりも精神面にダメージが来ていた。

(何やってんだよ俺は……。あんな奴らに…、一方的に殴られて……。情けねェ…)

 あまりの悔しさに、苗木は打ちひしがれる。

 まぁとはいえ、ずっとここで寝ている訳にはいかないだろう。

「帰ら……ねェと……」

 苗木はフラリと立ち上がり、歩き出した。

 そして結城組の事務所に戻った苗木を待っていたのは……。

「何やってんだクソガキ!!!」

“バキッ!!!”

 海星によるヤキだった。

 ボロボロの苗木の顔面を、容赦なく殴り飛ばす。

 それからぶっ倒れた苗木の腹を踏み抜いた。

「ガハッ_______!!!」

「俺の命令を無視。死にそうなカタギをほったらかして犯人を追跡。挙げ句の果てに返り討ちにされてノコノコ帰ってきやがって……。どこまでナメたら気が済むんだテメェはァ!!!!」

 あの冷徹な海星が怒号を発する。

 苗木はそれだけのことをやらかしたってことだ。

「いっ……石田の…兄貴……ゲホッ…」

 ここまでやられても、苗木はせめて伝えようとしていた。

 自身が対峙した奴らのことを。

「あの……ビルを爆発させた…犯人は……」

「梵罵の長尾だろ」

「ッ_________!!?」

 その一言に、苗木は言葉を失う。

 雑居ビル爆破の犯人を、海星は既に知っていたんだ。

「なん……で……」

「うちにはこの手の情報に詳しい人が居る。犯人教えたら褒めてもらえるとでも思ったか?」

 海星はそう言って、もう一度苗木の腹を踏んだ。

「ぐっ…ゲホッゴホッ……!!」

「自惚れてんじゃねェぞ無能が」

 海星は足を退けると、早足で事務所の玄関へ向かおうとした。

「石田の…兄貴……!!」

 苗木は海星を呼び止める。

「どこ…行くんですか!?」

「梵罵の粛清だ」

「俺も…行きます……!!」

「ダメだ」

 粛清の参加を申し出る苗木を、海星は拒絶する。

 そして、無慈悲にこう告げた。

「苗木、テメェは破門だ」

「ッ……!!!」

 その宣告に、苗木は再び言葉を失った。

 それでも海星の容赦無い言葉は続く。

「弱ぇ上にカタギを守る気もねェ。そんな奴に、結城組に居る資格はねェ」

「………」

「俺が戻るまでに出て行け。じゃねェと殺す」

 その目には、確かな殺意が宿っていた。

 冷たい視線で苗木を見下ろしながら、海星はそう告げる。

 それからすぐに、事務所から出て行った。

 苗木はたった1人、その場に残される。

 破門。

 その宣告は苗木にとって、かなり重いものだった。

「くそっ……畜生!!!」

 こんな自分が情けなくて、許せなくて、惨めで……。

 悔しさのあまり、苗木は思いっきり床を殴った。

「……これから、どうすりゃいいんだ…」

 結城組の他に、もう宛が無い。

 かと言って残っていたら、海星に殺される。

 完全にお先真っ暗だった。

 どうしたものかと悩んでいたその時……。

「うわぁ!!大丈夫っスか!?」

 眼鏡を掛けた若いのが、苗木に駆け寄ってきた。

 コイツの名前は夏目なつめりゅう

 苗木よりも、少し前に入った舎弟だ。

「なっ…なんだ……!?」

 夏目に起こされ、苗木は戸惑う。

 するとそこへもう1人、グラサンの男が入ってきた。

「破門、か。海星も容赦あらへんな」

 その男を見た苗木の目が、見開かれる。

「あなたは……!!」

「あの日以来やなぁ、苗木。出て行く前に、ちょいと話さへんか?」

 そこに立っていたのは、結城組の武闘派 蓼丸たでまる千秋ちあきだった。

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