2話
俺の名前は結城高虎。
敵対組織『刃裟羅』のヤサにカチコんだ、結城組の組長だ。
「結城組のトップがわざわざ殺されに来てくれるなんて〜〜!!嬉しいな〜〜〜!!組織内の遊ちゃんの評価爆上がりじゃん???」
相対するは、刃裟羅のNo.3 牧浦遊真。
子供のような言動とその残虐性から、“悪童”なんて云われて恐れられている。
それから奴の手下6人。
入ってきた時1人潰したから、あと5人だな。
そして、椅子に縛られてる若者2人。
緑髪の方はピンピンしてるが、金髪ニットの方は……もう手遅れだな。
せめて緑髪は助けてやらねぇと。
「牧浦ァ。俺を殺せるってか?随分ナメてくれるねェ」
俺は牧浦に圧を掛ける。
「うは〜〜!オーラエグいねぇ〜〜〜!!でも組長が1人で来るってことは〜〜〜、人手不足なのかなぁ〜〜〜???」
「否定はしねェが、組長でもたまには運動しなきゃだろ?てか、そもそもお前らは俺1人で充分なんだよ」
そう言って俺はドスを仕舞う。
それから、スーツのポケットに入れている別の得物を取り出した。
「「「「……は?」」」」
それを見た刃裟羅の奴らと緑髪が、困惑する。
俺が出した武器。
それは…。
「けん玉?」
そう、けん玉だ。
「え???けん玉??ブハハハ!!!えっ、何??どういうギャグ〜〜??」
牧浦は俺のけん玉を見て大笑いだ。
まぁ当然だわなぁ。
けん玉っつったら普通は玩具。
鉄火場に持ってくる奴なんて俺くらいだ。
だけどなぁ…。
「ナメんじゃねェぞ〜。けん玉の可能性は無限大なんだよ」
「ど〜〜っちがナメてんのさ?まぁいいや。じゃあ見せてもらおうかな〜〜〜?けん玉の可能性ってやつ♪ねぇキミ達〜〜〜♪♪」
牧浦が手下に語りかける。
「キミ達がやりなよ♪結城組の組長だよ〜〜♪殺せば泊つくよ〜〜〜♪♪しかも武器がけん玉♪♪♪ボーナスステージじゃん♪♪♪♪」
それを聞いた手下達が、色めき立つ。
「たっ、確かに…!」
「結城組の組長!殺せば俺も有名に!」
「しかもけん玉だ!勝てるぞ!」
功名心に駆られた手下共が、俺の目の前に立つ。
なるほど、確殺できると踏んでる訳ね。
「まぁ、そういう奴から死んでくんだけどなァ」
体感してもらおうか、力の差ってやつを。
俺はけん玉の紐を解き、その先の赤玉を振り回す。
そして回転が乗った玉は、予想以上のパワーを生み出す。
「ほら1人目ェ〜〜〜!!!」
俺はけん玉の玉を、手下の1人の脳天に叩きつけた。
「ぐぇっ___!!!」
頭蓋骨が陥没したそいつは、短く呻き、崩れ落ちる。
手下達の動きが止まる。
何が起こったか解らず、動揺してやがる。
止まっちゃダメだろ。
その動揺が隙を生むんだよ。
「もういっちょ〜〜〜!!!」
俺は続けるように、別の1人の顔面を玉で砕いた。
そいつは勢いよく後ろに吹っ飛び、牧浦の足元で止まった。
「うそぉ〜〜??えげつな〜〜〜」
牧浦は冷や汗をかく。
残った3人の手下も震えてやがる。
俺のけん玉の速さは銃弾並みだ。
奴らからすれば、何が起きたのか解らないようだな。
けどなぁ、これはまだ序の口だぜ。
「うっ…うぉおおおおおお!!!」
1人が雄叫びを上げて突っ込んできた。
俺に向かってナイフを振り下ろす。
「当たるかよ」
俺はそれを難なく躱す。
そして後ろに回ると、そいつの延髄にけん先を突き刺した。
「ぐべっ……!!!」
何が起きたか解らねぇまま、奴は絶命。
すると同時に背後から足音が聞こえた。
もう1人突っ込んできてんな。
「俺相手に特攻する勇気は認めてやるよ」
俺は瞬時に振り返り、素早くそいつの懐を取った。
こうなるとは思ってなかったんだろう。
奴の顔が青ざめる。
「だが場数が足りねェなァ!!!」
俺はけん玉の大皿でアッパーをかました。
金槌で顎を殴られるようなもんだ。
顎が砕けたそいつも、白目を剥いて前のめりに倒れた。
手下は残り1人。
両手でナイフを構えてはいるが、ビビリ散らかしてんなぁ。
それを見かねてか、牧浦が助け舟を出す。
「きみ〜、これ使ってみ〜〜〜???」
奴が最後の手下に渡したのは、拳銃だ。
手下はそれを受け取る。
「ハハッ、これならやれる…!!」
これでいけるとでも思ったのか、そいつの青ざめた顔が少し明るくなる。
そしてそいつは、俺に銃口を向けた。
「死ねぇエエエエエエエエエエエ____!!!!」
俺に向かって撃ちまくる。
だが狙いは不正確、拳銃を持つ腕もブレブレ。
明らかに素人だ。
そんなもん俺には当たらねぇ。
「ッ!!?」
「ガキィ、死んでみるのも経験だぜ」
俺は至近距離まで近づくと、そいつの首にけん玉の紐を巻きつける。
「グッゲゲゲゲゲ……!!!」
奴はカエルみてぇに呻く。
このまま窒息すればいい。
俺がそいつを絞殺しようとしたその時…。
「ッ!!!」
僅かだが、背後に殺気を感じた。
「いただき〜〜〜!!!」
牧浦が後ろから奇襲を掛けてきたんだ。
「もらうかよォオオオオオオオ!!!」
俺は瞬時に振り返り、手下を盾にする。
そして牧浦のタクティカルナイフが、そいつの腹に突き刺さった。
まさに命に届く一撃。
牧浦の最後の手下は、奴自身の手によって葬られた。
「おいおい酷ぇなァ。自分の部下を殺してんじゃねェよ」
「酷いのはキミじゃん???大人しく刺されとけば良かったのに〜〜〜」
そう言って牧浦は、ナイフをもう1本抜いた。
空気感からして、やはりコイツは他と違う。
本番はここからって訳だ。
警戒すべきは、奴のナイフだな。
左右で形が違うのが気になる。
「とりあえずさぁ、首頂戴よ!!!」
牧浦が笑いながらスタートを切る。
けん玉はコイツの手下の首に絡まったままだ。
「結局ドスが至高だよなァ!!!」
俺はドスで迎え撃つ。
そこから激しい斬り合いに入った。
互いの刃がぶつかり合い、金属音がこだまする。
(なんだよこれ…。俺はアクション映画でも観てんのか……?)
緑髪はこれを見て息を呑む。
それを横目に、俺は牧浦を追い詰める。
「オラオラオラァ!!!」
「うわぁ〜〜!!ヤバ〜〜〜い!!!」
牧浦が血飛沫を上げる。
ナイフが2本あろうが、俺は抑えられねェ。
このままねじ伏せたいところだが、コイツまだ余裕そうだ。
「ヤバいから逃げよ〜〜!」
牧浦がバックステップで距離を取った。
そして徐ろに左手のナイフを俺に向ける。
すると突然……。
「顔面ドーナツになっちゃえ〜〜〜!!!」
なんとそのナイフの刃が、俺の顔に向かって飛んできやがったんだ。
「うおっとォ!!」
警戒しといて良かった。
俺は間一髪でそれを躱す。
だが牧浦はその隙に、一気に距離を詰めていた。
「どてっ腹〜〜〜!!!」
「チィッ!!!」
牧浦が放ったのは刺突。
それに対し、俺は瞬時に体をズラす。
だが避けきれず、脇腹を抉られた。
「やってくれるなァ」
俺は一旦後ろに下がり、距離を取る。
「スペツナズナイフか。珍しいモン持ってんなァ。だがそれで仕留められなかったのが運の尽きだ」
「殺れたと思ったのに〜〜。動体視力どうなってんのさ?まぁいいや。まだ1本あるもんねぇ〜〜」
奴の右手にはタクティカルナイフ。
まだ1本あるとか抜かしてるが、他に搦め手があってもおかしくねェか。
だったらやられる前にやるだけだ。
俺はズボンの左ポケットの拳銃を抜く。
「余計なことする前に逝っとけ」
“ドドン!!”
一瞬で2発。
俺は牧浦の頭部目がけて速射する。
「危なっ!!!」
それに対し、牧浦が超反応。
顔をズラすが、1発が奴のこめかみを掠めた。
「剃り込み入れないでよ〜〜〜!!」
こめかみから血を流しながらも、牧浦は軽口を叩く。
「暴れんな。楽に死ねねェぞ」
「極楽浄土に行く予定無いし〜〜!!てか銃ズルすぎ!!ムカつくな〜〜〜!!……こういう時は〜〜〜〜」
牧浦は緑髪の方を見て、ほくそ笑む。
「ッ!!?」
「雑魚を殺して憂さ晴らしだ〜〜〜!!!」
なんと奴は、緑髪目がけて走り出した。
「やらせるかよ!!」
俺は牧浦の後を追った。
拳銃じゃ下手すりゃ緑髪に当たる。
ドスしかねェ。
だが、誰かを気にかけながらの戦いってのは、隙を生むもんだ。
「なんてね」
俺が追いつく瞬間、牧浦が振り返った。
それと同時に横薙ぎが飛ぶ。
やっぱ罠か。
まぁこんなもん、解ってても引っかかるしかねェがな。
けど罠と解ってりゃあなァ……。
「止められるんだよォ!!!」
俺はドスでナイフを受け止めた。
「嘘でしょ!!?」
流石に牧浦も予想外だったのだろう。
驚いている隙に、俺は左手で奴の右腕を掴む。
「とりあえず上下逆になっとけ」
「うあっ!!?」
俺が繰り出したのは、合気道の投げ。
牧浦を頭から床に叩きつける。
「ぐっ!!!」
奴は左腕を入れ、なんとか受け身を取ってみせた。
だがまだ続くぜ。
「首くれよ」
俺は牧浦の首を踏み折りに掛かる。
「えげつな〜〜〜!!!」
奴は必死に転がって俺の足を避ける。
それからすぐに立ち上がり、後ろに下がった。
俺はふと緑髪の方を見る。
コイツは口を開けてポカンとしていた。
「すまねぇなァ。恐かったろ?」
「えっ…?いやまぁ…、別に……」
「……兄ちゃん、名前何てんだ?」
「えっ……。苗木…宗佑……」
「そうか。安心しろ苗木!お前だけは必ず助けてやるからよ」
苗木を背中で隠し、俺は再び牧浦に向き直った。
奴の顔が若干険しくなっている。
最初の余裕はもう無いんだろう。
「ねぇ〜〜!僕の作戦全部台無しにするのやめてくれるかな〜〜〜!!!」
「バレバレの作戦ばっか披露するのが悪ィんだろ?まぁ、そろそろ終わりにしようや」
俺はそう言いながら、床に落ちたドアを掴む。
「何それ!!?ダンゴムシでも探す気〜〜〜!!?」
隙ができたとでも思ったのか、牧浦が襲い掛かる。
だが正直、近づいてくれるのはありがたい。
「俺にとってはなァ……」
俺は完全にドアを起こした。
ドアが陰となり、牧浦の目から俺が消える。
そして……。
「周りのもの全部武器なんだよォオオオオオオ!!!!」
俺はドアを思いっきり蹴り飛ばした。
金属製のデカい板が、牧浦に迫る。
「危なっ!!?」
牧浦はそれを横っ飛びでギリギリ躱した。
だが、避け方が美しくねェ。
俺は既にドアの後ろから飛び出していた。
「折れたドアノブ!!!」
ここで牧浦に向かってドアノブをぶん投げる。
実は蹴り破った時に折れてたんだよ。
「ぐぅ!!!」
ドアノブは牧浦の脛に当たった。
奴の表情が、痛みで歪む。
脛ってメチャクチャ効くんだよな。
「さぁ、逝こうぜ」
「ヤバっ____!!!」
この隙を突き、俺は一気に距離を詰めた。
そして次の瞬間、奴に袈裟斬りが入る。
「地獄の閻魔によろしくなァアアアアアアアア!!!!!」
「ぐぅウウウウウウウウ_____!!!!」
俺のドスが、容赦無く胸を斬り裂いた。
「ゴフッ……!!」
牧浦は激しく吐血する。
だが、食らう直前で体をズラしたんだろう。
奴は致命を免れていた。
とはいえ、今のは間違いなく深手だ。
「ヤバいなぁ…ゴホッ!…結城高虎……化け物だ〜〜」
「生への執着は褒めてやるよ。だがもう限界だろ。お前の負けだ」
牧浦にトドメを刺すために、俺は歩み寄る。
だが、絶体絶命の状況にも関わらず、奴はニヤリと笑った。
「それは、どうかな〜〜〜?」
牧浦は懐に手を入れる。
そして取り出したそれを、俺に向かって軽く投げた。
「ッ!!?テメェ___!!!」
飛んできたそれは、なんと手榴弾だった。
「なんちゅうところで出してんだ!!!!」
俺はドスを振るい、それを打つ。
手榴弾は窓の方へと飛んでいく。
それから俺は、急いで苗木の下へと走った。
“パリン_____”
窓ガラスが割れ、手榴弾が外に飛び出す。
それから少しして……。
“ドカァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!”
激しい爆発を引き起こした。
「うぉおおおお____!!!?」
「ぐぅゥ!!!」
俺は苗木を椅子ごと抱えて距離を取っていた。
だが、それでも後ろから吹き飛ばされる。
俺も苗木も、激しく床に叩きつけられた。
「ガハッ……!!おい、苗木!!大丈夫か!!?」
「痛っ……まぁ、なんとか…」
意識はある。
だが頭を打ち、出血していた。
そうだ牧浦は…!!?
俺は瞬時に振り返った。
「チッ……逃げやがったか」
そこにはもう、牧浦の姿は無かった。
その頃牧浦は、廃ビルを脱出していた。
「ゲホッ……。いやぁ〜危なかったな〜〜。でも逃げるが勝ちだもんね〜〜」
軽口を吐いて笑っているものの、出血が止まっていない。
傷を止める腕からも、血が滴っている。
だがそんな状態でも、コイツは弱音を吐かなかった。
「これ、しばらく戦えないな〜〜〜。でも楽しかったかも〜〜。結城高虎、次殺る時が楽しみだ〜〜〜」
そう言って牧浦は狂気的に笑う。
そして、俺達結城組と刃裟羅の戦いは、より激しいものになるんだ。