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結城組  作者: マー・TY
16/17

16話

 半グレ“琵出御ビデオ”の撮影所内の空気は、ビリビリと痺れるようだった。

 突如として現れた、凄腕の殺し屋クーガー。

 対するは結城組の最強戦力、石田の兄貴だ。

「石田海星。その命、俺にくれないか?お前の死を願っている人間が居るんだよ」

 クーガーは兄貴を嘲笑いながら、そう提案した。

「ふざけるのも大概にしろよ。ゲホッ……。欲しけりゃ力尽くで来い」

 石田の兄貴が、口から血を流しながら応える。

 この人は今さっきの不意打ちで、胸を斬り裂かれている。

 その傷は深かった。

 だが寧ろ、兄貴の闘気は上がり続けていた。

「もう少しで奪えそうだが____」

 のんびりと語るクーガーの表情が、一瞬強張った。

 そして素早くに体をずらす。

 次の瞬間、クーガーの頭のすぐ横を、銃弾が通り抜けた。

「相変わらずね、クーガー」

 発砲したのは、黒宮の姉貴だった。

 クーガーに銃口を向け、殺気に満ちた表情を浮かべている。

 先程の緩やかな表情の姉貴は、すっかりどこかへ行ってしまっていた。

「久しいな、キティ。そう言えば、結城組に居るんだったなぁ。相も変わらず男に媚びてるのか?」

「今ので死ねばよかったのに」

 怒りを露わにする黒宮の姉貴を、クーガーは鼻で笑う。

 “キティ”ってのは、黒宮の姉貴の殺し屋時代のコードネームか。

 元々同じ組織に所属していただけあって、面識はあるようだ。

「キティ、お前も戦る気のようだな。構わん。何人来ようが、俺の敵ではない」

 クーガーは余裕そうに、各々に視線を向ける。

 “琵出御”の奴ら。

 深傷を負った石田の兄貴。

 歯をギリッと噛み締めている黒宮の姉貴。

 そして、俺…。

「ッ…………!」

 俺は迂闊に動けなかった。

 何なんだ、このクーガーって男は。

 隙が全くない。

 長や兄貴達とは全く別の空気…。

 奴はまさに、死の空気を纏っていた。

 撮影所に居る全員の視線が、クーガーに集まる。

 だが、その隙を突いた奴が居た。

「チッ…!勝手にやってろや!!」

 中溝だ。

 なんと奴は、突然入り口の方へと走り出したんだ。

「逃がすかよ!!」

 石田の兄貴が中溝を止めに向かう。

 だが、纏わりつくようにクーガーが動いた。

 奴が高速でナイフを振る。

 兄貴は間一髪、忍者刀で受けた。

「この俺を無視するとは、いい度胸だ」

「邪魔、するな!!」

 石田の兄貴が強引に忍者刀を振り抜く。

 同時にクーガーが後方吹き飛ぶ。

 いや、わざと後ろに跳んだ。

「惜しいな。その若さで死ぬとは」

 奴はいつの間にかチャカを抜いていた。

 後ろ跳びながら、1発撃つ。

“ドン!!”

「チィ……!!」

 その弾丸が、兄貴の脇腹に食らいついた。

「この!!」

 クーガーが着地したと同時、黒宮の姉貴が速射。

「おっと…」

 だがクーガーはそれにも反応。

 瞬時に前に跳ぶ。

 弾が背中を切り裂いたが、奴の表情は崩れない。

「特技は射撃だったな。忘れていた」

 ヘラヘラと笑いながら、クーガーは前方を見る。

 石田の兄貴が距離を詰めていた。

「力比べか。面白い」

 クーガーも前に出る。

 そこから壮絶な斬り合いへと繋がった。

 2人の間を、嵐のような斬撃が飛び交う。

「ほぅ?」

 クーガーが意外そうな反応をする。

 奴の体からは、血飛沫が上がっていた。

 石田の兄貴が奮闘している。

「そろそろ余裕ねェだろ!」

 兄貴だって斬られてる。

 それでもこの人は、攻撃の手を緩めない。

「へっ…へへ!精々殺し合ってくれや!」

 中溝が捨て台詞を吐き、撮影所から出て行った。

「黒宮!!苗木!!中溝を追え!!!」

 石田の兄貴が斬り合いながら、俺達に命令する。

 黒宮の姉貴の判断は早かった。

 すぐさま駆け出し、俺の手を取る。

「宗佑、行くよ」

「姉貴!だけど、石田の兄貴が!」

「海星だったら大丈夫。目的を見失わないで」

 姉貴に半ば強引に引っ張られる。

 俺は石田の兄貴の方を見た。

 出血しているのに、気にすることなく攻撃を続けている。

 胸や脇腹の傷なんて、気にも留めていない。

 そんな兄貴と、クーガーは互角に斬り合っている。

 下手に手を出せば、さっきみたいに兄貴の足を引っ張るんじゃないか。

(ッ…!すみません、石田の兄貴。死なないでください!)

 俺は兄貴の武運を祈りながら、黒宮の姉貴と一緒に撮影所を出た。

「行かせた途端死ぬパターンもあるだろ」

 クーガーが急に後ろに跳んで距離を取る。

 そして左手のチャカを発砲した。

「2度目は通じねェ」

 兄貴はその弾丸を外す。

 連射させないよう、間髪入れずに苦無を投げた。

 クーガーもまた、それを躱した。

 その隙を逃すことなく、兄貴が一気に距離を潰す。

「2つに分かれとけ!」

 繰り出したのは、忍者刀による振り下ろし。

「おっと…」

 クーガーはナイフで受けにいく。

 だがナイフに当たる直前で、忍者刀が離れた。

「なんてな……」

「ッ…!?」

 その振り下ろしは、フェイントだったんだ。

 次の瞬間、強烈な蹴りがクーガーを襲う。

「引っ掛かるもんだな!」

「グフッ______!!!」

 兄貴の足が、クーガーの鳩尾に突き刺さる。

 奴はふっ飛ばされて、壁に激突した。

 前のめりに倒れそうになったが、なんとか踏み留まる。

「ゲホッ…。やられたな。肋骨の7番8番……」

 吐血し、ぶつぶつと呟きつつ、クーガーは顔を上げた。

 そして悪魔のような表情を見せる。

「石田海星。噂以上だ。これくらいはやってもらわなければな……」

 肋骨を折られてるってのに、奴は楽しそうに笑いやがった。

 対して石田の兄貴が向けるのは、絶対零度の眼差し。

「テメェにはここで死んでもらう。これ以上誰も襲わせねェ」

 互いに即入院レベルの大怪我。

 それでもこの2人は、どちらかが死ぬまで止まらない。




 一方俺と黒宮の姉貴は、撮影所の外に出ていた。

 目の前を1台の車が通り過ぎる。

 運転席に座っていたのは、鬼気迫る表情の中溝だった。

「宗佑、追いかけるよ」

「はい!」

 ここに来るまでに使った車の方へ急ぐ。

 俺は運転席に。

 黒宮の姉貴は助手席に座った。

 法定速度なんて気にしてられない。

 アクセルベタ踏みだ。

 この調子で走行していると、すぐに中溝の車が見えてきた。

 俺達の姿がサイドミラーから見えたようで、奴が乗る車が加速し始める。

「宗佑、そのまま後ろに付いて」

「はい!」

 今更だが、カーチェイスなんか初めてだ。

 それでも俺は、なんとか中溝に付いていった。

「いける……」

 そう呟いた黒宮の姉貴が、チャカを取り出す。

 それから窓を開けて、身を乗り出した。

“ドン!ドン!”

 姉貴が2発の弾丸を放つ。

 それが命中したのは、中溝が乗る車の、後ろのタイヤ2つだった。

「よし」

 姉貴はすぐに体を車内に引っ込めた。

 この状況でも狙い通り当てられるなんて、流石過ぎる。

 タイヤがパンクしたことで、中溝の車が減速する。

「隣に付いて」

「ッ…!?はい!」

 姉貴に指示された俺は、速度を中溝の車に合わせる。

 そうして奴の車の右側に、ぴったりと付いた。

“ドン___!”

 姉貴がさらに発砲する。

 狙いは中溝の、ハンドルを握る手だった。

「ぐっ!?あァアアアアアアアアアア____!!」

 奴は手から血を撒き散らしながら、悲鳴を上げる。

 もうすっかりパニックになっていた。

 そのためハンドル操作がメチャクチャになっている。

 ちなみに、この車道は左右が雑木林に囲まれている。

 中溝はそこに突っ込んでいった。

“ドゴン!!”

 林の中から、激しい衝突音が響く。

 中溝の車は、雑木林の中の太い木にぶつかっていた。

 車のボンネットからバンパーに掛けて、派手に凹んでしまっている。

 フロントガラスは粉々だった。

「クッ…クソ!!死んでたまるかよ!!!」

 中溝が車から這い出てくる。

 ガラスで顔を切りまくって血塗れだが、なんとか歩くことはできるようだ。

 だが、そんな奴の体に悪寒が走る。

 目の前に立っていたのは、黒宮の姉貴だった。

 姉貴は能面のような顔で、中溝を見据えている。

「なっ…何なんだよ!!お前……!!」

 中溝が狼狽の声を上げる。

 奴からすれば、最初姉貴はただ怯えることしかできない女子高生だった。

 そんな少女が、今まさに自分の命を奪おうとしている。

(やるしかねェ!)

 中溝は上着のポケットに手を突っ込んだ。

 中にあるのはチャカ。

 コイツはこのチャカで、これまで何人もの命を奪ってきた。

(落ち着け。この女が何だ!俺のチャカは最強なんだ!俺にチャカで勝てる奴なんて居ねェ!)

 心の中で、自分にそう言い聞かせる。

 そしてタイミングを見計らい、一気にチャカを抜いた。

「死にやがれェエエエエエ____!!!」

“ドン_______!!”

 林の中で、発砲音が響き渡った。

「あっ……えっ…?」

 ちゃんと黒宮の姉貴を狙って撃った…筈だった。

 だが、姉貴は無傷。

 しかもいつの間に抜いたのか、こちらにチャカを向けていた。

 中溝は恐る恐る自分の右手に視線を移す。

 なんと、そこにある筈の右手が、拳銃ごと無くなっていたんだ。

「うわぁアアアアアアアアアア___!!!!」

 遅れてやってくる痛みで、中溝が悲鳴を上げる。

 早撃ちはコイツの特技の1つだった。

 しかし、眼前に佇む女が、それを上回ってきた。

「あっ…ぐっ……このアマァ!!!」

 チャカはまだ近くに落ちていた。

 中溝は残った左手で即座に拾おうとする。

 だが、黒宮の姉貴がそれを見逃す訳がない。

“ドン______!!!”

 鉛玉が中溝の左肩を捉えた。

 奴の左腕が、意思とは反対にダラリと垂れる。

 これで、両手が死んだ。

 それにより、中溝は絶望に呑み込まれる。

「ヒッ…ヒィ!!!」

 情けない声を上げて、逃げ出そうとする。

“ドドン____!!!”

 黒宮の姉貴が、2発の連射。

「ギャギィ!!!」

 それは中溝の両膝を貫いていた。

(なんだこれ…。何も…できねェ!!)

 両手両足を壊された中溝は、力無く地面に倒れる。

 そんな奴に、黒宮の姉貴が歩み寄ってくる。

 その足取りはゆっくりなのに、奴にとってはとても速く感じられた。

「まっ…待て!!悪かった!!謝る!!謝るから!!!」

 完全に心を折られた中溝が、命乞いをする。

「もうあんなことはしねェし、かっ、金もいくらでも払う!!足を洗って自首もするから!!だから_______!!!」

“ガコッ!!”

 聞くに耐えなかったのだろう。

 黒宮の姉貴が、中溝の口の中にチャカの先端を突っ込んだ。

「むごッ!!むごご!!!」

 中溝は苦しそうに呻きながら、体を芋虫みたいに捩る。

 その眼差しは、慈悲を乞うもの。

 だが、黒宮の姉貴は靡かない。

「金?自首?足を洗う?……今更何言ってるの?」

 どこまでも非情に、冷酷に、中溝を責め立てる。

 この人の脳裏に浮かんでいたのは、愛華の泣き顔だった。

「汚い金なんていらないし、お前が更生しようがしまいが、愛華ちゃん達の心の傷は、癒えることはない。そんなことも解らないの?」

「ヒグゥッ___!!!」

「お前なんか人間じゃない。真っ黒な血液全部ぶち撒けて……死んじゃえ」

 そう言って黒宮の姉貴は、躊躇なく引き金を引くのだった。

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