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結城組  作者: マー・TY
15/17

15話

「私、今日からJKになる」

「は…?」

 黒宮の姉貴の思いがけない発言に、つい間の抜けた声が出てしまう。

「……あの、どういうことっスか?」

「うん?言葉の通りだけど〜?」

 姉貴は不思議そうに首を傾げた。

 いや、そりゃそうなんだが…。

 なんでこの人は、さも当然って感じでいられるんだ。

「囮捜査みたいなモンだろ」

 俺が困惑していると、石田の兄貴が口を開いた。

「そういうこと〜♡」

 黒宮の姉貴はそう言って、妖艶に微笑む。

「クズ男達はアプリ内でモデル事務所になりすまして声を掛けてくるから〜、それを待ち伏せようってこと。こんな美少女をほっとく男なんていないでしょ〜?」

「少女って歳じゃねェだろ」

「海星〜〜〜!!」

 黒宮の姉貴が、ツッコミの蹴りを放つ。

 石田の兄貴はそれを軽く躱しつつ、話を続けた。

「奴らが愛華の家を彷徨いてる可能性もある。俺らで張っとくから、1週間以内に釣り上げろ」

「フフッ。余裕〜♡それじゃあ早速、変装変装〜♪」

 姉貴はそう言って、事務所の方へと帰っていく。

 その足取りは、やけに軽やかだった。

 一応見送りはしたが、俺は正直不安だ。

「石田の兄貴、奴らそう簡単に釣れますかね?」

「釣れるだろ。あいつが今まで何人騙してきたと思ってんだ」

 なんだかんだ言って、兄貴は姉貴のことを信じているようだ。

 やっぱり同期だからこそ、一定の信頼はあるんだろうな。

「あいつに惚れた奴は、人生詰みだ」

 石田の兄貴は、微かにそう呟いた。




 その日の夕方にはもう、行動に移されていた。

 居間のソファに寝っ転がり、スマホをいじる女子高生。

 それを遠巻きに見つめるのは、厳つい見た目の武闘派極道達。

 結城組事務所内は、異様な空気に包まれていた。

「女学生の格好で、何をしとるんじゃあやつは…?」

「潜入捜査の延長ちゃいます?知らんけど」

 塚原のカシラと蓼丸の兄貴も困惑している。

(くっ、黒宮の姉貴!?なんて可愛いんだ…!!)

 夏目はすっかり見惚れていた。

 石田の兄貴の言う通りなら、こういう奴がすぐ死ぬんだろうな。

 そう。女子高生の正体は、黒宮の姉貴だ。

 服装だけじゃなく、メイクも念入り。

 それで少し幼く見えるから凄い。

(フフフ。流石は私。愛華ちゃんにフォローしてもらって、投稿も拡散してもらってるのもあるけど、もう注目の的)

 あれから黒宮の姉貴は女子高生に変装し、自撮り写真を投稿しまくった。

 普通に撮ってみたり、近所の猫と撮ってみたり。

 時には少し際どいものまで。

 そんな感じで10枚以上。

 少しだけ加工し、モデル志望のコメントも添え、ネットの海に流したのだ。

 愛華と繋がっているのもあり、いいねや拡散が止まらない。

 黒宮の姉貴はアカウント創設からたった数時間で、数百人ものフォロワーを獲得したのだ。

(さてと。釣れたかな〜?)

 姉貴がDMを確認する。

 当然と言うべきか、メッセージも届きまくっていた。

 だが、ほとんどが下心丸出しの相手から。

 中にはド直球のセクハラが書かれた物もあった。

(キモ〜。ブロックブロック〜)

 姉貴はゴミを見るような目で、そいつのアカウントをブロックした。

(セクハラとか、そういうお誘いとか。慣れてるけど、やっぱりネットだと多いな〜。まぁ文章だし、対面じゃないもんね)

 スマホ越しに好き勝手言ってくる相手に対して、黒宮の姉貴は溜め息を吐いた。

 気持ち悪いと思いながらも、1つ1つメッセージを確認していく。

 そうしていく中で、とあるメッセージが目に入った。

『はじめまして。DMにて失礼致します。

 ファッションモデルのキャスティングとスカウトをやらせて頂いている田中と申します。

 本日はくろみ様の投稿を拝見し、ご連絡させていただきました。

 突然ですが、モデル業に興味はお持ちでしょうか。

 もし興味がありましたら、返信して頂けると幸いです。』

 そのDMを見た姉貴の目が、爛々と輝いた。

 ちなみに“くろみ”ってのは、姉貴のアカウント名だ。

(このスカウト文、隅から隅まで愛華ちゃんに送られたものと同じ。アカウントも一致してる。そして何より、田中!)

 黒宮の姉貴はすぐに返信した。

 向こうからの対応も早かった。

 その後いくつかのやり取りを終え、明日田中と直接会うことになった。

「フフ♪フフフフフフ♪明日が楽しみ♪」

 黒宮の姉貴の口角が上がっている。

 その表情は、まるで悪魔のようだった。




 そして翌日。

 赤木町の駅のベンチに、黒宮の姉貴は座っていた。

 そこへ、スーツ姿の男が近づいてくる。

「くろみさんですね?」

 男は優しい声で話しかけた。

「は〜い!そうで〜す!」

 黒宮の姉貴は能天気に返事した。

「はじめまして。私が田中です」

「へ〜?あなたが田中さん?イケメンさんだ〜」

 姉貴は怪しまれないように、わざと年相応に振る舞っている。

「ははは。くろみさんお上手ですね。ここでの話もアレですし、行きましょうか」

「は〜〜い♪」

 田中は近くに止めてあった車に、黒宮の姉貴を乗せた。

 走行中も、姉貴は女子高生を演じていた。

 無知で情弱で、夢見がちな少女を。

 田中は笑顔で頷きながらも、内心ほくそ笑んでいた。

 こうして辿り着いたのは、愛華が連れて来られたという撮影所。

 怪しい雰囲気の、古びた建物だった。

 周囲に人が全く居ない。

「田中さん、撮影所ってここ〜?なんだか不気味〜」

「外観はそうですが、中は綺麗ですよ。さぁ、行きましょう」

 黒宮の姉貴は渋りながらも、雑居ビルへと足を進める。

 逃さないようにするためなのか、田中は姉貴の後ろに付いていた。

 そのまま建物の中へ入る。

「わぁ……」

 そこは田中が言うような、綺麗な内装ではなかった。

 愛華から聞いた通り、コンクリの壁に囲まれた、窓が無い部屋。

 柄の悪いスタッフらしき男達。

 そしてベッドと、撮影用カメラ。

 明らかにモデルの撮影なんかじゃない。

「なっ…何?怖いぃ…」

 黒宮の姉貴は、怖がるふりをする。

 体を震わせ、目からは涙が滲んでいる。

 姉貴の演技は本当に凄い。

 そうしていると、1人の男が歩み寄ってきた。

 そいつの顔の左側にはタトゥー。

 コイツが中溝だ。

「こんにちはくろみちゃ〜ん。監督の中溝で〜す。写真で見た通り可愛いねぇ。早速撮影始めようか〜」

 ニタニタと笑う中溝。

 奴の目は、どす黒く濁っていた。

「いっ…嫌だ!帰る!帰ります!」

 黒宮の姉貴は、顔をブンブンと振って拒否する。

 すると田中が逃げられないように、後ろから姉貴の両肩を掴んだ。

「チッ。こっちはビビったガキばっかで飽き飽きなんだよなぁ〜」

 中溝の態度が豹変する。

 奴は懐からチャカを出すと、姉貴の額に押し付けた。

「ヒッ…ハヒッ…!?」

 姉貴は恐怖で過呼吸になっている。

 中溝がまた、ニヤリと口角を上げた。

「まぁ結局、こういうリアクションが一番唆るんだけどなぁ!楽しませてくれよ〜!くろみちゃ〜ん!」

 中溝が姉貴をベッドに連れて行こうとした。

 だがその時、撮影所のドアが乱暴に蹴破られる。

「お前ら!!そこまでだ!!!」

「気分良かったか?コラァ」

 そう。入ってきたのは、俺と石田の兄貴。

 実は黒宮の姉貴の服に、GPSを仕込んでいた。

 それで俺達は怪しまれないよう、車でこっそり追跡していたんだ。

「なんだ〜?あァん?テメェ、結城組の石田だなァ?ギャハハ!こりゃァいい!」

 手下達が困惑している中、何故か中溝は石田の兄貴を見て笑った。

 兄貴の眉間に皺が寄る。

「何がおかしい?」

「お前、結城組のエースなんだろ?お前を殺っちまえば、俺達“琵出御ビデオ”の名が裏社会に轟く!唆るじゃねェかァ!」

 中溝は笑いながら、前に出てくる。

 相当余裕なのか、石田の兄貴に1ミリもビビってねェ。

 “琵出御”。

 それが奴らの組織名か。

「ガキを穢して食った飯は、美味かったか?」

 石田の兄貴は特に気にしない様子で、そう問いかけた。

「あぁ!美味かったぜェ〜」

 奴がさらに調子に乗る。

「気持ち良くなる上に金にもなるなんて最高のシノギじゃねェか!これをマネしねェ奴らは馬鹿だろ!!馬鹿と言えばガキもだなァ!簡単に騙されてヒョイヒョイ来てくれるから助かるぜェ!!」

 中溝はいらんことまでベラベラと吐き出しやがった。

 俺も聞いてて、腸が煮えくり返りそうだった。

「……ありがとな。そこまで聞かせてくれて」

 だが石田の兄貴は、それ以上にブチギレていた。

「お陰でよォ、心置きなく殺せるわ」

 兄貴の顔は、もはや鬼そのものだった。

 気圧された“琵出御”の奴らが震え上がる。

 その時田中は、黒宮の姉貴から手を離していた。

 微かに震える手で、懐にあるチャカを抜こうとする。

 だが姉貴を離したことは、奴にとって大きな間違いだったんだ。

“ドン_____!!”

 密閉された部屋に、発砲音が木霊する。

 弾丸が貫いていたのは、なんと田中の頭だった。

「ッ___!!?」

 田中が前のめりに倒れる。

 その後で俺の目に入ったのは、チャカを構えた黒宮の姉貴だった。

「なっ!?はァ!!?なんでガキがチャカを!?」

 中溝の目が見開かれる。

 そりゃそうだ。

 ただの女子高生が、チャカを持ってるんだから。

「フフ。フフフ……」

 黒宮の姉貴は、ただ無邪気に笑っている。

 それがさらに奴らをビビらせた。

「テッ、テメェら!ガキ1匹にビビってんじゃねェよ!!やっちまえ!!!」

 中溝が焦りながらも、手下達に喝を入れる。

 それによって周りの奴らが、なんとか気を取り戻した。

「うっ、クソが!」

「なんでこんなガキが銃持ってんだ!?」

「結城組も居るし、やるしかねェ!」

 その中で3人がナイフを出して、すぐに動こうとしていた。

 だが…。

“ドドン___!!!”

 音だけ聞いたら2発分。

 だが実際は3発。

 全てが奴らの額を貫いていた。

「エクセレント♪」

 そう零す黒宮の姉貴のチャカの銃口から、煙が上がっている。

 なんとこれをやったのも、姉貴だったんだ。

「うおっ…!なんだよ、これ……」

 俺はすっかりこの空気に呑まれていた。

 黒宮の姉貴は変わらず微笑。

 なんだこの人。

 チャカの精度が高過ぎるだろ。

「チャカであいつに勝てる奴は居ねェ。呆けてる場合か。働け」

 石田の兄貴が忍者刀を抜く。

 そうだ、ボーっとしてる場合じゃない。

 俺達はコイツらを、ぶっ潰しに来たんだ。

「やっ…やったらァ!!!」

「“琵出御”ナメんなァ!!」

 次の瞬間、“琵出御”の奴らが襲い掛ってくる。

 俺はドスを抜いた。

 大丈夫だ。俺ならやれる。

「死にやがれェええええええエエエエエ!!」

 “琵出御”の1人が、俺に向かってナイフを振り上げた。

 解る。落ちてくる。

 俺は横に跳んで躱した。

「お前が死ね!!」

 そして横っ腹にドスをぶっ刺す。

 それから捻り上げると、そいつは血を吐き散らしながら倒れた。

「うっ…うぉおおおおおおお!!」

 ドスを抜いてると、もう1人が走ってきていた。

 ナイフの切っ先が、俺に迫ってくる。

 だがビビってるせいなのか、遅い。

 俺はそれを躱す。

 そしてすれ違いざまに、そいつのどてっ腹を突き刺した。

「ガブエッ!!!」

 そいつもまた、断末魔を上げてぶっ倒れた。

 なんとか2人やった。

 たが、人を殺すこの感覚には、まだ慣れそうにない。

 ふと俺は、兄貴達に目を向けた。

 石田の兄貴は忍者刀を片手に無双している。

 黒宮の姉貴も敵の猛攻を軽々と躱しつつ、射撃を続けていた。

 この人達は、もう慣れちまってるのか。

 呆然と兄貴達を見つめる。

 この時、俺は完全に止まってしまっていたんだ。

 背後に迫る、死の気配に気づかずに。

「甘いな」

 そいつは俺を嘲笑うと、スタートを切った。

 右手のナイフが、妖しく光る。

「ッ_____!!!」

 それに気づいた石田の兄貴が、すぐに俺の元へと向かう。

 奴の狙いは、俺だった。

 だが直前で、それが兄貴に変わった。

「安心しろ」

「ッ!!!」

 急な方向転換。

 石田の兄貴は、ほんの一瞬判断が遅れた。

 だが奴にとって、その僅かな時間で充分だった。

 そして____。

「狙いは元よりお前だ」

 奴のナイフが、兄貴の胸を袈裟に斬り裂いた。

「ぐあっ……!!」

 あの石田の兄貴が、吐血する。

「ッ!?…石田の…兄貴……!?」

 この時俺は驚愕していた。

 ここまで、ほんの一瞬の出来事だったんだ。

「ぐっ……うぉおおおオオオオオオ!!!」

 その時、兄貴が咆哮を上げる。

 懐から苦無を抜いた同時に、投げた。

「おっと……」

 奴は瞬時にサイドステップ。

 だが、苦無が頬を掠めていた。

「その傷でこの精度。素晴らしい才能だ」

 そいつは気にすることなく、兄貴を称賛する。

「やかましい。ゲフッ。……テメェがクーガーだな?」

 石田の兄貴は、奴を睨みつける。

「いかにも。お前達の間で、すっかり有名人になってしまったようだ」

 そう言って、薄紫髪の白スーツ男…クーガーは、猟奇的な笑みを浮かべた。

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