13話
俺は石田の兄貴と一緒に、日課の見回りを始めた。
ただいつもと違うのは、黒宮の姉貴が一緒だということ。
姉貴は半ば無理矢理、石田の兄貴と腕を組んで歩いていた。
「離れろ。歩き辛ェ」
「え〜?いいんじゃん。海星のケチ〜」
「チッ!」
いつも以上に苛ついている石田の兄貴を、ニヤニヤした顔でからかう黒宮の姉貴。
なんというか、凄いなこの人は。
俺だったら即殺されてるだろう…。
にしても、この2人の関係は何なんだ。
「あの、お2人はどういった関係なんですか?」
気になった俺は、直接訊いてみた。
「え〜?私達の関係?」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、黒宮の姉貴がこっちを見た。
「そうね〜…。いざ言葉にすると難しいかも〜。一言で言い表せないくらい、濃厚かつ芳醇でマリアナ海溝くらい深い関係________」
「同期だ」
デレデレしながら語る黒宮の姉貴を遮るように、石田の兄貴が言った。
すると言葉を遮られた姉貴がポカポカと兄貴を叩き始めた。
「もう!海星はいっつもそうなんだから〜!」
「ただの同期。それ以上でも以下でもねェだろうが」
姉貴の拳を気にも留めない石田の兄貴は、冷めた口調でそう言った。
同期…。なるほど。
だからこんなに距離が近いのか。
いや、近過ぎる…。
黒宮の姉貴の同期愛、重くないか…。
「海星は照れ隠しでそう言ってるけど〜…」
「照れ隠しじゃねェ」
「私からしたら、暗闇の中を歩いてる時に手を差し伸べてくれた人。まさに白馬の王子様なんだよ」
「どこがだ…」
心無しか、黒宮の姉貴の周りにキラキラしたものが見える。
それと対照的に、石田の兄貴はどんよりしている。
黒宮の姉貴は、元々暗殺組織に所属していた。
もしかしたらそこを抜ける時、何かあったのかもしれない。
そこを石田の兄貴に助けられたということなのだろう。
「俺らのことはいいだろ。そろそろ話せ」
「あ〜、……そうだったね」
黒宮の姉貴が、自嘲気味に笑う。
ここからが本題。
クーガーの話だ。
「クーガーは元“HUNT”の最高戦力。殺しの技術は組織内でもトップクラスだったわ」
「マジですか…」
「えぇ。得物はナイフと銃。基本的な武器だけど、腕は一流。危機察知能力も高いし、勘も抜群。狡猾だし読み合いも強い。『完全無欠』って言葉を擬人化したような存在ね。性格は傲慢そのもので、常に周りを見下してた。だけど優秀。本当に嫌な奴……」
黒宮の姉貴の目からは、クーガーへの殺意が感じ取れた。
「……この通り、クーガーは普通に戦ったら相当強いけど、殺しでよく使う手段があるの」
「そりゃ何だ?」
「奇襲よ。完全に気配を消して、隙を突く。相手が一流の戦闘者でも変わらない。別組織との戦闘中にいきなり襲うこともある。長がやられたみたいにね…」
姉貴の話はここで終わった。
クーガー…。
ただでさえ強いって話なのに、奇襲まで仕掛けてくるのか。
絶対に一筋縄じゃいかない。
長とカシラが逃がした相手を、俺に殺せるのか…。
「奇襲か。だったら好都合だ」
俺とは対照的に、石田の兄貴はこれを前向きに捉えていた。
「こっちから捜す手間が省けるじゃねェか。俺を狙った日が奴の命日だ」
鬼みたいに目を光らせながら、兄貴はそう言った。
この人は古流武術を得意とする、優秀な戦闘者だ。
クーガーと渡り合えるくらいの実力はある。
「フフッ。自信満々な海星可愛い♡」
黒宮の姉貴は、何故か殺気立つ兄貴を見てうっとりしている。
可愛いって…。
この人は石田の兄貴だったら何でもいいのか…。
何はともあれ、クーガーのことは大体解った。
あとで蓼丸の兄貴に連絡しておこう。
「そうと決まれば、いつも通り見回りね。…あら?」
黒宮の姉貴の視線の先には、10代後半くらいの1人の女の子が居た。
雑居ビルの隅で、その子は蹲って泣いていた。
この時、実は“刃裟羅”のアジトでも動きがあったんだ。
「クーガー君どう〜?結城殺せそ〜??」
「問題無い。俺を誰だと思っている」
薄暗い建物の中に、2つの影。
1人は“刃裟羅”No.3 牧浦遊真。
長とやり合った時の傷が治って、もう復帰してやがった。
奴と会話してるのは、なんとクーガー。
長の予想通り、クーガーは“刃裟羅”と繋がっていたんだ。
「まさか戦闘中にバケツとけん玉を持ち出すとはな。結城高虎。面白い男だ」
「僕の時はドアノブ投げてきたな〜。ていうかまたけん玉使ってたの〜!!?どんだけ好きなのさ〜!!?」
「武器でないものを武器する。その場にある物全て武器。悪くない発想だ。だが、解ってしまえばいくらでも対応できる。次は殺せる」
そう言ってクーガーはニヤリと笑った。
高次元の実力により得た、絶対的な自信。
それが奴の動力源だ。
「う〜〜んでもでも〜。結城の病院どこか解らないけど、多分警備ガチガチじゃん?このまま襲撃するのは、ちょっとリスクあるんじゃない??」
ニヤニヤ笑ってはいるが、意外にも牧浦は冷静だった。
腐っても組織のNo.3。
当然頭は回る。
「結城はしばらく動けないだろうし〜、別の奴にしてくれない??」
「なら誰を殺す?若頭の塚原か?」
「いいや。カシラさんより自由が利いて〜、それでいて厄介な奴!その名も〜〜〜……石田海星〜〜!!!」
なんと牧浦は、石田の兄貴を的にしようと言いやがったんだ。
「ほぅ?あの若者がそんなに恐いか?」
「言っとくけど馬鹿強いよ〜〜?あの雑賀君も病院送りにされちゃったんだから!それに石田君は結城組のハブだからね〜〜。死んじゃったら、結城組の連携はドガシャ〜ンだよ!!」
「面白い……」
話を聞いたクーガーが、口角を上げる。
そして牧浦に背を向ける。
「おっ?早速殺っちゃう感じ〜〜〜??」
「石田海星。どこまで楽しませてくれるかな…」
そう言ってクーガーは歩き出した。
結城組の最高戦力 石田海星。
そして最強クラスの殺し屋 クーガー。
強者2人の衝突が近い。




