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結城組  作者: マー・TY
12/14

12話

 俺の名前は苗木宗介。

 石田の兄貴と共に病院を訪れた結城組の舎弟だ。

 見かけは普通の病院とあんまり変わらないが、経営しているのは闇医者。

 金さえ払えば、例え犯罪者でも治してくれるらしい。

 俺は紙箱を持ち、石田の兄貴に続いて廊下を歩く。

 そして1つの病室に入った。

おさ、お疲れ様です」

 石田の兄貴がそう話しかける。

 病室のベッドに座っていたのは、長こと結城組長だった。

「おっ、海星、苗木〜。見舞いに来てくれたのか?」

 俺達を見た長が朗らかに笑う。

 いつも通り、顔色が良い。

 だが、体に包帯や絆創膏が目立つ。

「体調はどうですか?」

「メチャクチャ良いぞ。ただ背中の傷がなぁ…。動けば開くからしばらく安静だってよ」

 長はどこかつまらなさそうに背中を擦る。

 この人は先日、塚原のカシラと一緒に半グレ組織“ハーメルン”のアジトに乗り込んだ。

 “ハーメルン”自体は大したことなかったらしいが、長はそこで謎の殺し屋クーガーと激突。

 なんとか追っ払いはしたが、不意打ちで背中を斬り裂かれてしまったんだ。

「クーガーだかクルーラーだか知りませんが、そいつは見つけ次第ぶち殺します」

 石田の兄貴が額に青筋を浮かばせながらそう言った。

 兄貴にとって、長は実の父親みたいな存在なんだ。

 そんな人が襲われたんだから、当然キレる。

 もちろん他の兄貴達もキレてはいるが、石田の兄貴の怒りは群を抜いていた。

「海星落ち着け。らしくねェぞ」

「ッ!……すみません」

 長に宥められたことで、石田の兄貴の怒りが少し和らいだ。

 正直最近の兄貴は恐かったからありがたい。

 そうだ、ここで流れを変えてみよう。

「長、これ差し入れです」

 俺は手元の紙箱を強調させる。

「おっ、これは!」

 長は箱を受け取ると、慣れた手つきで開封した。

「お〜〜!俺の好きなやつ!フランソワのシュークリームじゃねェか!」

 フランソワ。

 赤木町で人気のシュークリーム屋だ。

 俺は食ったことないけど……。

 石田の兄貴曰く、長はフランソワのシュークリームが好きらしい。

 実際メチャクチャ喜んでくれてる。

「これ並ばねェと買えねェやつだぞ!」

「はい、石田の兄貴と一緒に並びました。兄貴が『ここのシュークリーム以外ありえねェって』言うもんで」

「おい!」

「そうだったのか〜!病院食味薄くてよォ、丁度甘いのが欲しいと思ってたんだわ。ありがとな海星!」

「ちょっ…!?」

 長が石田の兄貴の肩に、無理矢理腕を回した。

 兄貴は相変わらず無骨を貫いてはいたが、満更でも無さそうだった。

 その後長の計らいで、俺達もシュークリームを頂けることになった。

 ザクザクのクッキー生地に、優しい甘さのカスタードクリーム…。

 旨い。

 これ、確かに人気出るな。

 常連になろうかなぁ…。

 俺が呑気にそう考えている間、石田の兄貴と長は何やら話し込んでいた。

「入院中は組の皆で病院周りを見ときますので」

「わざわざ悪ィな。だけどな、お前らも気をつけろよ」

 長が急に眉を潜めて語り始める。

「クーガーが誰に雇われたかは解らねェ。だがもし“刃裟羅”があの化け物を雇ったってんなら、奴らもそろそろ本気ってことだろ」

 長はそう言いながら、俺と兄貴に目を合わせる。

「海星、お前はうちの切り札の1人だ。いきなり数で攻めてくる可能性がある。苗木、お前も油断するな。舎弟は情報収集のために捕まることが多いからな」

「…ッ……はい!」

 結城組と“刃裟羅”。

 赤木町の2大組織が本格的にぶつかろうとしている。

 トップだろうと末端だろうと、安全な場所は無いってことか…。

 だけど、それくらい解りきってんだ。

 俺はこの裏社会で命を懸けるって決めたんだからな。

 あっちから来るなら返り討ちするだけだ。

「長、忠告ありがとうございます。警戒の糸を張り続け、『結城組に手を出す即ち死』であることを知らしめてみせます」

 石田の兄貴も腹を括っていた。

 歳は俺とそこまで離れてない筈なのに、相変わらず覇気が凄い。

「お前らなら、大丈夫そうだな」

 長は安心したような顔で笑った。




 事務所に戻った俺達は、蓼丸の兄貴の下を訪れた。

 実は長が入院後、塚原のカシラによってクーガーに殺害命令が出された。

 相手は得体の知れない殺し屋。

 俺達は奴の情報を欲していた。

「クーガーな。少しやけど情報手に入ったで」

「うぉおお!!マジすか!?」

「蓼丸の兄貴、流石です」

「褒められるモンやない。ほんまに少しや」

 褒める俺達に動じることなく、蓼丸の兄貴は語り始めた。

「クーガー…。奴は元“HUNTハント”のメンバーやったらしいわ」

「はんと…?……って、何ですか?」

「かつて九州を中心に裏社会で活躍してた暗殺組織や。組織内でいろいろあったらしくてな、今はもう無い。メンバーの何人かは未だに殺し屋として動いとるようやけどな」

「その1人がクーガーってことですか?」

「そういうことや。ほんでこれが奴の顔」

 蓼丸の兄貴が1枚の写真を取り出した。

 そこに写っていたのは、鼻の上に斬り傷がある薄紫髪の男。

 まるで全てを見下しているような、そんな表情をしている。

 相当な自信の持ち主なのだろう。

 実際奴は、あの牧浦を圧倒していた長に、大ダメージを与えている。

 その強さはきっと、本物だ。

「残念やけど、用意できた情報はここまでや。一流の殺し屋相手やからな。情報屋達も簡単に探りを入れられないんやろ」

「そうですね…。ですが兄貴、クーガーが元“HUNT”だっていうなら……」

「せやねん。俺らよりあいつの方が詳しいと思うわ」

 2人の兄貴が、居間のソファの方を見る。

 そこ座っていたのは、スーツ姿の1人の女性だった。

 可愛いというか、美人というか…。

 とにかく、整った顔立ちをしている。

 スタイルも良く、特に脚が長い。

 一流のモデルと言われても、信じてしまうような容姿だ。

 だがそんな彼女の目は、ブラックホールみたいに黒かった。

 彼女の名前は確か、黒宮操くろみやみさお

 たまに見かけることはあるが、話したことはない。

 俺より歳上ってことしか解らない。

 そんな黒宮の姉貴は、俺達を睨んでいた。

「良い思い出無いし、話したくないんだけどー」

 姉貴は頬を膨らませながらそう言った。

 メチャクチャ可愛い声で、メチャクチャ棒読みだ。

「気持ちは解るで。せやけど情報がたくさんあったら、こっちも対策しやすいやん?頼むわ。一生のお願い」

「むぅ……」

 蓼丸の兄貴が合掌して頼むが、黒宮の姉貴はそっぽを向く。

 ……ていうか、なんで兄貴はここまで頼みこんでるんだ?

 黒宮の姉貴は、クーガーと何か関係が…?

 その答えは、すぐに石田の兄貴が教えてくれた。

「黒宮は元“HUNT”だ」

「えっ…えぇえええええええ!!?元殺し屋ってことですか!!?」

「あぁ」

「えぇえええええええええええええ_____!!!?」

「うるさーい」

 驚愕する俺に、黒宮の姉貴がツッコむ。

 ……ってちょっと待て。

 黒宮の姉貴も、元“HUNT”の殺し屋だったのか。

「黒宮の姉貴…、クーガーと一緒に殺しやってたってことですか…?」

「何人も殺しまくったけど、組んだことはないよ。そもそもクーガーは誰とも組まないからね」

 そっぽを向きつつも、黒宮の姉貴は答えてくれた。

 この人、思ったより優しいのでは…。

 もしかしたら、このままクーガーのことを教えてくれるかもしれない。

「クーガーって、どんな奴だったんですか?」

「むぅ…」

「黒宮の姉貴、俺気になって仕方ないっス」

「しつこい男きらーい」

 やっぱダメだった。

 それどころか、嫌われちまったんじゃないか。

 姉貴は子供みたいに不貞腐れている。

 どうしたもんかと考えていると、石田の兄貴が前に出てきた。

「黒宮、いつまでも意地張ってんな。長が狙われたんだ。早急に動かなきゃならねェ」

「むぅ……」

「クーガーについて聞きてェんだ。お前の過去を掘り起こすつもりはねェよ」

「……」

 石田の兄貴は、まるで子供を宥めるような口調で話す。

 しかし、それでも黒宮の姉貴は目を合わせない。

「しょうがねェな……」

 兄貴は溜め息を吐き、頭を掻く。

 そして意を決したようにこう言った。

「俺ができる範囲で、お前の言うこと一つ何でも聞いてやる。これでどうだ」

「えっ…?」

 兄貴のその発言に、姉貴がパッと顔を上げる。

 目を丸くしているが、どこか嬉しそうだった。

「本当に何でも!?」

「あぁ」

「あ〜んなことや、こ〜んなことも!?」

「何言うつもりか知らねェが、聞いてやる」

 石田の兄貴はいつもの調子でそう答えた。

 その様子を見た黒宮の姉貴が、急にニヤリと笑う。

 すると胸ポケットから、ゆっくり何かを取り出した。 

 それは、盗聴器だった。

「言質取ったり♡」

「お前……」

「海星は漢気あるし、一度言ったら守ってくれると思うけど〜、一応ね」

 黒宮の姉貴は盗聴器を仕舞い直すと、ソファから立った。

「見回り行こ!話は外でしたげる。それと…」

 姉貴は何故か、俺に目を合わせる。

「宗介だよね。あなたもおいで」

「えっ…いいんですか?」

「いいのいいの。ほら、行こ行こ〜」

 黒宮の姉貴が、俺と石田の兄貴の背中を無理矢理押し出す。

 本当によかったのか。俺が付いてきて。

 話聞いてる限り、黒宮の姉貴は石田の兄貴と二人きりが良さそうだったけど…。

蓼兄たでにい、見回り行ってきま〜す」

「おっ、おぅ…。気ィ付けてな」

 1人残された蓼丸の兄貴が、弱々しく手を振っていた。

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