11話
夜の11時。
暗く静まり返った埠頭に、1台の軽トラが停まっていた。
その近くには、柄の悪い男が2人。
“ハーメルン”の構成員だ。
しばらくすると、沖の方から1隻の船が現れた。
船が埠頭に着くと、そこから1人の男が降りてきた。
そいつに軽トラの近くに居た2人が近づく。
「お疲れっ!」
「遅ぇよ。サツが来たらどうすんだ」
「悪かったって。それより急いで運ぶぞ!」
「解ってるって!」
軽トラに乗ってるのは、誘拐した子供達。
まさに今から船に乗せて、海外に運ぶってところだ。
奴らは奴らなりに計画を立て、厳重な注意を払っていたのだろう。
だけどなぁ、このシノギは今日で終わりなんだよ。
「待てや外道がァ!!」
埠頭に怒鳴り声が響く。
“ハーメルン”の3人は、ビクリと体を震わせた。
「ッ!!?」
「なに!?」
「だっ、誰だ!?」
奴らは慌てて怒鳴り声の方を見る。
その先に居たのは、鍋島と片倉だった。
「うちのシマの天使達を、海外に売ってんじゃねェぞコラァ!!!」
「子供達は返してもらうぞ!!」
2人は“ハーメルン”を威嚇する。
鍋島達を見た途端、3人の血の気が引いた。
「おっ、おいあいつ!…金属バットの鍋島!!」
「鍋島って、あの結城組の!?なんでここがバレたんだ!?」
「お前ら、なんかしくじったのか!?」
鍋島の登場で、奴らは完全に焦っていた。
だがどんな相手であれ、この現場を見られた以上消すしかない。
この場を放棄して逃げることもできるだろうが、そんなことをすれば、いつかボスに殺される。
奴らはもう、腹を括るしかなかった。
「やっ、やってやる!」
「マジかよ…」
「やんなきゃ死ぬのは俺らだぞ!!」
“ハーメルン”の奴らの反応を見て、鍋島が金属バットを構えた。
「死ぬ準備ができたってかァ?」
「親不孝な奴らですね」
片倉の身にも、気合いが入っていた。
眼前の3人を、注意深く見据える。
少しの間、両者の間に沈黙が訪れた。
その中で、“ハーメルン”の1人右肩が動く。
そいつの右手は、ズボンのポケットに入っていた。
(拳銃…!!)
発砲される。
そう読み取った片倉が、一瞬でチャカを抜く。
そして、そいつの腹を撃ち抜いた。
「ゲハッ!!!」
奴は血を吐いて後ろに倒れる。
残った2人は慌てふためく。
「うおっ!!」
「うっ、撃て!撃てェ!!」
奴らもチャカを持っていた。
その照準が、鍋島達に向く。
片倉の額に冷たい汗が伝った。
近くに遮蔽物は無い。
「成長したな片倉ァ!!だがあとは任せろォオオオオオオ!!!」
“ハーメルン”の奴らが発砲する。
弾丸が届く前に、鍋島が片倉を突き飛ばした。
そこを2発の弾丸が通り過ぎていった。
「男なら近距離で行こうやァアアアアアアアアアアアアアアア______!!!!」
なんと鍋島は、そのまま突っ込んでいったんだ。
「ばっ、馬鹿だコイツ!撃て!撃てェ!!」
「うおおおおおおお!!!蜂の巣だ!!!」
2人はチャカを乱射する。
だが、どれも鍋島には命中しなかった。
冷静さを欠いたチャカは、簡単には当たらない。
それに、鍋島はただ突っ込んでる訳じゃない。
狙いが定まらないよう、不規則なステップで走っている。
そうして鍋島は、奴らの目の前に辿り着いた。
「オラ行くぞォ……」
鍋島がバットを振り被る。
奴らの顔が、恐怖で真っ白になった。
次の瞬間、鍋島のフルスイングが奴らを襲う。
「本日2回目ェ!!!ホームランじゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
“ゴキゴキガキン__________!!!!”
「ぐべぇェエエエエエエエエエエ!!!!」
「アガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
肋骨をグシャグシャに折られながら、奴らは宙をまう。
そして、暗い海へと落下した。
「なんだ!?何が起こった!?」
「うおっ!?なんだあいつ!!?」
銃声とホームランの音を聞いて、船から男達が出てくる。
どうやら船に乗っていたのは、1人だけじゃなかったらしい。
「おォ。まだまだホームランを打たせてくれるみてェだなァ。あんがとよ」
鍋島はそう言って、奴らに金属バットを向けた。
埠頭の方は、鍋島達に任せて大丈夫だろう。
俺と塚原は、“ハーメルン”の本隊だ。
「オラァ!!死神2人がお迎えに来たぜ!!」
「お主らはもう、死んで良い」
俺達は躊躇なくドアを蹴破り、奴らのヤサに乗り込んだ。
「なんじゃあ!?」
「はぁ!?結城と塚原!?」
「結城組のトップ2がなんでここに!!?」
“ハーメルン”の構成員達が騒然とする。
隙だらけだ。
俺はチャカを抜き、早撃ちを見せる。
一瞬で2発。
それは構成員2人の頭を撃ち抜いた。
「うおっ…」
「マジかよ…」
「やっ、やべぇって!」
“ハーメルン”の奴らが、さらにパニックに陥る。
その隙に、俺は塚原に指示を飛ばす。
「塚原、奴らのボスは剣士だ。ここは任せて先に行ってくれ」
「おぅ。下衆の首、獲ってくるとしよう」
遠慮なく、といった感じで、塚原は奥へ進んだ。
さて、まだあと10人、いや15人以上は居るか。
まぁ、何とかなる人数だな。
「おっしゃァ!行くか!」
俺は撃ちながらスタートを切る。
3人の頭に鉛玉が刺さったのを見ながら、俺はドスを抜く。
それから横薙ぎで、さらに1人葬った。
「やっ、やるしかねェ!」
近くに居た奴が、懐からナイフを取り出そうとする。
だが遅い。
俺はそいつの右手の甲を蹴る。
“ドスッ”
「ガッ……!!」
右手に握られていたナイフが、奴の腹に深々と突き刺さる。
そいつは一気に床に崩れ落ちた。
「……お?」
そんな風に戦っていると、俺の目にある物が映った。
それはホームセンターで売ってるような、金属製のバケツ。
いいねぇ。使ってみるか。
俺はすぐさまバケツを拾い上げる。
吸ったタバコをここに捨ててるんだろう。
中身は茶黒く濁った水と吸い殻だった。
「怯むな!コイツ1人だ!」
「全員で掛かれ!!」
残った奴らが、一斉に襲い掛ってくる。
一見すれば大ピンチだが、俺からすれば都合が良い。
「お前らにお似合いのシャワーだぜ!!」
俺はバケツの中身を撒き上げた。
汚染された水が、奴らを頭から濡らす。
「うおっ!!冷てェ!!」
「臭ェ!!飲んじまった!!」
「目が痛ェ!!」
タバコの吸い殻で汚染された水…。
もはや毒と変わらねェだろ。
飲んだり目に入ったりしたら、相当ヤバい筈だ。
事実、奴らを混乱させることはできた。
「撃ってほしいんだな?」
俺はチャカを撃ちまくった。
“ハーメルン”の奴らが、次々と倒れていく。
そうやって殺しまくって、残りは3人。
後列に居たおかげで汚水シャワー浴びずに済んだようで、服はまだ綺麗だった。
「うぅ…。しっ、死ねェエエエエエ!!結城ィイイイイイ!!!」
1人がナイフを構えて突っ込んでくる。
単純な特攻だ。
俺はそれを避ける。
そしてすれ違いざま、奴の後頭部をバケツで殴りつけた。
「ガッ___!!!」
そいつは白目を向き、前のめりに倒れる。
バケツだろうと、俺が持てば立派な凶器なんだよ。
「うっ、うわぁああああ!!!」
「死にたくねェ!!!」
俺に勝てないと悟ったんだろう。
戦意喪失した残りの2人が逃げ出した。
だけどなァ……。
「逃さねェよ」
見逃してやる程甘くはねェよ。
俺はそいつらの急所を撃ち抜き、絶命させた。
そいつらで最後。
そう思ったが、俺が撃ち終わった直後…。
「さようなら」
背後から、男の声が聞こえた。
「なにっ_______!?」
完全に殺気が消えていた。
しかも、敵に集中したところを狙われた。
俺が振り返るよりも先に…。
“ザシュッ_______!!!”
そいつは俺の背中を斬り裂いた。
「ぐあっ……!!!」
背中に焼けるような痛みが走る。
やられた……。
ギリギリで体を反らしたが、これは深い。
だが、ボーっとしてる場合じゃねェ。
隙を見せれば命取りだ。
「オラァ!!!」
俺は振り返らず、そのまま後ろにチャカを向ける。
そして奴が居るであろう方向に、ノールックで撃った。
「おっと…!」
奴は弾丸を躱し、距離を取る。
俺は即座に振り返る。
そこに居たのは、白いスーツを着た異質な男。
薄紫髪の髪を1本にまとめていて、鼻の上に横一文字の切り傷が入っている。
「ほぅ。流石は一組織の長…といったところか」
奴は俺の顔を見るなり、ニヤリと笑ってそう言った。
「……誰だお前」
「今から死んで行く者に、名乗る意味があるか?」
言ってくれるじゃねェか。
こんな奴情報に無かったが、察するに“ハーメルン”に雇われた殺し屋…といったところか。
だけどなァ、殺し屋なんざ、これまで何人も返り討ちにしてきてんだよ。
「いいじゃねェか。これくらいじゃねェと面白くねェ」
強敵と殺り合うのは嫌いじゃねェ。
俺は集中力をカチ上げた。
「ほぅ…?」
俺の闘気に呼応されたのだろう。
ここで殺し屋の空気も変わる。
「結城高虎…。油断ならない相手だ」
言葉とは裏腹に、奴は楽しそうに笑っていた。
「……だが、殺し甲斐がある」
そう呟くと同時、殺し屋がスタートを切った。
速い。奴のナイフが迫ってくる。
俺の手元にはバケツ。
これで行くしかねェ。
「おっしゃァアアアアアアアアアア!!!」
殺し屋のナイフを、俺はバケツで受けた。
「バケツとは珍しい。だがいつまで持つかな?」
殺し屋が連続で斬撃を飛ばしてくる。
俺はそれをバケツで迎え撃った。
やっぱ速ェ。完全には捌ききれない。
いくつかの斬撃がバケツを掻い潜り、俺の体を掠める。
「大したものだ。ただのバケツでここまで粘るとは」
「あんまりナメんなよ?バケツの可能性は無限大なんだよ」
「勘違いしたまま死ぬといい」
そう言って殺し屋が飛ばしたのは、刺突。
バケツの下から通す気だ。
だが、コイツのナイフはもう見えてんだよ。
俺はバケツを下げて合わせる。
“ガキン!!”
バケツは凸状になっている。
故に刺突なら逸らせる。
俺は殺し屋のナイフを受け流した。
「なにっ…?」
瞬時に殺し屋の背後に回る。
そして奴の後頭部目掛けて、バケツを振り下ろした。
「オラァ!!」
「おっと!」
奴はギリギリのところで、前に転がって躱した。
「フフフ。その傷でここまでとは…。やはり面白い」
後頭部を殴られかけて尚、奴はニヤついている。
やはり猛者。簡単にはいかねェか。
さて、どうやってひっくり返すかな。
一方塚原は、“ハーメルン”の構成員を斬りながら進んでいた。
そうして最奥の部屋へと辿り着く。
塚原は、その部屋のドアを蹴破った。
「おいおい。あんまりうちのアジトを壊さないでくれよ」
部屋の奥に立っていたのは、“ハーメルン”のボス長峰誠二郎。
着崩した紫のスーツに、ブロンドのホストみてェな髪型。
さらには、額にグラサンを掛けている。
そんなチャラい見た目の奴は、左手に日本刀を携えていた。
「ほ〜ん?誰かと思えば、アンタ結城組の塚原だなァ?わざわざ殺されに来てくれたのかァ」
長峰は塚原の顔を見るなり、ケタケタと笑う。
「ありがたい話だわ〜。アンタを殺れば箔が付くんだもんなぁ〜」
「長峰、殺す前に1つ訊く」
塚原は動じることなく、長峰に問いを投げかけた。
「お主は剣の名家の出であろう。長峰家当主は人格者。剣術だけでなく志も、しっかり教え込まれた筈じゃ。何故幼子を海外へ売る?」
同じ剣術家だからか、塚原は長峰の家のことをよく知っていたらしい。
その問いかけに対し、長峰は下卑た笑みを浮かべて応えた。
「ギャハハハ!な〜にが志だよ!?親父は弱ェ奴のために剣を振れとか言ってたけどなァ、なんで天才の俺が弱ェ奴に尽くさなきゃならねェ!?寧ろ弱ェ奴らが俺に頭下げるべきなんだよ!」
「幼子を売るのは何故だ」
「金になるからに決まってんだろ!高く売れるうえに、簡単に捕まりやがる!こんな簡単に稼げるビジネスねェだろォ!?文句あるならちゃんと見てねェ親に言えってんだ!」
「……そうか」
ここまで聞いて、塚原の空気が変わる。
そして怒気を纏い、長峰を睨みつけた。
「貴様は最早、人に在らず。この塚原官九郎が、この手で地獄へ落とす」
声色は静かだが、完全にブチギレている。
最早鬼の形相だ。
塚原の怒りが伝わっていないのか、それともナメているのか。
長峰は尚もヘラヘラ笑っている。
「塚原さんよォ、アンタどうせ噂だけで大したことねェんだろ?」
そう言いながら、鞘から刀を抜く。
「ロートル風情に、この俺が穫れるかよォ!!」
長峰は一気に踏み込んだ。
日本刀を振り上げ、塚原に迫る。
「もらったァアアアアアアアアアア!!!」
自信に満ちた顔で、刀を振り下ろそうとする。
だが、それより先に…。
“ザシュッ!!!”
塚原が、下から素早く斬り上げた。
その刃は、長峰の両手を通り抜ける。
「あっ……えっ…?」
長峰の両手が、刀ごと床に落ちた。
痛みが遅れてやってくる。
「あっ…ぎゃァアアアアアアアアアア!!!手がァアアアアアアアアアア!!!!」
長峰は、無くなった両手を見て絶叫した。
斬り口から、血が湧き水みてェに溢れる。
「やかましい。泣きたいのはお前に攫われた子供達よ」
うるさそうに顔を歪めながら、塚原は長峰に迫る。
そして、刀を振り上げた。
「まっ、待て!!待ってくれ!!!」
長峰がみっともなく尻餅を着く。
無い右手を前に出して、命乞いを始めた。
「解った!!金!!金を出す!!今後俺達の稼ぎの7割、いや8割をアンタらに払う!!だから_____!!!」
「もう喋るな」
そう言うと、塚原は刀を振り下ろす。
長峰は命乞いの途中で、真っ二つになって死んだ。
「くだらぬ最期よ」
長峰の亡骸を見下ろし、塚原はそう吐き捨てた。
塚原はあっさり勝負を決めたが、俺は未だ戦闘中。
目の前の殺し屋が異様に強ェ。
不意打ちとはいえ、背中を深く斬られちまってる。
対して殺し屋は、未だ無傷。
「喜べ結城。もうすぐあの世へ行ける」
「あの世が嬉しいってか?だったら送ってやるよ」
俺は手元のバケツを軽く投げた。
(軽い。弾いて迎撃だ)
殺し屋は身構える。
だが俺は、ここで飛び出していた。
そして宙に浮くバケツに体当たり。
「なにっ?」
バケツの勢いが増す。
それは殺し屋の顔面目掛けて飛んでいった。
「確かに可能性は無限だな」
殺し屋は最低限の動きでバケツを躱す。
だが一瞬視界が切れた。
俺は既にドスを抜いている。
「オラよ!!」
「おっと!」
助走が乗った逆袈裟。
殺し屋は瞬時にバックステップ。
だが、浅くも胸を斬ることはできた。
「これなら銃が通る」
コイツ、抜かりがねェ。
一瞬でチャカを抜き、早撃ち。
「チィッ!!」
俺は体を捻るも、脇腹を抉られた。
「お前も貰っとけよ!」
俺も早撃ちを見せる。
その弾丸は、殺し屋のこめかみを掠めた。
「撃ち合いはリスクがあるようだ」
殺し屋はチャカを仕舞うと、正面から向かってきた。
「直接斬り結ぶとしよう」
「急に男らしいじゃねェか!」
俺もドスで迎え撃つ。
次の瞬間、激しい斬り合いに入った。
互いの刃がぶつかり、血飛沫が上がる。
(チャカもナイフもずば抜けてやがる。マジでコイツ何者だ?)
斬り合いの中で、俺は殺し屋の正体について考えていた。
一方の殺し屋は、少し余裕が無くなっていた。
(深傷を負って尚も互角。化け物か。だがこんな相手を殺してこそ、俺は高みへ行ける)
斬撃を放ちながら、殺し屋は微かに笑う。
何か企んでそうだな。
だったら何かやる前に、仕掛けてみるか。
俺は懐に左手を入れる。
(銃…。いや、もう1本のナイフか)
二刀流は不利になると思ったのか、殺し屋は後ろに跳んだ。
そのタイミングで、俺は左手のそれを振る。
最もそれは、ドスでもナイフでも無いんだがな。
“ゴッ____!!”
「がッ…!!?」
殺し屋の頭に、赤い球がぶち当たる。
そう。俺が取り出したのはけん玉だ。
「殺し屋くんよぉ、これは予想できなかったみてェだなァ」
「……あぁ。想像も付かなかったよ」
けん玉で頭が割られ、血が流れ出ている。
それでも殺し屋は、笑みを絶やさなかった。
「けん玉を武器にするような馬鹿は、お前が最初で最後だ」
殺し屋の笑みには、狂気が乗っかっていた。
頭を割られたことで、スイッチが入ったんだろう。
何にせよここからが本気ってことか。
殺し屋が、今にも襲い掛かろうとする。
……その時だった。
「高虎ァ!!!」
奥の部屋から、塚原が飛び出してきた。
切羽詰まってるのか知らないが、名前呼びされちまってる。
「何じゃお主は!!」
殺し屋を見るなり、塚原はスタートを切る。
そして間合いに入るや否や、唐竹割りを放った。
「フッ…!」
殺し屋はそれを横っ飛びで躱した。
「塚原官九郎か。まぁいい。今日はここまでにしよう」
構図としては、2対1。
人数不利と見てか、殺し屋は退却を選んだ。
チャカを撃ち、窓ガラスを割る。
そして素早く窓辺に飛び乗った。
「待てよ。帰る前に、名前くらい言ったらどうだ?」
「……」
奴は俺を知ってるが、俺はコイツを知らない。
なんか不公平だったから、名前を訊いた。
まぁ、答えてくれるとは思わないが…。
「……クーガーだ」
うおっ、答えてくれるのか。やけにあっさりだなおい。
クーガー。
コイツのコードネームか。
「結城高虎。次は必ず殺す」
クーガーはそう言うと、窓から出ていった。
「クーガー…ね。厄介なのに目ェ付けられちまったなァ……」
「高虎、闇医者行くぞ。ケジメは取った」
塚原が俺の肩に手を置く。
一波乱あったものの、俺達は“ハーメルン”を壊滅させた。
その後鍋島からも連絡があった。
“ハーメルン”の奴らを全員潰し、攫われた子供達も救出できたという。
その中にさやちゃんも入っていて、無事母親の元へと帰された。
対して俺は、病院のベッドで座っていた。
背中を深くやられちまったからな。しばらく安静なんだと。
その傍で、塚原がリンゴを剥いている。
「久々の入院じゃな。お主に深傷を負わせるとは…。クーガーとやらはそれ程手強かったのか?」
「不意打ち食らったとはいえ、ありゃ強ェな。ナイフもチャカも至高の域だ。何より気配を消すのが上手ェ。ムカつくが、一流ってのはあぁいう奴のことなんだろうな」
クーガー…。
“ハーメルン”に雇われたモンだと思っていた。
だが、“ハーメルン”の構成員が全員死ぬのを待っていたり、塚原が加わった途端、長峰の安否を気にせず撤退したり…雇われてる奴の行動とは思えねェ。
あいつは再び襲ってくる。
…にしても、いったい誰に雇われてるんだろうな。
まさか…“刃裟羅”じゃねェよな…。




