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トリプルデート

トリプルデートの予定が決まった。

今週の土曜日だ。 

アポロさんも今週の日曜日は空いていらしい。

凛は前、白のブラウスにジーパン、ピンクの薄手のカーデガンをコーディネートすると、バックの用意などをし始めた。


そしてついに日曜日が来た。

凛が待ち合わせ場所の動物園前に辿り着くと、アポロさんは既に立っていた。凛は小走りで駆け寄る。今日履いてきた靴はこの前、アポロさんに買ってもらったスニーカーだ。


「こんにちはアポロさん、お待たせ」 


「あぁ、凛さんこんにちは。良かった」


アポロは知っている顔を見て、安心したのか顔をほころばせた。


「おーい、凛! お待たせ!」


アポロさんと話すのも束の間、由香里がマッチングアプリの相手の手をグイグイと引いて、やってきた。

連れてこられた相手は黒髪の短髪で、目がクリクリしていた。身長は平均程の細身の男性だった。服装は白のTシャツにジーパン姿だ。


「アポロさんですよね。初めまして。遠山由香里です」


「どうも、黒神くろかみ あいです。あっ!」


黒神さんは一瞬、アポロさんを見て声を出して固まった。


「どうかしたの?」


由香里が怪訝そうに尋ねると、黒神さんは慌てて首を振り何でもないとだけ言った。アポロさんは少し目を細めていたが、そのことに関しては何も言わなかった。


「私は春風凛です。よろしくお願いします」


「白川アポロです。よろしく」

 

「彩達はまだ来てないの?」


由香里は黒神さんと手をつなぎながら話している。既に二人は仲良さそうだ。手を繋ぐだなんて、もうそんな段階までいったのかと凛は驚いていた。


「お待たせ!」


彩は彼氏のパーカを手綱を引くように引っ張りながら、やってきた。やってくるなり、自己紹介もせずにアポロさんの前で立ち止まり、ジロジロと顔を見始めた。  


「えっと」 


アポロさんは圧に負け、後ろに下がり始める。


「カッコいい! 私と付き合ってください!」


彩は目を輝かしながら、九十度のお辞儀をしてみせた。


「ちょっと彩!」


凛が注意すると、彩は舌をだして謝り始める。


「ごめん、ごめん」


「彩ちゃん、僕を捨てないでよ」


彼氏である幸也は巨体を左右にプルプルと揺らしながら泣きながら訴えている。


「変わった知り合いだね」


アポロさんは、苦笑いをしながら凛に小声で話しかけてくる。


「そ、そうなの。ちょっと変わってて」


(ああ、もう。こんなんでデートはどうなっちゃうんだろう)


凛は頭を抱えた。


「じゃあ、行きましょう!」


由香里が助け舟を出してくれた。

そんなこんなで、動物園に入園すると思っていたよりも楽しむことができた。


アポロさん達と最初に訪れたのはウサギを触れるコーナだった。


「あ、ウサギ。美味しそ……」


アポロさんは言葉を発した瞬間、手で口元を押さえると慌てて言う。


「あ、ウサギです! 可愛いですね!」


「え、本当だね! 可愛いね!」


アポロさんは慌てた様子で言った。

黒神さんが立ち上がり、由香里の手を引く。


「ゆきりさん、あっちに行ってみましょう」


「あの、黒神さん。私、由香里よ」


名前を間違えた黒神さんに由香里は訂正した。


「あ、すみません! じゃあゆさりさん、行きましょうか!」


「はぁ、由香里なんだけど、もう名前なんて何でもいいよ」


由香里は諦めた様子でため息をついた。


「アポロさんは……。あっ、彩と話してる」


気がつくとアポロを真ん中に、凛と彩が挟む形で座っていた。

幸也は彩の前に立ちながら指をくわえてその様子を、悲しげに見ている。

アポロの体に彩の体が触れていた。


「ねぇ、アポロさんは今まで女性と付き合ったことあるんですか?」


「ないよ」


「え、そんなにイケメンなのに。じゃあ、私とかオススメですよ。私は経験あるからアポロさんを優しくリード出来ますよ」  


「アハハ……。遠慮しておくよ。ごめんね」


アポロさんは苦笑いをしながら言うと、彩から少し離れた。凛の腕にアポロさんの腕があたり、凛はドキドキしていた。


「もう、遠慮しなくてもいいですよ」  


「彩ちゃん! 僕と一緒にキリンでも見ようよ」  


幸也は何とか彩の気を引こうと、彩の周りをウロウロとしている。


(なんだろう? 彩とアポロさんが話しているとモヤモヤする……)


凛はその光景を見て、何となく嫌な気分になった。


そうしている内にお昼になったので、各々ペアの人と食べ始めた。彩はアポロさんと食べたがっていたが、由香里が気を使って引き離してくれた。


「僕達も食べに行こうか。そこのお店にでもはいる?」


アポロさんは少し先にあるフードコートを指差した。


「あ、嫌じゃなければ、私お弁当作ってきたんだけど、食べてくれない?!」


凛はバックからお弁当を出してアポロさんへと差し出した。アポロさんは少し考え込むと、言った。


「お弁当か……」


「あ、嫌だったら全然大丈夫!」


「嫌じゃないけどさ、ちょっとそれフードコートで温めてもいいかな」


フードコートには誰でも使える電子レンジが置いてある。


「は、はい。勿論」


「ありがとう。凛さんのも温める?」


「あ、お願い!」


アポロさんはお弁当を二人分温めてくると、すぐに戻ってきた。凛はフードコートの席を取っておいた。


「はい、凛さんの」


「ありがとう!」


今日の朝、早起きして作ってきてよかったと凛は胸を撫で下ろした。


蓋を開けると、凛のお弁当は湯気が立っているほど温められていたが、アポロさんのお弁当は湯気が立っていなかった。


各々、食事を楽しんだあと凛達はヘビ爬虫類のコーナを見に来ていた。


「アポロさん、ヘビ可愛いですね」


ヘビ好きな凛は夢中になって眺めていた。

 

「え、あ、うん、そうだね」


凛がふと目を下へ向けると、アポロさんは座り込んで何かをやっている。何をやっているのかと横からのぞいてみると、アポロさんはヘビの檻の下を素手で凄い勢いでほじっていた。既に下にはぽっかりと大きい穴があいていた。その穴を通ってヘビが次々と脱走しはじめる。


「ちょっと、アポロさん何やってるんですか?!」


「だって、可哀想じゃないか。こんな狭い所に閉じ込められて」


「早く戻さないと大変なことに」


由香里はヘビに夢中で凛達の様子に気がついていない。

 

「おい! 君達そこで何やってるんだ!」


従業員がこちらに気がついたのか、声を荒げながら走ってくる。


「アポロさん、行くよ!」 

 

凛はアポロさんの手を引くと、急いでヘビコーナから脱出し、そのまま動物園を抜け出した。









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