言ってもわからない相手
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王都行きの馬車の中。
「神の使い殿、それでは……」
『ちょっと待った。その前に、妾はこれから姿を消す。いなくなるわけでは無い。実態を消すだけでお主にだけ見えるようになる。これからは“ココ殿”と呼ぶが良い。実態を消すと喋れなくなるが、お主の記憶に入り込める。体験した事が言わずとわかると言う事じゃ。ここまでわかるか?』
「神……ココ殿、と、言うことは、今から話そうとしたことを、知ることになると言うことですか?」
『うむ。そうなる。面倒じゃなくて良いだろう? まぁ、隠し事もできないがな』
「いえ、助かります。城に戻ればココ殿を見た者達が大騒ぎを起こします。あ、王様に会う時だけ実体化できるでしょうか? 一度紹介したいのです。」
『あぁ、そうじゃの。実体化も魂化も大変なことでは無いのでな。その時は言うがいい』
「ありがとうございます。では、どうぞ」
『うむ』
ふっと存在感が無くなったココ殿。
「あ、そうか、私には見えるんですよね」
「キュキュッ!」
「わぁ、かわいい声。なるほど、この声も他の人には聞こえないのですね?」
「キュッキュ」うなずく。
「わかりました。では、私の体験した記憶を見てきてください」
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……。
……いつの間にか眠ってしまったようだ。
見るとココ殿が馬車の窓のフチに止まっていた。
こちらを見るなり、いきなり怒り出した。
『なんじゃ! あのむすめは! お主、今回で2度目と思っておろうが、記憶の奥底まで覗いてきてわかったぞ。毒を盛られているのは5度、2回夜這いに来られておるわ!』
「5回も……2回夜這い?」
『驚きすぎて実体化してしまったわ。伝えないといかんと思ってな』
「じゃぁ、私が気づかなかっただけで、そんなに?」
『2度は記憶にあろう? 3度の毒は2回が毒味が見つけ、1回は下痢しただけで済んだのじゃ。そして夜這いは護衛に感謝するんじゃな。近くまで来たが護衛騎士のおかげで未然に防げておった』
「今度お礼を言います。……そうでしたか」
『そこでだ。もう妾が行ってくることにした』
「え? 話し合ってどうするか決めるのでは無く?」
『うむ。見てきて思ったのじゃが、あやつは人の話は聞かぬ。多分、国に帰って父から厳しく言われてもこっそり海を渡ってくるじゃろう。それだけお主に執心なのが見て取れる』
「……私は、ローズを好きになりました。だから……」
『わかっておる。妾が見た未来の映像は其方達が仲睦まじくしている姿じゃ』
「え? 私とローズが?」
『いくら万能な妾でも、映像が見えるのは、思いが通じた相手同士の時しか見えないのじゃよ』
「思いが通じた……相手同士……。っは! まさか!ローズも……」
『おっと、おしゃべりが過ぎたようじゃな。んじゃ、ちょいと行ってくる』
そういうと、フッと消えるココ殿。
「ローズも私を……」
私は宮廷に到着するまで、クッションをキュッと抱きしめたままでいたのだった。