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最強の助っ人

 ⭐︎


 私は、ベルタン殿に今回の事件に関わっていると睨んでいる、隣国の視察団との経緯を話す。

 

 海を渡った隣国に、ニグ国という国がある。視察の主な目的は交易のための商品情報の共有。そして付属として、人命救助のあり方の確認であった。今回はニグ国、14歳の第2王女が使者として来たのだが、私を一目見て気に入ったらしく、ぜひ嫁にしてくれと言い出したのだ。

 

 まだ婚約者もいない私は、王女に対して好みでは無いとはっきり言えず、すぐに断ることができなかった。

 

 どうにか誤魔化しながら、数日接待して気がついた。

 

 初めは猫を被っていたのだが、被れていたのは最初の数時間だけ。

 

 徐々に明らかになっていく王女の素顔。

 

 性格は苛烈極まりなく、離れた部屋にいるはずの王女の怒鳴り声や何かが割れる音が聞こえるほどだった。

 

 王様も来賓として応対していたが、王女の態度を聞き及び、キッパリと結婚は断ってくれた。

 

 だが、最初に煮え切らない態度をとったのがいけなかったのか、なかなか諦めない王女。ついには、私を連れ去ろうとしたのだ。

 

 そこで、とうとう王様は言い放った。


「我が息子に相応しいと思えばすぐにでも婚約させたが、あまりにも傍若無人な振る舞い。ついには拉致を企てるなど、犯罪であるぞ! 隣国の王女でなければ極刑を言い渡すところである。すぐに立ち去るがよい! 二度とこの地に足を踏み入れる事は許さぬ。この件は抗議文として彼の国に送らせてもらう! 」


 拗れれば戦争に繋がる問題だが、王様は私にこう言った。


「こんなことで戦争になっては困るが、婚姻は一生の問題。どう見ても問題だらけの娘など、たとえ王女でもいらぬわ。サミュエル、貴族や王族は政治がらみの婚姻が多い。だが、私はそうは思わないのだよ。お互いを愛し、大切にすることができれば、お互い自然に成長できる。そしてそれは必ず周りにもいい影響が出る。そういう人ができた時は言っておくれ」


 そしてポツリと言った。


「彼の国の国王が良識ある人物だといいのだが……。」


 ⭐︎


 ベルタン殿は眉間に皺を寄せ、

「一国の王子を誘拐? そんなこと、世間に知れたら非難されるのは向こうの国。しかも企てたのは第2王女など、国民に知れたら国家転覆の危機にもなりかねませんな」


「ですから、我が王からの抗議文が届く前に王女は手のモノを使い、薬で意識を混濁した殿下を連れ去ろうとしたのでは無いかと思うのです。だが殿下は幻覚を見て走り去ってしまった……家令である私が気がついていれば……申し訳ありません」


「セバスチャン、もう忘れろ。こうして命が助かったのだ……あの、ベルタン殿。」


「? なんですかな? 殿下」


「その、お礼を言いたいのだが。……御息女に。忙しいのなら無理にとは言わない……できれば連れてきてもらえないだろうか」


「わかりました。では、ローズを呼んできましょう」


「あ、私もご一緒いたします。お伺いしたいこともあるので」


 そう言うと、家令のセバスチャンとベルタン殿が部屋から出ていく。


 ふう、やはりまだ薬の影響なのか、体がだるい。


 ローズというのか、あの娘。


 海の中で初めて見た時、本当に人魚だと思った。


 シルバーブロンドの長い髪が水中になびき、アイスブルーの瞳は吸い込まれそうなほどに大きく美しかった。


 多分、一目惚れと言うのだろう。


 その彼女が人命救助として、わ、私に人工呼吸をしてくれた。


 ……キスだ。


 枕をぼすぼす殴りながら悶える。


 く〜〜〜〜〜……なぜ! なぜ覚えていない!私としたことが!


 意識を失っていた事がこんなに悔やまれるなんて思わなかった。


 ただ、その後の彼女の格好を認識して鼻血が出てしまったのは……言えないが……。


「遅いな……大体、偉そうに来て欲しいなんて……。よし、行って礼を言おう」


 2人が立ち去った方向に歩き出す。こっちかな?


 すると……、うん? 言い争いか?


「そ、そのような事はございません。神の使い殿、どうか……」


『では、さっきの態度はなんじゃ? 命の恩人にする態度か! おおぉん!?』


 ……神の使いだって?


 おお! だが、なぜ? 彼女の肩にいるのだ??


「申し訳ありません。神の使い殿。私のせいで家令が失礼な態度を取ったのです」


 思わず割って入ってしまった。


「で、殿下。まだ起きられては、お身体が……」

 セバスチャン、泣きそうになってるではないか。


「お前が戻るのが遅いから来てみたのだ。何をやっているんだ。私は礼を言いたいからできれば連れてきてくれと言っただけだったろう。それに体は、もうなんともない」


 やれやれ、恩人に詰めよるような事をしたのか、申し訳ない。


「改めて、お礼を言わせていただきたい。ローズ嬢。ありがとう。あのままだったらと思うと震え上がる気分だ。今度、改めてお礼をさせて欲しい」


「あ、いえ。もうお身体は大丈夫なのですか?お礼なんか気にせず、まだ休まれた方が……」


 かわいい……ずっとここで休んでいたい! って言えたらなぁ〜。

 言いたいセリフをぐっと飲み込み、


「本当はもう少しゆっくりと貴女と話したいのだが……。今回の件でいろいろ調べることが増えてしまって宮廷に帰らないといけなくなった。第3とはいえ、これでも王子だからね」


 ちょっとカッコつけてウィンクする。……カッコついたかな。


『ふむ。王子とやら、妾が力を貸そうか?』


「神の使い殿がですか!?」


「ココちゃん?急にどうしたの?」


『今、ちょっと未来が見えてしまったのじゃ。ふふふふふふふ』


 神の使い殿は未来が見えるのか。すごい。何を見たのか気になる。


 その後、ローズ嬢はココとのしばしの別れを辛そうにしていたが、


 私が戸惑いながらも彼女の頭をそっと撫で。

「すまない。できるだけ早く終わらせるから。泣かないで?」

 

「ぐすっ。はい。泣きません。待ってます。ココ……、行ってらっしゃい」

 

 できるだけ早く片付けよう。彼女が寂しく無いように。彼女の涙が出る前に。


 我々は王都に向かった。

 神の使い殿と一緒に。


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