ヒールが効かない
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朝食後、自宅学習が始まる時間まで、浜辺をココと侍女のクリスとで散歩に出かける。
領土の邸は海に面していて、すぐに浜辺に出られる。国の先端と言われる岬の右側に位置する。
プライベートビーチになっていて、観光地が隣なのに誰もこちらの海岸には入れない。なので気軽に侍女と2人で出歩けるのだ。
侍女のクリスにもココは見えないらしく、私がココに向かってしゃべっている姿は空想の友人に話していると思っているらしい。
ただ、もう10歳だし、空想の友人っていうのも無理が出てくるわよね……、ココと心でやり取りできればいいのだけれど。
などと考えていると、
「キュキュッ!!!キューーーー!」
ココが大きな声で鳴き出した。もちろん侍女のクリスには聞こえない。
「なに? どうしたの?」
空を旋回し、方向を示す動きをする。
そちらを見ると……。岬の方向だわ。
岬の先端に目をやる。
「っは!!人だわ!」
おかしい。フラフラしている。あのまま行くと……。
岬の先端は低く、海との距離はあまり無いけど、落ちたらやはり危険だわ。
「ダメよ!!危ないわ!!」
言いながら走り出し、ワンピースを脱いでシュミーズ1枚になる。
「お、お嬢様!!!いけません!!」
大丈夫よ。小さい頃から泳いでるんだもの。それに海も知っている。
ドッボーーーン!!
落ちた。やっぱり!
スッと海に飛び込む。
『どこにいる?……あ、いた!』
水中を人魚のように泳ぐ。そのぐらい、泳ぎには慣れていた。
ゆっくりと沈んでいく腕を掴み、引きよせる。
『男の子だわ。私と同じぐらい? 金色の髪……綺麗な顔、見かけない子ね』
脇から腕を通し、急いで水面に出る。
「お、お、お嬢様〜〜〜、今、た、タオルを!!!」
頭を上にあげ、横向きにさせ浮かせる。私は引っ張って泳ぐだけ。
「大丈夫よクリス。この子をそこに寝かせて」
すぐにヒールを唱える。
「ヒール」
……え!? だめだわ、効かない! どうして……。 仕方ない!!
胸を何度か強く押し、人工呼吸を始める。鼻をつまみ、顎を上にあげ、口に息を吹き込む。
「ひい!!!お、おじょうさま〜〜〜〜〜!!く、口付けなんて〜〜!」
あ、水を吐いた。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
「ふ〜〜、よかった。君、大丈夫? クリス、人工呼吸よ? 口付けじゃないわ?」
「じ、人工呼吸?? と、とにかくタオルを!」 いつの間にか邸から人が集まり、クリスにタオルを渡していた。
あ、そうか。人工呼吸、知らないのね。ん〜、まぁ、いいか。
男の子はボーッとしている。まだ何が起きたのかわかっていないみたい。
すぐに騎士たちが来てくれて、男の子を邸に運んでくれた。
「お嬢様も早くお風呂に入りませんと、行きましょう」と、クリス。
なぜかタオルでぐるぐる巻きにされ、騎士に抱えられる私。