ジノ海洋国
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ここは「ジノ海洋国」、海に囲まれた島国だ。
国の南に位置する侯爵家である父の領土は、一族の名前から代々ベルタン領と呼ばれ、広大で国の先端と評される岬があり、観光名所になっている。
岬から少し離れた場所に港があり、海外との交易も盛んだ。
魚も豊富にとれ、なんと、お米もある。……家畜用だけど。転生あるあるよね。
なぜ私が、この世界に前世の記憶を持ったまま生まれてきたのかわからないけれど、日本人だった頃を覚えている。
母は私を産んで産後の肥立ちが悪く、私が生後3ヶ月の頃亡くなってしまった。
母の髪はシルバーブロンドのストレートで瞳はアイスブルー。
美しかった母の全てを私は受け継いだ。きっとスタイルも良くなるはず。
亡くなる前、私に名前をつけてくれたのも母だ。
「ローズ。私の妖精……。どうか、健やかに……。見届けられない母を許してね、かわいい子……どうか、どうか幸せに」
と、言っていたと、父様が泣きながら教えてくれた。
父の名は、ハリスン・ベルタン、私はローズ・ベルタンとなった。
その後、忘れ形見となった私を父は溺愛し、育ててくれた。
ただ、転生者の記憶を持つ私は、甘やかされても、溺愛されても、奢る事なく、粛々と育った。生前読んでいた小説の中に甘やかされ、わがままに育った悪役令嬢の話があったから。
転生者と自覚したのが1歳。そして、その頃からすでに、ココが側に居てくれた。
現在10歳。
とりあえず、邸のみんなとも、お父様とも関係は良好だから……大丈夫よね?
(不安だわ〜、昨日クッキーのおかわり焼いて貰っちゃったし、料理長怒ってないかしら? そ、それとも、侍女のクリスの言う通りに白いリボンにしておくべきだった!? 私ったらセンス無いのに赤って主張したから……き、今日もみんなにヒール掛け回っておこう!)
と、クリスに髪を梳かしてもらいながら鏡の前であれこれ考えていたら。
「ローーズ、私の天使! おはよー! 今日もかわいいねー! 愛しているよ!」
と、お父様が一字一句昨日と同じセリフで部屋に来た。
「お父様、(お約束)嬉しいわ! ローズも愛しています!」
「ローズ!もしかして、お約束とか思ってなかったかい?」
ギック〜〜! なに? 魔法? 心が読める系?
「ふふ。顔に出てたよ?父様はね、本当はもっと、も〜っと、ローズを褒めたいんだよ?でも、今のところドンピシャな表現が天使しか思いつかなくてね〜何かいい言葉あるかい?」
顔に出てた? うぅ、ごめんなさい、お父様。
「いいえ、お父様。天使と言ってくださるだけで嬉しいですわ」
「そうかい? クリスはどう思う?」
「はい。お嬢様の事はざっと例えるだけで100通りは言えます」
「「100!?」」
「ほ、本当かい? 言ってみてくれる?」
「はい。天使は去ることながら、神、女神、妖精、光、可憐な花、夜空の星、輝く月、流れ星、虹、月下美人、ダイヤ、ルビー、エメラルド、水晶、桜、蝶、紅葉、朝焼けの空、白鳥、慈愛の「待った〜〜! 本当に100言いそうだから、もうやめて〜恥ずかしぃ〜」……」
クリスは指を折りながら「まだいけますが?」なんて言ってるけど、私はもう聞きたくないわ! 恥ずかしすぎる! たぶん赤くなってる頬に両手を当て、下を向く。
「すごいな……、父様は負けた気がするよ〜。だが、さすがクリスだ。ローズの侍女だけの事はある」
「ありがとうございます。ですが、我々使用人は日頃から思っていることなのです」
「日頃から?」と、お父様。
「はい。お嬢様はいつも我々に優しく気遣い。ヒールまでかけてくださるのです。皆、お嬢様が大好きなのです」
さっきまで悪役令嬢なのかもって不安だったのに、よかった〜。
「私も、みんなの事、大好きよ!」
感極まり、クリスに抱きついてしまった。どうしていいのかわからず手が泳ぐのが見えるけど、知らないわ。さっきのお返しよ。うふふ。
本当によかった。そうだ、後で料理長にクッキー焼いてもらおうっと。