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十、推しは甘党

「そもそもの話、高校生から付き合い始めた男女がどれくらいの数結婚すると思ってるの?」


 いつの間にか機嫌を直していた推桐葵は歩き始めてすぐに歩を緩めて、俺の隣に位置するように歩き始めた。

 そして開口一番そんなことを言ってきたのである。


「突然何の話だ?」


「君がこの間言ってた証明の話よ。証明って言っても自己完結の自己満足のものでしかないものだけど」


「ああ、そういえば……」


「そういえばって忘れてたの?」


 俺はどうやら自分の推しを呆れさせるのが得意なようだ。

 もはや見慣れてしまった呆れ顔をこちらに向けてくる彼女を横目で見ながら、この間学校で話した内容を思い返す。


 確か付き合う、子供ができるといった流れだったか。

 そして今された彼女の質問。


 確かに俺の理論を証明するには高校生から付き合って、そのまま順風満帆に結婚までたどり着かなければならない。

 その確率はと聞かれれば決して高い確率ではないことは優に想像できる。


「一割よ。一割」


 答えを言わない俺にしびれを切らしたのか、彼女は渋い表情を見せながら指を一本立てた手をこちらへとむけてくる。


「ふむ、そんなにも少ないのか」


「しかもその大半はできちゃった結婚でしょうがなくとか、結婚しても結局不倫して別れてるのばっかり。まともに生涯を添い遂げるなんてことは天文学的確率といっても過言じゃないと思うわけ」


「それはいささか言いすぎなような気もするが」


「そうかしら? ともかく高校生の恋愛なんて所詮は子供の恋愛ってことよ」


 まあ俺はもちろんのこと、彼女もそんなお子様の恋愛ですらしたことがない子供というくくりになるわけだが。

 これ以上彼女に怒られたいわけではないので、さすがにそれは口にはしなかった。


「つまり?」


「つまり悠くんがどれだけ私に恋人を作らせようとけしかけたとしてもそれが成就する確率は限りなく低いってことよ」


「もちろん俺は君と誰かを無理やりくっつけようなんて思っていない。君には幸せになってほしいし、本当に愛する人と結婚してほしいと思っているさ。俺は単純に君のその遺伝子を君限りで終わらせるのはもったいないと言ってるだけだ」


「それこそ一番意味が分からないわよね。別に私の子供が私と同じになるわけでもあるまいし」


 ふむ、確かにそれはそうだろう。

 彼女の子供はまた彼女とは違った人生経験をしてまた違った人物になっていくのだろう。それは当然だ。

 しかしそういったことも含めて俺は彼女の子孫を見てみたいのだ。


「まあこの話は押し問答になりそうね。そもそも君は私の子供の話をするなんていつまで推し続けるつもりなの?」


「愚問だな。一生に決まっているだろう」


 例え推桐葵という存在が俺の目の前にいなくても構わない。

 俺は心の中で一生彼女を推し続けるだけだ。

 何も一生彼女に付きまとおうといってるわけでもない。


「君の場合真剣にそれを言ってるからたちが悪いのよね」


「ああ、俺はいつだって真剣だ」


「はいはい」 


 あきらめにも似たような軽い返事をされて、多少なりとも不満が残る部分はあるがこれ以上言ってしまうと重くとらえられてしまうかもしれないから、俺としてもこのあたりが引き際だろう。


「やっぱりまだ始まってないから人は少ないね」


「ああ、もうついたのか」


 彼女の一言で早くも目的地である水族館についたことに気が付く。

 彼女の言う通り、人の数は駅にいた時よりもさらにまばらでむしろ俺たちしかいないようにすら思える。

 水族館の前に建っている噴水もやけにさみしげに見えた。


「まだ時間はあるけど、入り口で待ってよっか」


「そうだな。あそこにベンチがある。ずっと立ちっぱなしもしんどいだろう? そこで座って待ってよう」


「そうね」


 今更来た道を返してどこかカフェに入ってゆっくりするような時間もない。

 今の季節であれば外で待っていてもさほど寒くはないだろう。

 自然な流れで入り口付近にあるベンチで座って待つことになった。


「君、コーヒーは苦手だったよな?」


「そうだけど……。どうしたの、突然?」


「飲み物買ってくる。君はベンチで待っていてくれ」


 ずっと話しながら歩いてきたのだ。俺ものどが渇いているしきっと彼女も同じだろう。

 そう思い俺は彼女から離れ近くにあった自販機へと足を運ぶ。


 確か彼女は生粋の甘党だったはずだ。昔と変わっていなければ。 

 まあもし好みじゃなければ俺が二本飲んで、もう一本買いにくればいいか。 


 そんなことを考えながら適当に缶ジュースと缶コーヒーを買い、彼女の元に戻る。

 推桐葵はベンチに座りながら考え事でもしていたのか物憂げな表情を見せながら、足を延ばして座っていた。


 ただそれだけなのにどうしてこんなにも絵になるのだろうか。 

 思わずスマホを取り出して写真を撮ってしまいそうなほどに、彼女は周りの風景に溶け込むように、ただそこに存在感を示しながらたたずんでいた。


「何突っ立ってるの。君も座ったら?」


 思わず足を止めて見とれていると、それに気づいた彼女がこちらを不思議そうな顔で見てきながら首をかしげていた。


「ああ、つい見とれていた。オレンジジュースしかなかったがよかったか?」


「……ん。ありがと」


 歩みを進め彼女の隣座りながらジュースを差し出すと、なぜか彼女は顔を背けながらジュースを受け取った。


「ああ、お金はいい。これは俺が勝手に買っただけだからな」


「いいの? じゃあ遠慮なく。ありがとう」


「ああ」


 財布を出そうとしていた彼女を制し、俺も自分のために買った缶コーヒーを開けて飲む。


 ふと彼女の視線を感じ視線をそちらに向けると、ジュースを両手で持ちながら先ほどと同じように不思議な顔でこちらを見つめてきていた。


「……どうかしたか?」


「ううん、特にどうってことはないけど。君はコーヒー飲めるんだなって」


「ああ、俺も大人になったってことだな」


「コーヒー飲めるイコール大人って考え方は子供なんじゃない?」


「確かにそれもそうかもしれないな」


「それに大人だっていうなら微糖じゃなくてブラックコーヒーを飲んでこそじゃない?」


「その考え方もまた子供っぽいんじゃないか?」


「はは、確かにそうかもね」


 結局二人とも似たり寄ったりなことを言っているからまだまだお子様なのだろう。 

 そんな他愛のない会話をしながら二人でゆっくりと飲み物を飲んでいた。


 正直私服姿の推桐葵を見たときは緊張していたが、その緊張もほぐれてきたのか思いのほかスムーズに彼女との会話が弾んでいるからか、今はこの空間に心地よさすら感じていた。


 そして二人とも缶の中身がちょうど空っぽになったと同時に開園時間となった。

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