出口のない家④
大人四人の力でも、その黒い鉄の門はびくともしなかった。
門の向こうには、背の高いすすきが伸び放題に広がっている。
よく晴れた秋の日。
すすきは静かに風に揺れていた。
「未央くん! 遠くに行かないで下さい!」
門の周囲を探検しようとする未央を、宇佐美が止めた。
未央は黒い鉄柵に掴まり、思いっきり背伸びをする。「すすきしか見えない……」
小柄な未央には何も見えないが、大人たちには、すすき野原の先に黒い家が見えた。
「あれが、そうですか」と目をこらしながら克己が言うと、隣に立つ真海が「そうね」とうなずいた。
綾子もすすきに囲まれた家をじっと見つめた。「昔はきれいなお庭だったのに……」と呟く。
宇佐美は後ろを振り返った。「中に入れそうもありませんね」と秀一を見る。
秀一は宇佐美たちが門を開けようとしていた時も、ずっと突っ立ったままだった。
「開けたほうがいい?」と秀一は宇佐美を見た。
「……開けられますか?」
宇佐美に言われて秀一は、門に向かい手をかざした。
途端、音も立てずに門が自ら開く。
人が一人通れる程度の隙間が出来た。
大人たちが唖然とする中、未央が駆け出した。「僕、一番乗り!」と中に入り、すすきの中に消えた。
「未央くん待って!」と宇佐美が慌てて後を追う。「僕が先に行って、安全を確認します!」
宇佐美に続き、不思議そうな顔で秀一を見ながら真海が入って行った。
お先にどうぞと克己に促された綾子は、秀一に頭を下げて中に入る。
「秀一くんもどうぞ」
綾子を門の中に入れた克己は、秀一に声をかけた。
秀一は動かなかった。
「入らないの?」
「克己さん、先に入って」
じゃあお先にと、克己が中に入る。
最後に入った秀一は再び門に手をかざした。
中から門を閉じ、封印する。
「未央くん! 勝手に前に進まないで! 全員で一緒に行きますよ!」
宇佐美の声が遠くから聞こえた。
秀一は踵を返し、声がする方に向かう。
他の者には見えないが、すすき野原にいた無数の異形の者たちが秀一の周りに集まっていた。
頭を下げながら、上目遣いで秀一の動向を伺っている。
——あの人間たちは食べるな——。
秀一が命じると、異形の者達はゆるゆると散っていった。
宇佐美の声がする方に歩きながら秀一は、自分の手を見る。
この器は、脆い。
力を使う度に少しずつ削られていく。
秀一の母親は死者と交流することを禁じたが、それは息子が壊れていくのを無意識に防いでいたのかもしれない。
——オレはあと何日、人の姿でいられるんだ……。