出口のない家②
「生きている人が、屋根裏にいるんですか?」
運転席の宇佐美に訊かれて、秀一は迷った。
屋根裏の光景は視える。
だが宇佐美はあの状態の女を生きているとみなすだろうか?
生か死かの二択しか認識できない人間に、どう説明すればいいのか?
自分もこの夏、大叔母に出会うまでそっち側の人間だった。
「不審者が住み着いているんですか?」
宇佐美の問に秀一はまた首を傾げる。
あれは、不審者なのか?
「全員で家に入るのは、危険ですか?」
「危険じゃないよ」
恨みを抱いて亡くなった霊だが、関わりのない生者に危害を加えるとは、秀一には思えなかった。
第一、何か怪しい真似をしたら自分がすぐに消し去れる。
死んでいようが、生きていようが——。
前の車がハザードを点滅させて減速し、高い門の手前で停まった。
運転席から真海が降りる。
宇佐美は、真海を見ながら車を停めた。
秀一も宇佐美の視線を追う。
真海は門の前で、黒い服を着た女と話していた。
「あの人、守られてるよ」
車を降りながら秀一が言った。
「真海さんがですか?」
「違う。あの自転車の人」
「自転車?」
宇佐美に自転車は見えないが、秀一には門の前で真海と話している女が、ここまで来る前の情景が一瞬で視えた。
「自転車のチェーンが外れたから、ここまで歩いてきたんだよ。あの人、お祖母ちゃんから、すごく大事にされてる。お祖母ちゃんは、ここにこさせたくなかったんだ」
秀一は門の先を指さした。
——ここからは、人の目では見えないが、禍々《まがまが》しい空気に包まれた家を。
「宇佐美さん、事件を解決したかったら、綾子さんの話を聞いた方がいいよ。屋根裏にいるものも早く終わらせたがってる」
「……綾子さんとは、どなたです?」
「あの人」
門の先を指していた秀一は、門前で、真海と話している女に指先を向けた。
「さっき宇佐美さんが話していた目撃者」