後日
「そりゃあもう、そんな状態ですから、最上階に着いたときは話が早かったですよ?」
イサムは昼の食堂で、ため息をつきつつ言った。
依頼主の役人風の男は苦い顔を見せるかと思いきや、苦笑いをしながら言った。
「そうだろう。若い二人にはいい薬になったろうな」
イサムにとっては久々の惨劇となったあの日から三日後、任務の報告はやはり同じ食堂の同じ席だった。
「あのトーブという男は、公爵家の遠戚の貴族なんだが、評判が悪い。騒ぎになったのは奴の企みだったんだ。アガットはただの戦闘狂だな」
「二人は誘拐ではなく、実は駆け落ちだったと聞きましたが?」
横に座る神奈が、またイサムの皿に手を伸ばし、イサムはその手を叩く。
食欲も術の副作用だ。
「それを悪用して公爵家の対立を煽ろうとしたらしい。あの二人がきちんとした筋で交際をしてくれれば、仲の悪い公爵家同士でも穏便に事を進めることもできたのだがな。あの男たちにそそのかされたせいで、悪くすれば国家の危機だ……あの二人の交際はどうなるか分からんが、今回は助かったよ。ありがとう」
今度は少し苦々しく笑う。
イサムはそれを見てから小声で訊ねた。
「……それで、今回の報酬ですが……」
「ああ、悪いが払えないぞ?」
「へ?」
「やり過ぎだ。尖塔の修復費や一般兵士の治療、監獄の修理。差し引きゼロだ」
「そんなぁ」
「きちんと精算してマイナス分も請求するか?」
「……いえ」
しょげるイサムの前で役人は立ち上がった。
「まあ、ここの食事代くらいは払っとくよ」
そう言って役人は店を後にする。
「やったね。タダ飯だよ。もっと食べればよかったね」
「よくない。ただ働きだ!」
破顔する神奈に、頭を垂れるイサム。いつもの光景だった。
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