表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

だからあなたを守ります  ~聖女の矜持~

作者: 葉室 律

タグに迷いました。百合でもGLでもなく狂信かな、と

登場人物ネームレス小話第二弾、お茶うけになれば幸いです。

 神から力を賜った勇者が、魔王を倒し凱旋を果たしました。

 女性の身でありながら聖剣を掲げ、堂々と魔王を倒したのです。

 世界中が喜びに包まれました。

 生まれ故郷の王国も、我が国の勇者が魔王を倒したと誇らしげに語り合い、帰りを今か今かと待ちました。

 そして凱旋して、故国の王との謁見の日。



 勇者は投獄されました。






「だから、聖剣(神の加護)を返すのはもう少しお待ちなさい、と言ったでしょう」

「そうは言っても、もう神様のお力でなすべきことは成したのだから、借りたものは早めに返すべき」

 聖女はそーゆーの厳しいでしょ、なんていう勇者に、これからは処世術も教えてやらねば、と決意する。

「でも、助けてくれてありがと。聖女とみんなが助けてくれなかったら、脱獄できなかった。青い空に白い雲、なんてすばらしい!」

 朗らかに笑う勇者の、本心からの笑顔にほっとする。

 神殿も、聖女も、聖剣(神の加護)を返還した勇者がその足で向かった王城で、即刻投獄されるとは思ってもいなかったのだ。

 返す返すも一人で王城に行かせるのではなかったと、聖女は反省する。

 神殿への報告なんて後回しにして、聖女が王城へついて行くべきだった。少なくとも仲間の一人は、王城の意向を無視してでも、強引についていくべきだった。




 謁見したその日、王城は総出で勇者を迎え入れました。

 城門の出迎えには第二王子が、エスコートは王太子が、謁見の間には王と王妃は言うに及ばず、四大公爵とその令息が勢ぞろいという、煌びやかな歓待ぶりです。

 王は、見習いの僧服を身にまとった勇者に首を傾げつつも、魔王討伐を労い、要求されてもいない褒美を並べ立てました。


 気に入った令息を選ぶが良い、広大な領地をもつ次代の公爵夫人の地位と名誉を約束しよう。

 第二王子はまだ年若いが年頃的には釣り合うだろう、(まつりごと)にかかわらぬ気楽な王子妃の人生と、好きなだけドレスも宝石もくれてやろう。

 王太子は少し年上だが大人の貫禄もあり、頼りがいがあるだろう。この国の未来の王妃だ、どんな贅沢も叶えよう、それこそ世界中の富をこの国に集めてみるのも良い。

 どれもそなたの思いのままぞ。

 この国は、今、この時より、神に愛されし神国となる。


 上機嫌で笑う王に、勇者も朗らかに答えます。


「神より賜りし力は、先の神殿にて、神へお返ししてまいりました」


 謁見の間に並ぶ、すべての笑顔が固まった。


「もう、何の力もありません。神兵の役目を終えた、ただの人となりました。何のお役目もないただの人として、生きて、死んでいきたいのです。それが望む褒美です」





「助けるに決まっているでしょう。あなたは勇者で、わたくしは聖女なんですのよ」

 感謝の言葉が心をひっかく。裏返せば、助けられるとは思っていなかった、というのだろうか。

「だって、聖剣返したし。勇者じゃなくなったよ?」

「だから何だと言うのです。現勇者だろうと、元勇者だろうと、勇者は勇者です」

 のほほんとした顔が小憎たらしくも、微笑ましい。


 魔王討伐の間には、一切見せなかった穏やかな表情。


「あなた、少しは怒りなさいな。魔王を討伐した褒美が投獄だなんて、わたくしだったら、その愚かな性根、へし折って砕いて踏みにじりますわね」


 神殿はこちらの味方。あとは、旅の仲間たちも加勢してくれるはず。


「あの聖女、聖女様? 落ち着いて?」

「ご安心なさいな、武神(拳聖)も、疾風(斥候)も、自称魔神(魔術王)も、力を貸して下さいますわ」


 勇者を虐げたのだから、それ相応の代償を払ってもらわねば。


 生まれ故郷を失い、幸せの欠片が零れ落ちていってもなお、その細腕で周りを守り、助け続けた。

 泣く子を励まし、無気力に陥る大人を叱咤し、消えゆく命の灯を必死に繋ぎとめたのだ。


 聖剣(神の加護)は、そんな彼女の前に、いつの間にか顕れていた。


「いいこと? 現だろうと元だろうと、あなたは神に選ばれた勇者なのです。何者も、あなたを蔑ろにすることは許されません」


 だというのに、この勇者はへにゃりと困ったように笑うのだから。


「でも、もう、勇者じゃないから。もう、誰かを、誰も、助けなくていいの。誰かを助けたら、誰かを傷つけるだけで。もう誰も、助けたくなんて、ない」


 たどたどしく、まるで悪いことを口にしたかのように俯く少女は、本当に勇者(善良な人間)だ。

 誰かを助けなければならないと、無意識に思っている哀れな勇者だ。


「助けなくてよろしいですわ」

「聖女?」


 そもそも、助けなければならないから助けるのは、仕事であり、義務だ。

 神殿勤めでは正しくお勤め(修行)だ。


 勤め以外で助ける理由は、善性でしかない。

 勇者はその善性でもって、どれほどの献身を行ってきたのだろう。

 見返りを求めず、どれほどその身を捧げてきたのか。

 答えは出ている。

 

 神がその目を止めるまでに。


 神の愛がその身に降り注ぐまでに。


「あなたの行動を咎めるものはおりません。強制するものもおりません。あなたはもう、無理に助けなくてよいのです」


 聖剣を賜ったから。神の加護を得たから。勇者となったから。


 世界を救え。

 魔王を倒せ。


 そう望まれた、縋られた、強いられた。

 守ることに奔走していた娘に、討伐が押し付けられた。


「あなたは、あなたの望むままに生きなさい」


 神を求め、必死に祈り、修行を重ね、ようやく神の裳裾を拝し、お力をお借りすることができるようになった聖女(まがいもの)のわたくし。


 求めずとも、神が目に留め、愛で、手ずから力を与えられた勇者(ほんもの)の少女。


 聖剣を返したところで、愛し子の行く末を見守る神の眼差しは変わらない。

 

 愛し子を裏切ったあの者たちは、神から見放されるでしょう。

 勇者(愛し子)を大事にしていれば、この国は天候にも豊穣にも恵まれていたことでしょうに。

 

 本音を言えば、神に愛される勇者が羨ましい。

 それでも。


「わたくしの身命を賭して、あなたを守りましょう」


 


 



「さすが姉御、痺れるほどに男前だ。どんな漢も憧れずにはいられまい」

「おい武神、まてや武神、いろいろ間違ってないか。それに美少女二人が向こうで、俺たち男三人そろって空気かよ」

「いや、僕らはめくらましと防音の陣で隠れているだけで、空気は同じだぞ」

「ちげぇよ、誰も空気のことなんざ言ってねぇよ! 魔神は、人間の機微をちっとは学べや」

「残念ながら魔神は自称だから、人間の機微をわざわざ学ぶ必要はないな」

「そういうとこだよ!」

「そうは言うが、疾風よ。お主、今、あの二人の間に、割って入れるか? 俺は遠慮する」

「あんた頑丈だろ、武神、割って入って砕けてこいや」

「なら、僕が行こうかな」

「おお、魔神様のお出ましか! って、珍しいな?」

「勇者からただの人になったあの娘の、名前を呼んでやりたい、いや違うな、僕が呼びたいんだ。今までずっと、勇者、としか呼べなかったあの娘の名前を」

「そう言えば、そうだったな。んじゃ、行くか。一番手は自称魔神な!」






 勇者を守るのも、ただの人となったあなたを守るのも、一緒なのです。

 何者からも、あなた(真なる愛し子)を守ってみせましょう。

 それが、聖女(まがいもの)の矜持なのです。

 

とりあえず、書ききりました。一人称、三人称、取っ散らかりましたが、キニシナイ。書き終わる方が大事、と言い訳しておきます。どうかお目こぼしを。


ついでに。

どうしよう、さいご

人の娘の名を呼ぶ魔神 VS 神の愛し子(勇者)を守る聖女

の構図が浮かんでしまいました。


恋愛タグのつもりはなかったのですが。


ちなみに、聖女のイメージソングは、青天を穿つ です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語のさらに昔の御伽噺
「いいえ、そんなことはありません」
https://ncode.syosetu.com/n6038ii/

この物語の遥か未来の物語
「真実の愛の国(笑)」
https://ncode.syosetu.com/n1596if/

恋愛(異世界系) 「英雄の願い事」
https://ncode.syosetu.com/n4390id/

異世界転生系
「どこの誰とも知れないあなたへ」
https://ncode.syosetu.com/n0540id/
― 新着の感想 ―
[一言] 勇者が少女、という設定が素敵です。 とにかく善である彼女の前では、聖女すら紛い物。 そんなことは決してないはずなのに、それ程の善性に満ちた少女だからこそ勇者になり得たのでしょう。 ふたりを遠…
[良い点] 善良すぎる勇者をちゃんと助けてくれる人がいて、とてもあたたかい気持ちになりました。 魔神様の肩書じゃなくて名前で呼びたいっていうのがいいですね!(友情でも恋愛でもよい関係を築いてほしい
[良い点] くずくずしい王族達と対照的な、勇者一行。 女性二人の友情と絆が、尊いです。 おまけみたいな男性陣も、実際は、いざとなったら頼りがいがあるのだろうなぁ、と思わせる情け深さのようなものがあって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ