表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/197

79 クエスト依頼がありました




 壊滅したゴブリンの集落を遠目で眺めながら、リゼットは身体を震わせた。


「何があったのでしょうか……」


 圧倒的な暴力で徹底的に破壊されている。

 雪の下には更に凄惨な光景が広がっているだろう。


「……他の冒険者か、あるいはジャイアントキリングベアーの仕業だろうか」

「終わったことだろ。いいじゃねーか、次に行こうぜ」

「そうだな。ここに長居しても意味はない。行こう、リゼット」

「はい」


 探索を再開し、晴れた夜の雪原を歩く。

 キリングベアーの毛皮はあたたかく、寒風が吹き荒んでもまったく寒くない。


「うおっ? な、なんだヒューマンらか……キリングベアーが立って歩いているかと思ったぞ……」

「フォンキンさん」


 森の方から出てきたフォンキンと鉢合わせる。


「お久しぶりです。ご無事なようで何よりです」

「ふむ。そちらもまだ生きとって何よりだ。しかもダンジョンを荒らす害獣を始末してくれるとは!」


 キリングベアーの毛皮を見ながら興奮気味に言う。


「害獣って、キリングベアーのことですか?」

「うむ。キリングベアーはこのダンジョンで生まれたのではなく、外から入ってきたモンスターだ。美しいダンジョンの生態系を荒らす醜い外来種だ。まあそれを言うなら貴様らもだがな。わははは!」


 フォンキンは心底愉快そうに笑う。

 リゼットは何も言わなかった。


(それにしても、フォンキンさんは寒くないのでしょうか)


 この雪が降る階層ででも、フォンキンは上の階層で見た時と変わらない薄手のローブ姿だった。ノームは寒さに強いのだろうか。

 怪我もしている様子はない。上からここまで、モンスターとも遭遇せずに散歩しながら降りてきたような余裕振りだった。


「フォンキンさんも単独でここまで来られるなんて、お強いのですね」

「強さは関係ない。小生にはモンスターは寄ってこぬからな」

「まあ。どうしてですか?」

「知れたこと。そちらがヒューマンで、小生がノームだからだ。ヒューマンはモンスターのヘイトを買いやすいのだよ。そして人数。そちらは三人で小生は単独。モンスターは人数の多い方へ向かう」


 ノルンダンジョン内で出会ったドワーフの行商人カナツチは、ダンジョンの中を単独で行動していた。他の種族はヒューマンと比べてモンスターに襲われにくいようだ。


(ケヴィンさんとユドミラさんも二人パーティ……私たちが一番狙われやすいですね)


 だがそれは食料を得られやすいということにも繋がる。


「そうなのですね。でもどうしてヒューマンが狙われやすいのでしょう」

「やれやれ。女神の眷属は、己が主の性質も知らぬらしい」


 ため息混じりに冷笑される。


「――しかし。愚かで浅はかだが、ヒューマンの割にはなかなかやりおる」

「オイ。さっきからケンカ売ってんのかよ」


 ディーがずいっとフォンキンの前に出る。


「暴力に訴えるつもりかな? ますますもって浅はかなり」

「オレらがバカな害獣なら、お前はどーなんだって話だよ!」

「賢者の偉大さは凡人にはわからぬものよ」


 いまにもフォンキンに殴りかかろうとしているディーをレオンハルトが後ろから押さえる。


「離せレオン! こいつ一回殴ってやんなきゃ気が済まねえ!」

「気持ちはわかるが落ち着け」


 暴れるディーを軽々と抱えたままの格好で、レオンハルトはフォンキンを見据える。


「無知な凡人にご教授願いたい。どうしてヒューマンがモンスターに狙われるのか」

「簡単なことよ。古代種の血を引かぬのはヒューマンのみ。貴様らは女神が戯れに生み出した自身の模造品。モンスターにとっては己の世界を滅ぼした相手なのだよ」

「なるほど。モンスターとしては俺たちはさぞかし憎いだろう」

「ふん、驚きもせぬか。少しは物を知っているらしい。やはりヒューマンの割にはなかなかやりおる」


 その表情は不機嫌そうであり、だが声はどこか嬉しそうでもある。


「よし。貴様らにひとつ依頼してやろう」

「依頼ですか? もしかしてこのキリングベアーコートをご所望でしょうか?」

「それも興味はあるがいまは良い」

「あんのかよ……」


 青緑の瞳がぎらぎらと光る。


「幼体のラミアを見つけたらその死体を持ってきてほしいのだ」


 ――幼体のラミア。

 リゼットにはもちろん心当たりがあった。

 第一層で出会った、水を求めて苦しんでいた幼いラミアの姿を思い出す。


「そんなもんどうするんだ」

「モンスターの行く末など冒険者の知ったことではないだろう。それとも野蛮なヒューマンは食べてみたいと抜かすのか?」

「オイ。依頼者の態度じゃねーぞ」

「モンスターを殺すのがお前たちの仕事であろう。さあ、四の五の言わずに行ってこい」


 虫を追い払うような仕草をする。


「…………」


 レオンハルトもディーも黙ったままだったが、怒っているのが伝わってくる。


「報酬はどうなりますか?」

「報酬は食料だ。モンスターだけでは辛くなってきた頃合いだろう」


 肉は充分ある。まだ村でもらった野菜も残っている。掘ったヤマイモもある。だがどれも、いつまでもあるわけではない。


「足元見やがって……」

「このダンジョンはまだ若く、浅い。すぐに見つかるであろう」


 フォンキンはそう言うと、軽やかな足取りでリゼットたちとは別方向に歩いていく。


「ノームってのはいけ好かねぇやつらばかりだな!」


 フォンキンが消えてから、ディーが盛大に毒づいた。


「ノームの方は学者肌の方が多いと言われていますわね……でもきっと、フォンキンさんはあれでも悪気はないのです。ただ、自分が世界で一番偉いと思っているだけです」

「お前もなかなか辛辣だな……」


 リゼットは微笑んだ。


「ドワーフの方は職人気質な方が多いそうですが、ノームとドワーフとリリパットは起源が同じと言われていますのよ」

「ノームとドワーフはなんとなく似てるからともかく、リリパットもか?」

「はい。とはいえ私も、伝聞と書物の知識ばかりですが」


 爵位を継ぐ勉強の一環で、種族についてはよく学んだ。

 リゼットの国はヒューマンが中心だが、種族のことはデリケートな問題を含んでいる。無知による失礼をするわけにはいかない。


「俺の国にはドワーフもノームも多かった。もちろん種族で似ているところはあるが、本当に皆違う。種族でひとくくりにするのは視野が狭くなる。俺とディーとリゼットだって、全然違うだろう?」

「……わかったわかった。偏見はやめる」


 ふーっと息を吐き、肩を竦めて。


「あいつがいけ好かねえわ」

「同感だ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ