表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/197

59 脱出不可ダンジョン




 一歩進むことに、世界が変わっていく。

 少しずつ外の世界と別れ、ダンジョンの世界に出会っていく。

 十段の階段を降りた先――そこは石に湿った土が降り積もった洞窟だった。


「これは――」


 先行していたレオンハルトが息を飲む。


 階段の周辺には白い骨が落ちていた。ひとつやふたつではない。人骨に獣の骨が重なるように転がっている。

 最近のものもあれば、古いものもある。


 リゼットは灯の魔法を使って周囲を照らした。


「どうしてこんなに人骨があるのでしょう。しかも階段周りに……」

「逃げようとして逃げられなかった――」


 広い空間に声が響く。反響しながら奥の方へと続いていく。


「なんだか嫌な感じだな?」


 ディーが薄気味悪そうに言う。

 そのとき、洞窟の奥――光が届かない闇の中で灰色の目が光る。


「ゴブリンだ――!」


【先制行動】【火魔法(神級)】【敵味方識別】


「フレイムアロー!」


 念のために【敵味方識別】スキルをつけた火矢を暗闇に向けて飛ばす。


 魔法の火矢はこちらを襲おうと飛び出して来ていたゴブリンを一匹残さず貫き、その身体を燃やした。


「――やっぱりここのゴブリンが表に湧いてきていたのか。対策をした方がいいな」

「どんな対策ですか?」

「殲滅だ」


 一体も残さない殲滅。確かにそれしか方法はない。

 寒いのか、ディーがぶるっと震えた。


「数を減らすのは必要でしょうね。でないとまたあの村が犠牲になってしまいます」


 さすがにそれは見過ごせない。ゴブリンが群れられない数まで減らす必要がある。


「な、なあ、一度外に戻ろうぜ」

「早くないか」

「ちょっと外の空気吸って落ち着きたいんだよ」


 何故か怒ったように言って階段を上っていく。しかしその足が途中でぴたりと止まった。


「えっ? なんだこれ……なんか壁があるぞ」


 声を上ずらせながら何もないところを触る。

 何もないはずなのに、ディーの手は見えない壁に触れているかのような動きをしていた。


 リゼットもその場に行く。

 ――確かにそこには壁があった。見えない壁が。


「結界のようですわね」

「リゼットなんとかしてくれよ」


 ディーに言われて結界に触れる。結界の構造を見てみるが――


「……よくわかりません」

「お前、結界のエキスパートみたいな顔してて」

「自分で使うのはいいんです。なんとなくカチーンとさせてキーンとしてカッチリさせて」

「説明下手か!」

「リゼットは感覚型なんだろう」


 リゼットは口元を曲げながら更に結界を触る。


「簡単に解除できそうにないことだけはわかります。なんだかこれ、柔らかくてムニムニしていて、つかみどころがなくて」

「感触はいいから希望を言ってくれ頼む」


 懇願されてもできないものはできない。


「……この分だと、おそらく帰還アイテムや『身代わりの心臓』を使っても外には出られないだろう。きっとこの場所に戻されるだけだ」


 周りの白骨は、冒険者の成れの果てのようだった。迷い込んだらしき一般人の姿もある。狼らしき獣の骨も。もちろんゴブリンと思わしきものもある。


 レオンハルトが険しい顔をし、ダンジョンの奥を見つめた。


「クリアするまで出られないのかもしれない」

「だからいままで見つからなかったのでしょうか? 発見者が全員死んだから……」

「…………」


 ディーが黙り込む。

 ふらふらと階段を降り、そこに腰を掛ける。

 その表情は苦しげだった。ダンジョンを見つけたのが自分だということで責任を感じているのかもしれない。


「出られないのなら前に進むしかありません。行きましょう!」

「ああ。第一層のボスを倒せば帰還ゲートが現れるはずだ」

「お前ら神経太いな」

「嘆いていても始まりません!」


 立ち止まっていては何も始まらない。

 現状打破のためには前に進むしかない。


「でも私にも不安はあります。このダンジョンに食べられそうなモンスターがいるかどうか……」

「ぐわぁあ……頼む。普通のモンスター頼むっ」

「普通のモンスターってなんだ?」


 祈るディーにレオンハルトが不思議そうに問いかける。


「そりゃ鳥とか鹿とか羊とか。ゴブリンや人間っぽくないやつで気持ち悪くないやつ」

「やたら注文が多いな……大抵のモンスターは当てはまらないと思うが」

「絶望的なこと言わないでくれよぉ」

「大丈夫です! 毒を消して火を通せばなんでもなんとかなります!」

「それは希望でもなんでもねえよ!!」





 灯火の魔法を天井近くに浮かせて、ダンジョンの奥へと進む。

 じめじめと湿った空気は、ダンジョン特有のものなのか洞窟のそれと混ざっているのか判別がつかない。


 暗闇と静けさの中、出くわしたのは蛇だった。

 土色と黒が混ざるまだら模様の大きな蛇が通せんぼするように通路の真ん中で首をもたげていた。

 蛇はくるりとしなやかに動くと、自分の尻尾を咥えて大きな輪を作る。そして縦回転しながら高速でこちらに向かってきた。



【鑑定】車輪蛇。自分の尾を咥えて車輪のように回転して獲物を追う。牙に強い毒を持つ。



「動きが謎すぎます……!」


 名前通り車輪のような姿で高速で走ってくる。

 ぶつかりそうになる寸前でレオンハルトに腕を引かれてなんとか避ける。

 車輪蛇はそのままダンジョンの壁にぶつかって、跳ね飛んで、方向を修正しながらまたこちらを向いた。


 そしてまた高速回転。

 迫りくるそれをレオンハルトが盾で防ぐ。

 車輪蛇は盾に当たると勢いよく跳ね返り、壁や床や天井をリズミカルに跳ねて地面に着地し、また追いかけてくる。


「フリーズアロー!」


 リゼットは凍らせて動きを止めようとしたが、あまりにも速すぎて魔法が当たらない。氷の矢は地面に刺さってその周囲だけを凍らせ、弾けた。


(座標補正をしても当たらないなんて……!)


「車輪蛇は回転中はほぼ無敵状態だ。だが、輪の中をくぐれば追いかけてこなくなる」

「そんなっ?」

「よっしゃ!」


 レオンハルトが言うとディーがあっさりと輪の中に飛び込み、華麗にくぐり抜ける。


「む、無理です!」


 絶対に跳ね飛ばされる。きっとぶつかって地面に倒れて轢かれて、その隙に噛まれる。


「リゼット!」


 レオンハルトがリゼットを抱きかかえる。

 次の瞬間、リゼットは飛んだ。


(んんんん〜〜!)


 レオンハルトにひょいっと投げ飛ばされて、車輪蛇の輪の中を通過する。一瞬のことだった。

 壁にぶつかりかけたリゼットを受け止めたのはディーだった。支えられながらも勢いは殺せず、一緒に転がって倒れる。


「あ……ありがとうございます」

「……ま、こんぐらいはな」


 起き上がる間にレオンハルトもあっさりと蛇の輪を潜り抜け、車輪蛇は回転をやめ、ただの蛇に戻って地面をうごめく。

 レオンハルトの剣が車輪蛇の首をスパーンと落とした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ