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【12/17コミック発売】捨てられた聖女はダンジョンで覚醒しました〜真の聖女?いいえモンスター料理愛好家です!【書籍化】  作者: 朝月アサ
第四章 女神教会本山

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170 第二層~旧聖都





 階段を下りた先に広がっているのは、無人の街だった。

 灰色の空に覆われた、静寂に包まれた街。一瞬だけ外の聖都の光景が思い起こされる。聖都から人々がいなくなり、月日が流れれば、このような光景になるのではないだろうか。


 歪みかけた石畳、誰もおらず空洞となった木造の家。街の周囲を包む高い城壁。

 立ち並ぶ家の中には、焼け焦げた家もある。白いカビのようなもので覆われた家もある。


「ここは、大昔の聖都かもしれませんね。雰囲気が似ています」


 探索しながら呟く。

 少し離れた場所に、大神殿のような建物も見える。山頂ではなく平地に。


「教皇の話が真実だとしたら、霊峰が大きく隆起する度に聖都は作り直されていったんだろう。ここは、かつて大地に飲み込まれた聖都の姿かもしれない」


 先頭を歩くレオンハルトが言う。


「こんなに立派な街がと思うと、不思議な気持ちですね……」

「いったいどれだけ前の話なんだよ。想像もつかねぇよ」


 山が空に近づくたびに聖都が作り直されているとしたら、いったいいままで何度繰り返されてきたのだろう。

 栄光と荒廃、そして終焉が交差する場所に、寂寥とした風だけが吹いていた。


 リゼットはふと、地図を描いているディーの様子がいつもと違うことに気づく。


「ディー? どうしました?」

「いや、なーんかイヤな感じが……オレ、こういう場所苦手なんだよなぁ……死角が多くて、物陰からなんか出てきそうな場所」


 ふと、レオンハルトが足を止める。

 石畳の上に、すっかり古びた剣や槍が転がっていた。まるで激しい戦闘の跡のように。


「……武器がたくさん落ちていますね。何かあったのでしょうか」


 リゼットが言った瞬間、落ちていた剣や槍が、空から糸で吊るされたように浮かび上がる。



【鑑定】レリックラプター。遺された武器に憑依し、冒険者を襲うアンデッド。



 闇夜のような紫の煙を纏った武器たちは、一斉に刃先をこちらに向ける。

 そして、まるで生きているかのような躍動感で襲い掛かってきた。


【先制行動】【浄化魔法】


 浄化の光が武器たちを包み込む。浄化魔法は、アンデッドをも消滅させる力を持っている。

 光に触れた武器たちは、魂が抜けたかのように動きを止め、力を失って地面に落ちる。それらは石畳にぶつかった衝撃で、ほとんどが粉々に砕け散った。


「うーん……それなりに業物だったんだろうけれど、ボロボロだな」

「使えそうなのはねーな……」


 壊れた武器の山を見ていたレオンハルトが、何かに気づいたように顔を上げ、空を見る。


「夜が来そうだな。この階層には一日という概念があるみたいだ」


 厚い雲に覆われているからか、それとも最初から存在しないからか、太陽は見えない。

 ここが聖都の再現だとしたら、女神が訪れて以降の景色だ。時代的に太陽があってもおかしくないのだが、ダンジョンの法則がそれを許さないのかもしれない。


「綺麗な家もたくさんありますから、休むところには困らなさそうですね」

「そうだな。良さそうな家を探そう」


 街の探索を続けながら、休むのにちょうど良さそうな家を探す。

 地図を埋めるように歩いているうちに、リゼットの鼻腔を、甘い花の香りが掠める。


「なんだか、花の匂いがします」


 香りに導かれるように、リゼットの視線が路地へと向く。


「花があるのなら、果実もあるかもしれない」


 レオンハルトの期待のこもった声に背中を押され、家々が並ぶ路地に入る。狭い道を抜けると、視界が一気に開ける。


「まあ……」


 リゼットは感嘆の声を漏らした。

 そこは、白とピンクの可憐な花が咲き誇る、幻想的で美しい花畑が広がっていた。風にふわふわと揺れる姿は、物悲しい空気をかき消すような生命力と、甘い香りに溢れていた。


 花畑の中には白い石がいくつも置いてあった。それぞれほぼ同じ大きさで、誰かが丁寧に並べたかのようだった。


「どうやら墓地みたいだな。何が潜んでいるかわからないから、注意してくれ」


 レオンハルトの声に応えるように、花畑の中央にあったひときわ大きな石が動き出す。


「ゴーレム……墓を守る番人といったところか」

「――大変です! あのゴーレム、キノコが生えています!」


 ゴーレムの身体のあちこちに、白や灰色のキノコが生えている。


【水魔法(神級)】【魔力操作】


「水よ――凍れ!」


 ゴーレムの関節に水を発生させ、氷にして膨脹させて関節を破壊する。手足がバラバラになったゴーレムは、なすすべなく倒れた。


「さっそく採集しましょう」

「待て」


 キノコを採ろうとしたリゼットを、ディーの鋭い声が止める。


「キノコ――」

「待て待て待て。ダンジョンの、墓地の、ゴーレムに生えたキノコなんて食えるか!!」

「キノコに罪はありません。毒キノコでも無毒化できますし、これはきっと食用キノコです」

「そういう問題じゃねえ!」


 叫び声が花畑に響く。しかしリゼットもここで引くわけにはいかない。なんといってもキノコは栄養満点。不足がちな栄養素を補ってくれる。


「――二人とも、話はあとで。まだモンスターがいる」


 レオンハルトの警告の声を受け、視線の先を追う。


 墓地の奥からゆっくりとやってくる影があった。


 二本の足で、花の間を歩いてこちらへ近づいてくる。

 右手に持っているランタンは、頭蓋骨にウィル・オ・ウィスプを宿したものだった。青い光が黒い全身鎧を不気味に輝かせている。


(リビングメイルでしょうか)


 中身のない全身鎧のモンスター、それがリビングメイル。しかし頭蓋骨ランタンの持ち主は、リビングメイルとは一点大きな違いがあった。


 その鎧は、頭がなかった。

 兜がないのではない。首からは下は完璧な騎士であるのに、頭そのものがない。



【鑑定】デュラハン。首無しの騎乗者。死を告げる騎士。



 花が風が揺れて、土煙が立ち昇る。

 土埃が集まった場所に、馬が現れる。首無しの黒馬が。


 デュラハンが颯爽と首無しの馬に騎乗すると、左手に大鎌が現れた。命を刈り取る形をした大鎌を手にし、頭蓋骨のランタンを鞍に刺し。

 首のない騎馬が突進してきた。


【聖盾】


 突進してきたデュラハンを、レオンハルトが冷静に弾き返す。

 デュラハンはそのまま落馬して、よたよたと起き上がった。


「フレイムランス!」


 火焔の槍がデュラハンを貫く。

 しかしその寸前、デュラハンの身体が煙のようになり、火焔はそのまますり抜けた。


 リゼットが驚いている間に、デュラハンは立ち上がった首無し馬に乗り、逃げるように駆けていく。あっという間の出来事だった。


「逃げたか……なんとか早めに倒しておきたいな」

「どーやって? 煙になるんなら、武器も魔法も効きそうにないぜ。逃げた方がいいんじゃね?」

「……とりあえず、もう暗くなる。いまは休もう」

「はい」


 リゼットは返事をして、手早くゴーレムからキノコを採集した。






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