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129 第四層の砂落ちる迷宮





 ――第四層は、石造りの迷宮だった。


 上下左右の四方が石のブロックに囲まれ、そこを黄金色の砂がサラサラと流れていく。砂が発光しているかのように迷宮の中は明るい。


 砂は上から落ちてきて、下の穴へと流れていく。地面にもたっぷりと砂が積もっている。まるで砂漠の中に埋もれた迷宮のようだ。


「ようやく迷宮らしい迷宮だな」


 ディーが腕が鳴るとばかりにマッピングの用意をする。


「確かにここは住むのには向いていませんね」


 砂の流れる乾いた音を聞きながら思う。ここにはいまのところ砂と石しかない。

 ドワーフ兄弟が家づくりを断念したのも当然だ。

 そして出てくるのはアンデッドモンスターのゾンビばかりだった。リゼットの先制全体フレイムアローで燃やして一本道を進む。


「食べられそうなモンスターはいるでしょうか」


 パンと肉類はまだあるが、野菜類が寂しい。あとはミルクの実くらいだ。


「嫌な予感しかしねえ」

「……まあ、いざとなったら戻ればいい」


 いつでも引き返すことができると思えば気が楽になる。


「そうですね。迷宮らしい迷宮なら、ミミックがいるかもしれませんし。期待できます」


 ミミックはエビの味に似て美味だ。リゼットの好物だ。


 リゼットは安心して、そしてミミックとの邂逅に胸をときめかせながら、レオンハルトとディーの後ろを歩く。

 そして砂に覆われている通路を行こうとしたとき、急に砂が流れ出した。


 乾いた砂に足が取られ、身体が流される。水に押し流されるように。抜け出そうにも思ったより深く、そして力も強く、抗えない。


「流砂だ――!」

「ど、どうすれば」

「ギミックだから流されるしかねーよ! 砂飲むなよ!」


 人間はなんて無力なのだろうか。

 ダンジョンの仕掛け――ギミックの前では、為す術もなく流されるしかない。

 流されるだけ流されて、ぽいっと砂が積もっている部屋に投げ出される。

 やわらかい砂の山の上に落ちたのでダメージはないが、獲物を待ち構えていたかのようにフレイムアントの群れがいた。

 統制の取れた動きで一斉に火を吐く。


【聖盾】


 レオンハルトの魔力防壁が炎を防ぎ。


「フリーズストーム!」


 リゼットの氷雪の嵐がフレイムアントを凍らせて倒す。


「クッソ、ここどこだよ」


 ディーが描きかけの地図と迷宮コンパスを見ながら毒づく。

 体感でもかなり流された。


「この場合、地図はどう描くんですか?」

「一からやり直しみたいなもん。繋がる場所や目印とか、法則性を見つけるまではひたすら探索するしかねーよ」

「なるほど。一筋縄ではいかなさそうですね」


 気を取り直して。

 砂が流れ込む部屋を出て、探索を再開する。また砂に覆われた通路に差し掛かったとき、流砂が起きて再び流される。

 落ちた場所は先ほどと同じ部屋だった。またフレイムアントが集まってきていたので、また倒す。


「うっぜえ……」


 苛々しながらもマッピングするディー。


「こういうヤツは場所も方角もわからなくなるからクッソ面倒なんだよな。コンパスを新調しといてよかったぜ……」


 迷宮コンパスを見ながら方角を確認し、地図にメモを書き込んでいく。


「服の中まで砂だらけです……浄化しますね」


 髪も、肌も、服も、服の中まで細かい砂で汚れている。


 全員に浄化魔法をかけようとしたとき、部屋に積もり続けている砂山が突然大きく崩れる。そして、砂まみれのゾンビとレイス――幽霊の群れが中から飛び出してくる。


「きゃああ!」


 驚いて悲鳴を上げ、使おうとしていた【浄化魔法】をアンデッドモンスターたちにかけてしまう。

 その瞬間、アンデッドモンスターたちの身体が白くキラキラと光り出した。

 アンデッドたちの身体が薄くなり、存在が希薄になり、霧が晴れるように消える。


 静寂の中に、砂が落ちる音だけが響く。


「ゾンビが……消えた?」


 剣と盾を構えていたレオンハルトが驚きの声を上げる。


「【浄化魔法】がアンデッドに効くなんて……なんということでしょう……これ、すっごく楽ですよ!」

「いっつも火で簡単に燃やしてねーか? どう違うんだ?」

「全然違います! においもしないし、一瞬ですし、延焼する危険性もない! 魔力の消費も少なくて済みます! しかも身体も綺麗になります。いいことしかありません」


【浄化魔法】を全体にかけた影響で、リゼットの身体もすっかりきれいになっている。


「でも、どうして効くのでしょうか……?」

「なんか悩みだした」

「しつこい油汚れも古いシミも取れる万能で強力な魔法ですが、まさかアンデッドを浄化することができるなんて」


 リゼットは魔法を詳しく学んでいるわけではない。使う魔法は直感と勢いだ。理屈はほとんどわからない。


「レオンはどう思います?」

「えっ? 不浄な肉体が浄化されて清浄になるから……?」


 レオンハルトもわからないらしい。更に考え込む。


「アンデッドを動かしている不浄な魂も浄化されるのか、清浄になった肉体にはいられなくなるからか……」

「さっぱりするんなら、あいつらにとってもいいんじゃねーの」

「それは確かに。なんだか気持ちよさそうでした」


 お互い楽になれる。

 すなわちウィンウィンの関係。


「では探索を再開しましょう!」


 リゼットは進む。明るい気持ちでアンデッドモンスターを浄化しながら。






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― 新着の感想 ―
[良い点] アンデットの浄化としつこい油汚れを落とすのがおんなじ魔法って初めて見た気がする。
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