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117 ペガサスステーキと霧のトロル





「馬は、あばら骨の辺りの肉が特においしいんですよね」


 馬肉を食べるのは久しぶりだ。リゼットは上機嫌でペガサスを捌いていく。どっしりとした肉を取り、各種素材を取っていく。


「本当に骨が脆いな……スカスカだ」


 解体中のレオンハルトが興味深そうに骨を見ている。


「そこは鳥と同じですね。いいスープが取れそうです」

「オイ、羽根むしり終わったぞ」

「ありがとうございます」


 麻袋に詰まった羽根をディーから受け取る。

 ペガサスは翼が大きいため、大量の羽根が取れた。特に風切り羽根の美しさといったら他と比ぶべくもない。白く透き通っていて、シルクのようであり水晶のようだ。


 解体が終わると、上質な肉がたっぷりと手に入った。


「これだけありゃ、当分は変なのを食わなくて済むな」

「ええ。まずはステーキにしましょう」


 あばら骨近くの一番おいしいと思う部分の肉に、塩と香辛料を振って、熱いフライパンで焼いていく。強火で表面を焦がし、肉汁が溢れ出ないようにして、魔法の炎の勢いを弱めて中に熱を通す。


「できました! ペガサスのステーキです! はい、どうぞ」

「うまい……濃厚な甘みがあるのに、さっぱりとしていて、後に残らない」

「くぅぅ~……やっぱ肉はいいな! どんどん焼いていこうぜ!」


 二人はよっぽど気に入ったらしく、自分たちでどんどん焼いていく。


 リゼットはステーキを堪能しながら、嬉しい気持ちでその光景を見ていた。なんて平和で、なんて幸せな時間なのだろう。

 しばらく食事を楽しんでいると、ふとレオンハルトの表情が変わる。


「誰かが近づいてくる。片づけをした方がいい」


 静かな声で呟き、一方向を警戒する。肉や素材をアイテム鞄に詰め込んで、道具も片づける。少し経ってからやってきたのは、冒険者の一団だった。肉の焼かれる匂いに引き付けられてきたらしい四人パーティは、リゼットを見て表情を変えた。


「お前……」

「あら、あなた方は……」


 すぐに思い出した。第一層でイレーネと共にいるときに出会った冒険者たちだ。


(このダンジョンは、他の冒険者の方々とよく会いますね)


 レオンハルトはこのダンジョンはあまり広くないと言っていたが、リゼットも実感してきた。

 それにしてもこの四人。前回会った時より、ぼろっとくたびれている。服装も、身体も。

 だが気迫だけは前より増していた。目が、表情が、追い詰められた手負いの獣のようだった。

 いつもなら食事に誘うリゼットだが、普通ではない――殺伐とした様子に警戒する。


「テメエが邪魔しなければ――……」


 怨嗟の声と共に、殺意のこもった視線をぶつけられる。

 レオンハルトがリゼットの前に出る。庇うように。


「ガキども、こっちはその女に借りがあるんだ。その肉と一緒に置いていってもらおうか」

「私、何かお貸ししましたでしょうか。いただいたモンスター灰はお返ししましたし」


 記憶を掘り起こしてみるが、やはり思いつかない。


「やっぱり、テメエの仕業か。あれのせいで――」

「――それよりも。私の誤解なら申し訳ないのですが、あなた方こそ他の方々から荷物を奪っていませんでしたか?」


 第一層で遭った時は、不自然なほどにたくさんの荷物を抱えていた。血痕もついていた荷物を。いまは武器以外に何も持っていないが。


「だからどうした。奪われるやつが悪いんだろうが」

「ハッ、なんだお前ら。ダンジョンに巻き込まれた一般人から金やアイテム奪ってたのか? 冒険者の風上にも置けねえな」


 あっさりと罪を認めた男たちを、ディーが失笑する。


「略奪行為している割に身なりが貧相なのは、地上で袋叩きにされかかってダンジョンに逃げ込んできたってところか? 悪いことはできねーな!」

「うるせえ!」


 何かを投げようとした手に、ディーの投げナイフが刺さる。袋はそのまま地面に落ち、モンスター灰を地面に撒き散らした。


 それとほぼ同時に、レオンハルトが剣を抜く。流れるように四人全員を倒す。

 一瞬の出来事だった。


 地に伏した冒険者たちが、悶絶しながら呻き声を上げている。死んではいないが全員骨が折れているようだった。


「どーするこいつら」

「地上に突き出すのも手間だ。運が良ければ生き延びるだろう」


 冒険者のルールは時にドライだ。リゼットも異論はない。たとえ死んで、たとえ復活アイテムを持っていなかったとしても、死体回収屋か親切な回復術士が蘇生するかもしれないし、されないかもしれない。


「ッ! ――逃げろ!」


 レオンハルトが叫んだ瞬間だった。異様に大きな気配が、突然空から降ってきたのは。

 森を破壊し、木々を薙ぎ倒し、すべてを引き裂くような音を立てて、緑色の巨人がすぐ近くに降り立つ。泉が踏み潰され、大地が大きく揺れた。



【鑑定】トロル。巨人の末裔。性質は邪悪で、物陰に潜んで鉤爪で人を襲い、肉を引き裂く。



 トロルは大きな双眸を光らせ、腕を払う。周囲の大木が丸ごと薙ぎ倒される気配を、リゼットは逃げながら背中で感じた。


「でかすぎんだろ!」


 ディーが叫ぶ。トロルの身体はそれこそ山のように大きい。その身体を這わせてリゼットたちを追いかけてくる。


「どうしてこちら側にいるんでしょう」

「幅が狭くなっているところを跳んだんだ。なんて跳躍力だ……!」


 この巨体と長い手足ならば、助走をつければ、リゼットがストーンピラーで幅を狭めた大地の裂け目も軽々と飛び越えられるだろう。


 なんというポテンシャル。


 逃げる。とにかく逃げる。


 魔法を使うには振り返って照準を合わせて発動させる必要があるが、相手は身体が大きい分、早い。一連の動作の間に追いつかれて跳ね飛ばされる。もしくは薙ぎ払われる。

 そしてきっと食べられる。ダンジョンの中は弱肉強食。


 それにしても足場が悪い。雨が降り続いたせいでぬかるんでいて、滑りかける。

 よろけた瞬間、レオンハルトに腕を引かれて進路がずれる。それまでリゼットがいた場所に、トロルの鉤爪が鋭く刺さる。


 トロルの咆哮が背中にぶつかる。

 ――このままではすぐに追いつかれる。

 目の前には、大地の裂け目。落ちれば助からないだろう、深い渓谷。


「飛び込みましょう!」

「本気かよ」

「本気です! なんとか、します!」


 一斉に崖に飛び込む。


【土魔法(中級)】


「ストーンピラー!」


 崖のすぐ下に足場を作成し、その上に全員落ちる。

 リゼットたちを追いかけてきていたトロルは、勢いを止めずに崖の下へ落ちていく。

 空中で逆さにひっくり返ったトロルと、目が合う。リゼットはユニコーンの角杖を構え。


【火魔法(神級)】【魔法座標補正】


「ブレイズバースト!」


 トロルの頭を最大火力で爆発させた。

 頭が吹き飛び、爆発の衝撃で身体は向こう岸の壁にまで飛び、ぶつかる。反動で何かがリゼットの足元に飛んできて、ころころと転がる。


 壁にぶつかったトロルの巨体が、崖下に落ちていく。深い深い渓谷へと。

 リゼットが足元を見ると、そこには琥珀色の魔石が落ちていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] この小説の物語の内容は面白い面白いです [気になる点] ダンジョン、浅いね、魔法再生がちょっと簡単に使えるね [一言] 聖女様は食いしん坊だね、 ユニコーンとペガサスガかわいそう、食べられ…
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