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104 才能がないと言われました?




「――ふむ。リゼットさん、残念ながらあなたには冒険者の才能がありませんね」


 黄金都市ランドールの冒険者ギルドにて、受付のドワーフにそう告げられ、リゼットは愕然とした。

 夕刻を過ぎ、暗くなったギルド内はオレンジ色がかったランプの光で照らされて、年季の入ったカウンターを飴色に映し出されていた。

 そこに両手を置いたまま、リゼットは肩を落とした。


「そ、そんな……」


 これまで二度、ダンジョンを踏破してきた。それなのに冒険者の才能がないと言われるとは想像もしていなかった。そしてリゼットは自分を恥じる。驕っていた自分を。


「鑑定眼と鑑定システムでニ度確認しましたが間違いありません」


 ギルド職員は極めて事務的に、淡々と言う。


「その目は節穴なのか?」

「ビー玉詰めとけ」


 リゼットの背後にいる仲間二人が呆れたように言う。

 防御主体の騎士のレオンハルトと、鍵開けと罠解除が得意なシーフのディー――どちらも共に冒険してきた大切な仲間だ。


「後ろの方々うるさいですよ。圧をかけられても結果は変わりません。何より彼女のためになりません」


 トントンと手元の書類を整理しながら言い、カウンター越しにリゼットの顔を見る。


「リゼットさん、あなたを当ダンジョンへ入れるわけにはいきません。アルケミスト・ラビリンスは娯楽性の高いダンジョンですが、まったく危険がないというわけではありません。冒険者適正ゼロの方を入れるわけにはいかないのです」

「適正ゼロ……そうですか……それが私のいまの実力なのですね」


 リゼットは現実を受け入れた。ここで食い下がっても仕方がない。受付職員は自分の仕事をこなしているだけである。プロとして、真摯に。


「後ろのお二人はこのまま冒険者登録をしますので――」

「いや、必要ない。行こう」


 レオンハルトはあっさり踵を返して冒険者ギルドから出ていこうとする。

 リゼットは慌てた。


「そんな、せっかくここまで来たのに。――そうだ! 私は外で待っていますので、おふたりだけでも楽しんでこられたらどうですか? メンバーの斡旋もしてくれるようですし」

「いやだ」


 レオンハルトにシンプルに断られる。


「君と離れるなんて考えられない」

「だなぁ。オレもレオンに賛成。オレは遊びにきただけでダンジョンはあんまり興味ねーし、作り物のダンジョンだろ? 宝もタカが知れてるってもんだ」


 ディーが顔を上げ、冒険者ギルドの壁に貼られた踏破景品の一覧を見る。

 もっとも目立っていたのは金杯だった。黄金でできた杯。これで酒を呑めば酔いしれられることは間違いない財宝だが、ディーの物欲は刺激できていないらしい。


「――でも、これから何があるかわかりませんし。私が登録できない分、おふたりには登録しておいてほしいです。しばらくはこの街でバカンスするのですから!」


 レオンハルトとディーは顔を見合わせる。


「……君がそこまで言うのなら、登録だけでもしておこう」

「めんどくせー」

「では私は、外で待っていますので」

「絶対にうろうろすんなよ!」

「もちろんです」

「信用ならねぇ……レオン、さっさと済ませようぜ」


 二人がカウンターで冒険者登録をしている間に、リゼットは他の冒険者の邪魔にならないように外に出た。


 夜になってもこの街は煌々と明るい。冒険者ギルドのすぐ外には、この街で一番大きな広場が見える。中央ではランドールの市長であるドワーフの女性の威厳のある銅像がそびえ立ち、台座から白い光に照らされていた。


 その周囲だけではなく、街中で夜光虫よりも明るい光がいたるところで輝いていて眩しかった。赤っぽい光に、緑っぽい光、青い光が、踊っている。


 光の中を行き交う人々はみんな上機嫌に笑っていて、この街に酔いしれている。ヒューマンも、ドワーフも、リリパットも。ハーフドワーフやハーフノームの姿も見える。


(不思議な街だわ)


 どこか刹那的で、幻想的。瞬く光に酔わされて、地に足がついていないような感覚に陥る。


 最も特徴的なのは、建物の高いところに設置されている動く絵画だ。大きな絵の中で人の姿や文字、光が躍っている。夢の中を映しているかのように。


 夢のような享楽都市にぼんやりと見惚れていると、冒険者ギルドに近づいてくる五人パーティが目に入った。


「――イレーネ、あなたはここでパーティから抜けてもらうわ」


 女性だけのパーティのリーダーは、燃えるような赤髪の魔術士に向けてそう告げた。

 他のメンバーも非難するような目で赤髪の魔術士を見つめていた。

 イレーネと呼ばれた魔術士は冷笑し、ふわりとウェーブががった長い髪を掻き上げる。


「失礼……もう一度言ってくださらない? 有能な魔術士であるわたくしを解雇など、正気を疑いますわ。もっと他にパーティの足を引っ張っている方がいらっしゃるのではなくて?」

「魔術レベルが多少高かろうと、もうあなたは信用できない。そんな人を仲間にはできないの。これは他のメンバー全員同じ意見よ」


 魔術士はそれ以上は何も言わなかった。だが杖を握る手が震えていた。唇も。


「それじゃ、さようなら。二度と関わらないで。あとこれは忠告。その女王様のような高慢さ、少しは直した方がいいわよ」


 言って、四人は冒険者ギルドへの階段を上っていく。リゼットはそっと移動し道を開けた。


「――あなた方みたいな三流、こちらから願い下げよ!」


 魔術士の目の前でギルドの扉が閉められる。

 魔術士は赤い瞳で強くリゼットを睨んだ。


「何を見ているのよ」

「あの、どこかでお会いしたことはありませんか?」

「……下手な勧誘ね。あなたが男なら吹き飛ばしているところよ」


 赤髪の魔術士――イレーネは不機嫌さを隠さずに言いながら、すたすたと冒険者ギルドの前から去っていく。


(本当にどこかで見たことがあるような気がするんですが……)


 一人街中に消えていくイレーネの背中を眺めながら考える。だがリゼットには思い出せなかった。


(いろんなパーティがあるのですね……)


 冒険者の数だけ、パーティの数だけ、冒険もトラブルもある。

 仲間は大切にしなければと考えていると、冒険者ギルドの中からレオンハルトとディーが出てきた。

 そしてその後ろから、冒険者の女性が二人を追いかけて飛び出してくる。それは先ほど魔術師を追放し、ギルド内に入っていったばかりの四人だった。


「お願いです! わたしたちとパーティを組んでください!」


 レオンハルトを取り囲んで懇願する。すごい熱意だった。


 リゼットが見たところ、こちらの女性パーティは前衛が弱い。戦士らしきリーダーと、弓士、回復術士、魔術士といった四人パーティだ。

 防御主体の前衛であるレオンハルトとシーフのディーが入れば安定したパーティになるので必死なのだろう。


「……すまないが、連れがいる」


 レオンハルトは困ったように言ってリゼットを見る。


 女性パーティは四人。レオンハルトとディーと、そしてリゼットが入れば七人だ。パーティの上限は六人と決まっている。ルール違反をする冒険者たちもいるが、人数が増えればモンスターに襲われやすくなるというデメリットもある。


「でもその人、受付の人も言っていたように才能がないんでしょう? 才能がない人と付き合うより、わたしたちとダンジョンの深層に行きましょうよ――ひっ……」


 レオンハルトの表情を見た女性たちの顔が引きつる。


「おいレオン、落ち着け」

「仲間を侮辱されて落ち着いていられるわけがない」


 ディーが仲裁に入るが、レオンハルトは不機嫌さを収めない。


「ご、ごめんなさいーっ!」


 半泣きになりながら逃げていく。一体どんな表情を見せていたのか、リゼットからは見えなかった。


「おふたりとも大人気ですね」

「本当にちゃんと見てたか? 大人気なのはこいつだけ。オレはオマケ」

「そんなことはないと思いますけど」

「いいから行こう。もうここに用はない」


 そしてリゼットたちは冒険者ギルドを後にした。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダンジョン踏破もして適正ゼロとか、明らかにおかしい結果なのに理由も聞かずに「そうなんですね」って納得してる流れが不自然すぎる。 しかも理由も聞かないし受付の人も「鑑定結果です」とか言わ…
[一言] 適性が規格外すぎて測れないだけじゃないかな
[一言] 受付が行う鑑定の正確性は誰が保証してるのやら システムが正確なら運用する人間の保証でも良いけど
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