ウィッチプログラム rev.8
毬井健
マネージャーのマリー・ペニーと送迎の車の後部座席に乗っている
不機嫌な健。
「聞いておきたいんだけど...」
「昨日のこと?」
「それはレポートが上がってからゆっくり聞くわ。」
「それより、インタビューやTVの出演中にぼっとすることがある。」
マリーの言葉を遮る健。
「ちゃんとしてくれないと。」
「何か悩みでもあ...」
「あるさっ!」
健の訴えを嘲るような表情で聞くマリー。
「あんた達、真剣に晶さんを探してくれてるのか?」
「いや、むしろ僕から遠ざけてるんじゃないか?」
マリーの答えに反論する健。
「何を根拠にそんな...」
「おかしいじゃないかっ!?」
「僕の歌がYPにアップされ始めて半年たつのに晶さんから音沙汰もない。」
問い詰める健に嘲笑を浮かべながら横を向くマリー。
「あんた達が小細工をしてるとしか思えないんだよっ!」
「...」
迷惑顔のマリーに逆上する健。
「そもそも、あなたに原因があるんじゃないの?」
「な、なんだってっ!?」
呆れ顔で健を諭すマリー。
「彼女を探してくれっていっても、あなたの想い人だったとしか記憶ない
じゃないの?」
狼狽える健。
「あ、そ、それは...」
健はウィッチとしての自覚はある。
それはウィッチへ導いてくれた人の記憶。そして、愛してくれた人の記憶。
だが、彼女と過ごした日々の記憶はない。
プロフィールはあるが、履歴がない。
だが、それが彼女への想いを激しく募らせる。
晶さんは僕の事、どう想ってたんだ?
マリーの言葉に現実に引き戻される健。
「どんなアイデンティティ、容姿すら朧げにしか思い出せていないんじゃ...」
「私たちにできることも限られてくるんじゃないかしら?」
「はっ!?」
うすら笑いを浮かべるマリー。
「そもそも彼女が名乗り出ないって言うのは...」
怒りを堪えている健に気付くマリー。
「うっ!?」
「それ以上...」
ウィッチを炸裂させる健二に驚くマリー。
「それ以上言うなっ!」
「っ!?」
ウィッチの影響を受け、引き攣る健を嘲るマリー。
「あ、ぐっ!?」
「ふふ。」
自分のウィッチを受けてしまい、引き攣っている健。
「か、かはっ!?」
「言ったでしょ?あなたにすべて返されてしまうのよ。」
「『セルフパニッシュ』でね。」
涙目の健の髪を掻き上げるマリー。
「彼女を取り戻したいのなら、もっと、もっとウィッチに磨きをかけて...」
マリーを睨みつける健。
「もっと、もっと愛されるようになりなさい。」
「く、くっ!?」
こぐま。
慎一の問いに答える高山。
「大体、『毬井健』ってやつは実在すんのかよ?」
「します。」
「本名は『入間健』です。」
空中で入間を書く直美と青田の問いに答える高山。
「いるまじゃなくて?」
「はい。ちなみに埼玉県出身ではありません。」
「またアナグラムか。」
「台東区だそうです。」
話を続ける高山。
「健二君と同い年で3年前に父親の都合で渡米しています。」
「しかし、高校に入学した2年前に両親とともに交通事故に遭い、二人を無くして
います。」
高山の話に沈黙する一同。
「その後1年余り、事故の精神的なダメージを回復するためにリハビリしていた
ようです。」
高山に問いかける青田。
「1年前、彼が曲をYPにアップし始めたころ、日本の父方の祖父母に引き取られ...」
「今に至っています。」
「過去の写真とか、ないんですか?」
青田の要望に応え、健の写真を手渡す高山。
「本人には提供を依頼してませんが、祖父母にお願いしてみました。」
健の幼少期から中学の頃の写真に興奮する直美。
「きゃ、きゃわいいっ!」
「高校以降は祖父母たちとの接触はなかったらしく、写真は残ってません。」
写真を手に取り困惑気味の健四郎。
「健四郎さん、健二君とどうですか?」
「健二との仲は再婚してからだからな。ガキの頃の写真も見せてもらって
ないしな。」
直美の申しでを却下する武田。
「こ、この写真貰ってもいいすか?」
「ダメだよ。」
青田と高山の会話をよそに、健の写真を写メしている直美。
「ふん、怪しいことだらけだな。」
「アメリカで入れ替わったのか?」
「確証はつかめてません。」
テレビのリモコンを手に取るスン。
「あ、そうだ。」
「健二兄ぃ、今日、テレビでてんだよね。」
店の液晶テレビに映し出されるピアノをつま弾く健を見つめる一同。
「...」
カメラ目線の健。
あなたのなかでわたし...
俯く直美を気に掛ける武田。
「どうした、直美ちゃん?」
生きていけるかしら?
俯きながら大粒の涙を流す直美に狼狽える武田。
「な、直美ちゃん...」
「会いたい...」
嘆く直美を見守る一同。
「会って、ちゃんと話したい...」
伊万里健二?