ウィッチプログラム rev.7
健君は...
準備中の札がかかる呉飯店。
店内では昼の繁忙期が終わり、テーブル席でバイトのショーン、スンチュンが
賄い飯を食べている。
カウンター席で毬井健のデビューCDを自慢げに見せる直美。
「買っちゃいましたっ!」
「『Mary Days』、てへ。」
グラスを手に怒鳴りつける慎一に怯える直美。
「なに浮かれとんじゃ、ワリャっ!」
「ひっ!?」
激怒する慎一に狼狽える直美。
「な、なんで、そうまで言われなきゃいけないんですかっ!?」
直美をフォローする青田。
「ああ、発売日か。」
「俺も帰りに買って帰るか。」
慎一の理論に呆れている直美と青田。
「いいか、アイツのCD買うってことは印税が入るんだぜ。」
「そんな敵に塩を送るような真似して、どうすんだっ!」
直美のジェネレーションギャップな答えに苛立つ慎一。
「塩?塩って何ですか?」
「円は送るだろうと思いますけど?」
「くのっ!?」
青田のフォローに頷く直美。
「ミリオンは行くだろうな、日本だけで。」
「直美ちゃんや俺が買わなくってもな。」
「そうですよ、買っても買わなくっても関係ないですよ。」
反論する直美にマイクロSDカードを差し出す慎一。
「じゃあ、慎一さんは買わないんですね?」
「貸せ、いや、こいつにコピれ。」
慎一を無視して盛り上がる直美と青田。
賄い飯を食べながら、その様子を見つめているショーンとスン。
「ネットで全然オーダーできなくて。」
「CDショップ3軒回ったんですけど、売り切れで...」
「たまたま寄った近所のコンビニにあったんですよ。」
「へえ。」
「しかも特装版ですよ、健君のフィギュア付きっ!」
苦笑する青野。
「知り合いの店に取り置きしといてもらうか?」
厨房でスンの父親、呉さんに教わっている健四郎に矛先を向ける慎一。
「あんたも人の店にきてまで、なに料理してんだよっ!」
健四郎の素の対応にキレる慎一。
「いや、呉さんにな、うまく餃子をまくにはどうすっか、教えてもらってんだよ。」
「あんた、和食だろがよっ!?」
何気にドヤ顔の健四郎にさらに切れる慎一。
「フレンチ、和食、中華とくりゃ、最強だろ?」
「知らねぇよっ!」
咳払いする高山。
「んんっ。」
たまりかねて声をかける武田。
「あのよ、もういいかい、その小芝居?」
武田にも切れる慎一。
「こ、小芝居ぃっ!?」
「あのよ、俺たちも暇じゃないんだよ。」
「話聞けないんなら帰るぞ。」
詫びる直美をフォローする高山と武田。
「すみません、あたしが関係ない話はじめちゃって。」
「いえ、そんな話題もためになりますよ。」
「そう、直美ちゃんは悪くない。」
さらに切れる慎一に釘をさす二人。
「なにぃっ!?」
「じゃあ、俺がじゃまだってのかっ!?」
「そうです。」
「そうだろがっ!」
高山と武田は警視庁組織犯罪対策部所属の警視正と警部補。
爆破テロ事件以前からSeeleaの不穏な動きを察知し、健二たちに接触していた。
そっぽ向く慎一をよそ目に話を進める高山。
「お二人は、いや、ショーン君とスン君の4人は毬井健と接触したわけですが...」
「...」
高山の状況説明に慌てる慎一。
「ドームへの不法侵入をしてまでね。」
「いやいや、高山さん?」
「俺たちはれっきとしたバイトとしてね?」
高山の言葉に明後日の方向に目を背ける青田を、不思議そうに見つめるショーンとスン。
「バイト?」
「確かに4人の名前は当日のスタッフとして登録されてましたが...」
「データの改竄がないか、サイバー対策室に調べさせてます。」
「...」
高山の言葉に顔を見合わせるショーンとスン。
「しかも主催者が募ったバイトの年齢制限は18歳以上でした。」
「どうして高校生のショーン君と中学生のスンチュン君が入れたんでしょうか?」
俯く慎一、青田、直美。
「まあ、民事不介入...」
「主催者側も公演が盛り上がったという事で訴えはしないそうですが...」
「...」
3人に念を押す高山。
「ただし。」
「危うく刃傷沙汰になりかねない状況だったんですよ?」
「これだけはようく胆に銘じておいてください。」
慎一の反論をねじ伏せる高山。
「だがよ、俺たちがいなかったら、健二は攫われてたかもしんねぇんだぜ?」
「そのほうが我々は大手を振って動けたんですよ。」
高山の返答に憤る慎一。
「なっ!?」
「誘拐事件としてね。」
「俺たちが余計なことしたって言うんか?」
慎一を睨みつける高山。
「結果的にはね。」
「我々も3年前の事件をほったらかしにしていたわけではない。」
高山を見つめる一同。
「毬井健の周辺にはすでに独自に捜査を進めています。」
「彼が誘拐されたのなら、それはどんな組織でどんなルートかまでは...」
「掴んでいるつもりですよ。」
一同に問いかける高山。
「ドームで襲ってきた少年たちに心当たりはありますか?」
ショーンと目を合わせながら高山の問いに答える直美。
「ドームじゃ目隠ししてたから本当にそうなのかは分からないんですが...」
直美に聞き返す高山。
「多分、その子に学食で声を掛けられました。」
「ほう?」
「あ、晶さん?の従弟って言ってました。」
「松晶人、ですか?」
驚く直美の問いに答える高山。
「ええ、知ってるんですか?」
「捜査は進めていますからね。」
直美に晶人との会話の内容を問う高山。
「どんな会話をしました?」
「健二君やあたしのこと知ってて...」
「仲間になれって言われました。」
直美の言葉に納得する高山。
「意味がよくわからないんですが、健二君と世界を手に入れないかって。」
「ふむ。」
青田と慎一に語り掛ける高山。
「SeeleaJAPANの発想を実現しようとする連中が動いているようですね。」
「...」
高山の問いを受けながす慎一。
「慎一さんは晶人君のことはご存知でしたか?」
「さあね、さすがに親族関係まではわかんねぇな。」
唐突に切り出す高山に驚く一同。
「改めて皆さんにお聞きしますが、『毬井健』を、健二君と思いますか?」
「っ!?」
高山の問いに苦笑いの健四郎をフォローする慎一。
「健四郎さんはいかがです?」
「ああ、おやっさんは健二と思いたくないみたいだぜ。」
「何故です?」
慎一の話を聞き、謝罪する高山に答える健四郎。
「また、いなくなんのが嫌らしい。」
「ああ、済みません。」
「気がまわりませんでした。」
「いいってよ。」
高山の問いに慌てる直美。
「直美さんはどうです?」
「あ、あたしですか?」
「はい。」
直美の回答をくさす慎一。
「あたしは、健二君と思いたいです。」
「たとえ、本当に健二君じゃなかったとしても、です。」
「けっ!」
直美の答えに苦笑する高山。
「健二くんが生まれ変わったんだと、信じたいです。」
「ふふ、あなたらしいですね。」
ハテナな直美をよそに慎一に質問する高山。
「?」
「さて、一番付き合いが長い慎一さんはどうですか?」
「一番長いって、3年前からとあいつが赤ん坊の頃しか憶えないぜ?」
慎一の返答に疑問を持つ直美。
赤ん坊の頃って?
慎一の答えに微笑む高山。
「あいつはね、ピアノもギターも弾けなかったんだぜ?」
「ふふ。」
慎一の話を聞き、笑っているショーンとスン。
「カラオケも何度か付き合ったけど、あんなにうまくなかった。」
「あのアレサ何とかも認めてるんだろ?」
慎一に同意する青田。
「仕込みかもしんねぇけど、あの女以外にセレブも大勢ファンなんだろ?」
「ウィッチ使ってるの差し引いても一流ってわけだ。」
「うん、歌も曲もレベルが高いな。」
恨めしそうに慎一を見つめている直美。
「少なくとも俺の知ってる健二じゃあねぇ。」
「どこかいじられてるんなら別だがな?」
高山の問いに呆れ顔の慎一。
「3年の間に眠っていた才能が開花したとかは?」
「いじられたよりは確率低いな、それは。」
健君の想いは、どこ?




