ウィッチプログラム rev.11
ウィッチなの、あたし。
タヒチ。
浅瀬にうつぶせに浮いているマラマ(慎一)4歳。
「...」
マラマを見つけるヒナノ。
「な!?何やってんのマラマ?」
ひっくり返るマラマに驚くヒナノ。
「プヒっ!」
「ひゃっ!?」
立ち上がるマラマに寄り添うヒナノ。
「もう、何やってんのよ?」
「うひひ...」
二人の前に立つハリソン夫妻。
「っ?」
「ふう、君がマラマ君、だね?」
二人を睨み上げるヒナノに寄り添うマラマ。
「っ!」
「...」
ヒナノが料理を作るのを手伝っているマラマ。
村の長老に彼の話を聞いているジョージ・ハリソン博士。
「マラマは生まれついて口がきけない。」
「聾唖ってやつですか。」
鳥や犬たちと遊ぶマラマ。
「たたし、人だけではなく動物たちとも普通に会話している。」
「不思議な子です。」
ジョージの問いに答えるオリヴィア・ハリソン博士。
「僕たちが思うところの、ウィッチなんだろうか?」
「そう思うわ。」
「しきりにあたしに信号を送ってるもの。」
狼狽えるジョージを嘲笑するオリヴィア。
「ええ、僕は感じないぞ?」
「貴方には興味ないんじゃないかしら?」
ハリソン夫妻と食卓を囲み、オリヴィアをしきりに気にしているマラマ。
「ふふ。」
オリヴィアを見つめているマラマに不満げなヒナノ。
「私たちの研究している生体電気信号は、人類の進歩や治療に役立ちます。」
「...」
ジョージの話を聞く長老。
「彼は非常に強い生体電気信号で他者とコミュニケーションを取っている。」
ジョージの申し出に答える長老。
「彼を引き取り、手許に置いて研究したいのですが...」
「養子にという事ですか?」
「そうです。」
「それはあれ次第ですな。」
ジョージの疑問に答える長老。
「え、どういう事です?」
「あれに親はおりません。」
「ある日、森の中に捨て置かれたていたそうです。」
話を続ける長老。
「それを引き取って皆で育てております。」
長老の話を聞き、沈黙するジョージ。
「あなた達と新しい暮らしを望むのなら...」
「それもあれの運命でしょう。」
「...」
ヒナノと抱き合い別れを惜しむマラマ。
そんな昔の記憶はないが、俺はパパとママに引き取られた。
村長やヒナノ達に見送られながら、バスに乗る3人。
思えばそれがウィッチとの出会いだった。
バスから覗くマラマに涙ながらに手を振るヒナノ。
それがよかったのか、悪かったのか...
オリヴィアを涙目で見上るマラマ。
「...」
「心配?」
遠くなるバスを見守るヒナノ。
「二ホンって言うところに行くの。」
慎一を驚きの表情で見つめる直美。
「に、日本人じゃないんですか?」
「ああ。」
慎一の言葉に怯える直美に呆れる青田。
「それどころか人間じゃねぇかも、だぜ?」
「ひっ!?」
「まあ、全部人から聞いた話だけどな。」
「くく...」
研究所での出来事を語る慎一、
「パパとママとSealeaJAPANの研究所にやって来たオレは...」
「最初は検査程度だったが、だんだん際どい実験を受けさされた。」
慎一の話に慄く直美。
「そこで酷いことが起きた。」
「実験途中、俺の心肺は停止したらしい。」
「っ!?」
話を続ける慎一。
「手当を尽くしたが蘇生は不可能、そこで二人は俺を冷凍し...」
「蘇生方法が分かるまで保存することにした。」
真顔で聞く直美に真顔で答える慎一。
「じゃあ、なんで慎一さんはここにいるんですか?」
「蘇生されたに決まってるじゃねェかよ。」
話を続ける慎一。
「俺が冷凍されてる間、パパとママには子供ができていた。」
「男の子がショウ。女の子がアキラだ。」
「Sealea JAPANはショウやアキラもウィッチの研究の対象にした。」
「それを嫌がった二人は、ショウとアキラを養子に出そうとした。」
慎一の話に喰いつく直美。
「そこへ健二の母ちゃん、伊万里響子が売り込みに来たんだ。」
「な、なにをですか?」
慎一の答えに慄く直美。
「自分をウィッチの母体に使ってくれってよ。」
「っ!?」
「行方不明だから、どんな身元かはわかんねぇが、当時は医大生だったらしいよ。」
「ウィッチだった。」
「どこから聞きつけたかわかんねぇが、二人の研究に興味を持って志願して
きたらしいよ。」
伊万里響子、健二クンの母、ネイティブのウィッチ、あたしのウィッチの元凶?
俯く慎一を見つめる直美。
「でも、俺やショウたちには優しくしてくれたよ。」
「だから、お前や実の息子である健二にしたえげつないことが信じられねぇ。」
上目遣いに直美を見上げる慎一。
「そして、パパとママ、いや、SealeaJAPANはオレの遺伝子で健二を産みだすことを
決めたんだ。」
虚ろな表情で呟く正一に問いかける直美。
「俺の弟だっていわれてたんだ。」
「ショウやアキラも喜んでくれてた。」
「健二クンのお父さん、なんですね?」
涙目で半笑いの慎一。
「そうさ、ただ産んだのは響子さんだ。」
「俺もアキラたちも戸惑った。」
「この子は本当に兄弟なのかってな。」
慎一を見つめる直美。
「それで、あの震災が起こった...」
「...」
せりあがる海面。
「ショウやアキラは養子に出されてて、健二は健診のために響子さんと仙台に行ってた。」
押し寄せる波。
「俺達だけが研究所に残されていた。」
オリヴィアの指示に反論する女性研究員。
「あなた達は避難してください。」
「違うんです、先生っ!?」
研究員に問い質すオリヴィア。
「このあたりで地震があったら、ものすごい津波が来るってっ!?」
「ツナミ?」
「言い伝えですが...」
「先生たちも早くっ!?」
必死にオリヴィアを止める研究員。
「とにかく、システムをクローズさせて逃げます。」
「だ、ダメなんです、それじゃあっ!?」
研究員と山道を駆け上る慎一。
「っ!?」
津波の気配を感じて振り返る二人。
「...」
巨大な津波に錯乱している研究員。
目を見張る慎一。
「い、いやああっ!?」
「っ!?」
津波に飲み込まれる研究所を見つめる慎一。
「っ!?」
一瞬にして海中と化す研究所。
サーバルームで水中の中、手をつなぎ合うハリスン夫妻。
「...」
口づけを交わそうとする二人。
粉砕されるサーバルーム。
「...」
絶叫する慎一。
「ギィィィヤぁーっ!?」
「パ、パパっ、ママァっー!?」
跡形も残っていない、渦に巻かれる研究所を見つめる研究員と慎一。
「あう...」
涙ぐみながら慎一の話を聞く直美。
「それから...俺は、ウィッチを無くす替りに話せるようになったらしい。」
「...」
涙を拭う慎一をフォローする青田。
「とにかく、俺がすべての元凶かもしんねぇ。」
「慎一...」
謝罪する慎一を否定する直美。
「お前ぇをこんなことに引きずり込んだのも、俺の責任かもな。」
「...ないです。」
直美の答えに戸惑う慎一。
「え?」
「そんなことないです、慎一さん。」
真顔で答える直美。
「こうして健二君に出会って、こんな運命に出会えたのは慎一さんのおかげだと思います。」
「いろいろあってしんどいですけど、あたしは自分の運命を気に入ってます。」
泣き笑いの直美。
「だって、健二君と巡り合わせてくれたんですから。」
直美の言葉を遮る慎一。
「気休めは止めてくれ直美ちゃん。」
「俺が日本に来なかったら、お前は誘拐されることなかったし...」
慎一の問いに涼しげに答える直美。
「健二とメンドクサイことにならなかったんだぜ?」
「だから言ったじゃないですか、どんな事情があっても、健二君と出会えたことが一番なんです。」
直美を見つめる慎一。
「だから、絶対、健二君に思い出させてやります。」
「絶対にっ!」
「...」
俯く慎一を気遣う青田と直美。
「くっそっ、お前ぇ...」
ガン泣きの慎一。
「いいやつだな。」
涙をこらえる慎一を抱きしめる直美を見守る青田。
「...」
だって、ウィッチなんだもん。




