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4 #拐われてみた


 えー、みなさまこんばんは! みんなからはリアって呼ばれてます!

 私はただいま、絶賛誘拐中なのです! 

 ……何で誘拐されたのにテンション高いかって? そんなの決まってるじゃないですか!

 三度あった人生の中で初の誘拐ですよ? このドキドキはお化け屋敷とかと同種の何があるか分からない感じ、良いですねぇ……。

 え? なんで誘拐されているかって? そんなの決まってるじゃないですかー!


――そこに、私の粛清対象が居るからですよ。


(なんて、心の中だけじゃなく実際に話せたらなー……。ま、流石にこの状況では無理かぁー……)


 私は誘拐犯たちにバレないように「ははは……」と乾いた笑いを浮かべたのだった。



 初お散歩もそろそろ終わりといったところ、私の耳は二つの高い悲鳴を拾った。

 この声の感じだと恐らく若い女性と私と同じぐらいの女の子の物だろう。

 私はそう予測を立てながら、悲鳴が聞こえた場所を逆算的に割り出していた。


 魔族は元々、戦闘を得意とする種族。そのため他の種族に比べて五感が優れている。個人差もあるが、戦闘音や血の臭いなども数キロ先の事でも分かることがある。

 これは血統や突然変異などでも変わる。魂は肉体に流れる血を認識してそこに合わせて魂を調整する。そうすることでその肉体に一番合った形になるのだ。

 今までは聴力の良い魔族が生まれやすいが、一人だけ視力の良い子どもが生まれることがある。これが突然変異だ。原因としては未だ謎が多い。


 私の場合は全般的に得意だが、一番は眼だ。

 眼は主に敵の能力を測り、物質の鑑定などをすることが出来る。その他にも多くの能力が使用できるが今は使えないので関係ないだろう。

 あと、お肉の焼ける匂いは大好物なので誰よりも早く気が付けるだ……っ!! 食い意地は世界一と知り合いに褒められたこともあるしね! ……そういえばあの時、アイツ笑顔が引き攣っていたような?


 過去の出来事について考えるのを止める為に意識を戻すとその悲鳴はおよそ一キロ先からだった。先程感じたことから母子か姉妹だろうか。そう考えながら私は両親の方を見ると、二人とも険しい顔をしている。


「あなた……」

「ああ、分かっている。行こうか」


 両親は悲鳴の方向に向かっていく魔法兵を見ながら当然のように向かうことにしたようだ。

 流石私の両親、と思いつつも私はあまり歓迎できなかった。相手がどのような相手か分からない状況で産後の母さんを戦闘に巻き込みたくない。


 なお、魔法兵とは軍に所属する主に魔法を扱う兵のことだ。基本的には魔族が主戦力だが、他の種族もいないわけではない。

 軍は魔法兵と物理兵に分かれており、両方とも魔法や剣などの戦闘技術を習得することが必要だ。その中でも得意分野を磨いたのが魔法兵と物理兵だ。

 魔法兵は戦闘系や回復系にも分かれており、攻撃兵や回復兵と呼ばれることもある。

 今回は主に魔法兵の部隊が対応にあたっているようだった。


 二人は私を安全な所に避難させるつもりだった。私も最初はそのつもりでいたが、どこか胸騒ぎがした。

 正直、面倒事に自分から関わることはしたくない。だが、こういった嫌な予感は昔からよく当たるのだ。

 私は両親に「いっしょにいく!!」と子どもらしく駄々を捏ねるようにしてお願いした。


 「リアを連れて行くのは……」と二人はかなり渋っていたが、自分たちの近くが安全だと判断したようで結局私も連れて行って貰えることになった。


 ま、もし連れて行ってもらえなかったとしてもこそっと行くつもりだったけどね!

 私はこれからのことを考えながら「あうがと!」と舌足らずに礼を述べたのだった。



 というわけで悲鳴のした方に行ってみると、そこには既に魔法兵が到着していた。しかしそこに居たのは血を流した女性が倒れているのみだった。周りをサッと確認したもののもう一つの声の持ち主は見つけられない。


(ああ、なるほど。これは――)

「大丈夫か!?」

「命に別状はないわ。ねえ、私の声が聞こえる?」


 私が一人観察していると両親は女性の元へ駆け寄り、先に到着した魔法兵に容態を確認している。私の場合下手に動くと怪しまれるため遠目から傷の状態を視るに留めていたのだ。


 女性は薄く目を開くとはっとしたように起き上がろうとした。しかし途中で頭を押さえて倒れそうになり、父さんが抱き留めていた。恐らく先程の悲鳴の際に頭を強く打ったのだろう。脳の負傷は魔族でも危険なことがある。母さんが白系魔法をかけながらも女性はパニック状態のようで

状況が分からない。

 そんな女性に父さんは目を合わせてゆっくり問いかける。


「落ち着いて。詳しく状況を聞かせて貰えないだろうか?」

「……っ。すみません。娘が……。拐われたんです……!!」


 母子の方だったらしい。

 そんな両親達の話を聞きつつ私はある方向を睨んでいた。

 ――今は魔王ではないとはいえ。自分の生まれた国で白昼堂々誘拐なぞ、神が赦し給うても魔王が赦すものか。

 私は心では怒りながらも理性は冷静に状況の判断に務めていた。

 噂話なら流石に行動するのを考えるが、実際に行われているとなると話は別だ。誘拐など誅殺抹殺撲殺だ。

 が、あまり状況は良くなかった。


(途中で魔力の残滓が消えている……か)


 私はふむ、といくつかの可能性を考えながら両親の様子を観察する。今は女性にかかりきりで私の方まで意識は向いていない。単独行動をするなら絶好の機会だ。


 今回の相手はかなり危険な可能性が出てきたため、余計に両親には関わって欲しくなかったのだ。

 この世界のものは人間魔族、動植物に関わらず全てのものに魔力がある。そして存在するだけで微量の魔力が世界に流れ出している。


 そして今、眼で魔力の残滓を追っていたところ、三、四キロの地点で魔力が途切れていた。何かしらの魔法を使って移動したならその跡が残るはずだ。しかしそれもない。

 そうなってくると考えられる可能性は誘拐犯が何らかの魔力流出を防ぐための方法を持っているということだ。


 方法はいくつかある。

 一つ目が術者の技量で魔力流出をコントロールする方法。これは術者の魔力操作力に依存するもので、上位者になるほどその完成度は高くなる。しかしこの技術は難易度が高く、使える者は多くない。ましてや、誘拐班ごときが使える訳もないので今回は除外。


 二つ目に魔法具。これは高位の術者が制作した魔法具に限られるが、誰でも流出を抑えることが出来る。が、数は少なく、もちろん値も張る。また、危険性があるため数は国が管理しているはずだ。一誘拐組織が持てる代物じゃない。なのでこれも除外。


(となると――魔古具(アーティファクト)か? だけどそれこそ貴重品。可能性としては一番低いと思うんだけど……)


 最後にあり得るのは魔古具(アーティファクト)。これは一番可能性が低く、もし使用されていた際最も厄介な場合だ。

 魔古具(アーティファクト)は魔法具の中で最も入手しづらく、また現在は制作不可の物を言う。


 もしこれが使用されていた場合、高位の術者がバックについている可能性がある。

 術にしろ魔法具にしろ貴重な事には変わりない。つまり金が要る訳だ。

 誘拐するのに事前投資が誘拐で得る物よりも多いなど、笑い話だ。

 しかしこの場合で仮定していくとかなり辻褄が合ってくるのだ。

 可能性として最も有力なのは誘拐するものが金では買えないもの、もしくは替えが利かないものである場合、正規のルートでは恐らく手に入れられないため裏社会の組織に金を出し、強奪――誘拐するとしたら?

 そしてこの方法を取るということは富裕層、つまり高位の術者ということだ。


 魔族は昔、力によって物事を決めていた。

 力ある一族は富を得るし、力なき者たちは搾取される。

 かつてこの“力”の定義が武力しかなかったため、私は政治というものを教え込んだ。結果“知力”という力も認められるようになってきた。


 しかし、未だ古い考え方に固執しているものが居てもおかしくはない。

 力あるものは力なき者から奪ってもよい、と考えているものがいて、実際に行動に移したとしたら?

 それは私が始末をつけるべき課題であり、今の時代の者たちに迷惑をかける訳にはいかない。


 そして今回、私が両親を巻き込みたくない理由がここにある。

 相手の始末が遅れれば両親に迷惑がかかるし、嫌がらせをしてくる可能性もある。

 更に高位の術者と敵対してしまった場合、両親の立場が悪くなる可能性がある。

 しかし私であれば両親が直接敵対するよりかは幾分かマシであるだろう。


 ま、身を隠すのに長けている種族もいるし。と考えるのを一旦打ち切った私は再度観察してあることに気付く。


(あれ、魔法が解除されている? 怪しいな、罠か? けど移動の準備のためなら時間がない。……行くしかない、か。場所は………あそこか)


 私は目を細めると両親にばれないように転移魔法(テレポート)発動した。


「……リア? あなた、リーリアがっ!」


 彼女の両親が気が付いた時には既にその姿は搔き消えた後だった。



 その頃、少し離れた路地裏――


「おかあさま、おとうさま、どこにいるの……?」


 人間でいうところ一歳ほどの幼女が泣いていた。薄暗い路地裏には似合わない明るいワンピースは艶のある生地を使っており、明らかに高級品だ。髪も艶があり、明らかに身分の高いであろう幼女はしかし、その目に大粒の涙を浮かべ辺りを彷徨っていた。周りに人は居らず、恐らく迷子になってしまったのだろう。両親を呼ぶ声が辺りにむなしく響く。

 そこへ四人組の男達が近づき、声を掛ける。手入れのされていない髪はボサボサで、衣服もところどころ破けている。いかにもな姿の男たちはニヤニヤ下品な笑みを浮かべながらその幼女に声をかけた。


「お嬢ちゃん大丈夫かい? お兄さん達が君のお母さんのところに連れていってあげるよ」

「ほんと!? ありがとう!」


 その幼女――私はバレないように嗤った。うん、さっきの魔力と同じ周波だ。誘拐犯で間違いないだろう。


(簡単に引っ掛かってくれた。うふふ、このロリコン変態誘拐犯め私が成敗してあげる………)


 ここから魔王による悪夢が始まるのであった――。


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