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土色の空  作者: Inumiya&知人(発案者)
5/6

#5ー邂逅

彼はおおよそ一ヶ月を掛けて光の正体を知ることが出来た。

というのも、彼がその方向へと歩いて行くと集落らしき場所に辿り着いたのだ。



そこは小さな集落。というよりはその跡地といった感じであろうか。

まだ機能を保っているテント、そして水がためてある入れ物。そういった人が生活していた跡が残っている。

そして驚くことに、集落の中央にある薪はまだ燻っているのだ。


ここに来て久しぶりに健二の心に光がともったような感覚が走った。

もしかすると人の生き残りがいるかも知れない。

健二は手当たり次第にテントの中を確かめた。


使われた形跡のある日用品。

散らかった寝袋など、人がいた痕跡は確かにあるものの、生きている人も、ましてや死体もない。


しかし、それが逆に健二の心を励ました。

集落の中で人が死に絶えてしまったのなら、いくつかの死体が放置されたまま残るはず。

しかしここに来てからというもの、死体は一つたりとも見つかっていない。

逆に集落を出て行ったのだと仮定すると不自然なほど日用品が多い。


案の定、最後のテントですやすやと眠る少女に健二は出会った。

痛々しいほど痩せ細り、かなり弱ってはいるようだが生きている。

健二がテントに入るとその少女は目を覚ます。


健二は声を掛けようとして、ここ一ヶ月ほど言葉を口にしていないことを思い出した。

結果として、彼の唇からは意味の無いかすれた音が出ただけだった。


「誰?」


少女はうつろな目で健二を見つめる。その目は最早何も捉えていないように見える。


「おれは…俺は榎田健二。君は?」

「私は、畑山利香。」


お互い人と話したのは久しぶりなのか、なんともおぼつかない自己紹介であった。


「何の用?」

「あ、いや。久しぶりに人と会えたからさ。」


しどろもどろになりながら健二は話し続ける。

利香の顔には驚きも、喜びも浮かんではいない。


「君以外の人は?」

「…皆死んじゃった。」


ひゅっと自分の喉が音を立てたのを健二はしっかりと感じ取った。

背中に氷水を注ぎ込まれたような感覚。しかし、目の前に一人人がいるだけでもいいと思おうと高まった動悸を押さえ込む。


「そっか…」

「うん」


そう言って利香はまた眠りにつこうとする。

健二は何かコミュニケーションをとろうと必死になるが、彼女はお構いなしに目をつむろうとしてしまう。


「そうだ、ちょっとした特技があるんだけど見ない?」


そう言って健二は軽く念じて長芋を生み出す。

利香の視界から見れば突然食べ物が生み出されたかのように見えるから、手品のように見えるだろうと思った健二だったが、利香の反応は予想以上の物だった。


先程まで感情を一切見せていなかった彼女が、目に見えて驚いた表情をする。


「それ、本物?」

「あ、ああ。食べてみるか?」


そう言って差し出すと、彼女はひったくるようにして長芋を受け取り食べ始める。

あまりの勢いに健二は唖然とするが、すぐにもう一本生み出し食べることとした。

二人とも食べ終わり、互いに無言の時間が続く。


「他の人、会いたい?」

「うん?」


突然口を開いた利香に健二はびっくりして顔を上げる。


「他の人、皆死んじゃったけど。」

「ああ、会っておきたい。」


そう言うと、利香はテントから出て行く。

健二がその後についていくと、少し離れたところに塚のような物が築いてあった。


「ここ、皆が眠ってるの」

「そうか…」


健二は手を合わせる。

利香はそんな健二の様子を複雑な表情で見ている。


「…貴方がもうちょっと早く来てくれたら、死ななかったかも」

「どういうこと?」


利香は悲しげな表情を浮かべて話し続ける。


「もうここには食べ物はなかった。どこを探しても、生き物はいなかった。」


健二がここ一ヶ月歩き続けた道にも、生き物の存在を示す物は何一つ無かった。

この集落付近に生き物がいなくてもおかしくはない。


「でも私たちは何かを食べなきゃ生きていけない。ないならないで、何かを食べなきゃいけない。」

「まさか…」


生き物は存在しなかった。食べ物は既に食べ尽くした。

…しかし、『生き物』はまだいたのだ。視点が向いていなかっただけで。



「集落の中で一番最後まで生き残ったのは私だった。理由はわからない。お父さんが何かしたのかも知れない。誰をどうするか決めてたのはお父さんだったから。」


そこにどんな争いと話し合いがあったのか、利香は話してくれなかった。

それっきり、利香はうずくまって動かなくなってしまった。

健二はどうしていいかわからずに側に座り込む。日は傾き、夜が近づいてきた。

皮肉なことに、生き物が存在しない世界だからこそ、二人は無防備に夜の中にただ佇むことが出来たのだ。




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