#4ー希望
頂上に着いた頃には辺りが真っ暗になっていた。
健二はふと何かを口に入れたくなり、辺りを意味も無く見回した。
勿論、草木一つ無い禿山で口に入れられる物などないのだが。
と、突然目の前に長芋が現れた。
今度の空腹はまだ耐えられるほどであったから、健二は冷静に状況を分析する余裕があった。
まず彼が不審に思ったのは長芋の出所だ。
突如として現れるそれが何で出来ているのか、どこから来るのか。
とりあえず食べてみた感じとして違和感はない。
その日の朝にも食べていたため、何か毒になるようなものが含まれているわけでもなさそうだ。
それであれば問題は無いように考えられる。
次に気になった点はただで出せるのかどうか、という点だ。
寿命と引き換えに、とかそういった代償があるのか。
残念ながら確たることはわからなかったが、現時点では何かが失われているわけではないと考えられた。
もしこれで致命的な何かと引き換えになっていたら、と想像するとぞっとするが、今はこの長芋に頼って生活するほかはない。
最後に、どういった条件で長芋が出てくるのか、という点に行き着いた。
試しに、長芋を生み出す想像をしてみる。すると目の前に音も無く長芋が現れた。
どうやら軽く念じれば生み出されるらしい。
いくつか生み出しておくという手があるものの、何を代償にしているのかもわからない状態で必要以上に生み出すのは悪手だろう。
そう思い返し健二はそれ以上の生産をやめた。
長芋を食べ、山からの風景を眺める。
と言っても辺り一面の闇だ。
星空が見えるはずの空も、何故か何も見えない。月はかろうじてかすんで見える位で決してはっきりとは見えない。
導もない暗闇に健二が絶望を隠せずにいると、妙な点に気がついた。
真っ暗のはずの景色に、一点だけ光が見えるのだ。
弱々しく、わずかな光だ。
しかし、行く宛も無かった健二にとってはそれがどのようなものであれ確認しない訳にはいかなかったのだ。
そうして彼は相変わらず草木一本生えていない荒野を歩くのであった。
彼がその正体を知るまでの間に、一月ほどの時間が経過した。