#3ー登山
粘り気のある液体をわずかに残して長芋はその体を健二の胃の中へと納めた。
大きめの一つを食い尽くした彼はまた少し正気を取り戻し、建物の外へと出てみる。
空を見上げると、青空ではなく土で汚れたような薄茶色が広がっている。
ここはどう見ても地球ではなさそうだ。
健二の心には諦念にも似た絶望が広がっていく。
悪い夢なら覚めてくれ、と願いながら当てもなく町を歩き続ける。
町の外れにまで来てわかったこととして、ここは一応日本であるらしいということがあげられる。
第一、看板が日本語で書かれていたことから薄々気がついてはいたのだが。
町外れまで行って見覚えのある線路と、同じく見覚えのある電車の残骸を見て完全に理解した。
そして、彼は行く先を失った。
このまま都市に居続けても何も起きそうにない。町を歩き続けても誰にも会わないのだから。
その事実は彼を投げやりにさせるのに十分だった。
彼は当てもなく郊外の方へと歩いて行く。
徐々に人家の残骸も数を減らしてゆき、だだっ広い荒原が広がるのみとなった。
緑はない。何故か皆枯れ果てている。
何の影響なのかはわからない。少なくとも、気温はいつも通りと言える。
さほど暑くもなく、寒くもない。春のような気温だ。
歩いていると山に辿り着いた。
見覚えのある形であったりはしないため、有名な山ではないのだろう。
看板でも何か書いてあったわけではなく、観光名所ではないことは確かだ。
一面土色の山。
木は枯れ木がポツポツとしぶとく立っているだけで他は何もない。
生き物の気配もしない。
健二は鬱屈した気持ちが少しでも晴れることを祈って山を登り始めた。
実際の所、その選択は致命的な間違いであり、同時のこの状況において唯一の正解であった。
登り初めてすぐ気がついたのだが、何の景色もなしに坂を上るのは思った以上にこたえる。
苦行と言うほかないその行程で、何度もくじけそうになり、そしてこの先を考えて不安に殺されかけた。
幸運なことにと言うほかないが、この山には飛び降りることの出来そうな高さの崖は存在しなかった。
もしあったのならば、健二は即座に身を投げていたであろう。
また、足下の石につまずいて何度も転んだ。
雨がしばらく降っていないのか、乾いた地面には幾つもの岩が転がっており相当足場が悪かったのだ。
そうして、何カ所も負傷しながら彼は頂上へと辿り着いたのだ。