#1ー異邦人
半ばから折れたビルが乱立し、錆付いて原形をとどめなくなった車が荒れた道路の上に放置されている。
ショーウィンドウのガラスは割れ、マネキンが着ている服は朽ちてボロボロになっている。
通りに人は誰一人おらず、物音一つしない。
絵に描いたかのような荒廃都市に、榎田健二は突然放り出された。
あたりを見回して異常に気がついた彼は、ズボンの尻ポケットからスマホを取り出す。
電波表示は圏外、勿論インターネットには接続できない。
途方に暮れた彼は何度も自身の頬をつねるが、確かな痛みが帰ってくるだけ。
顔を上げると、割れたガラスに困惑した男子高校生の顔が写っていた。
何のことはない。自分の顔だ。あまりにも情けない表情をしていることに一瞬向かっ腹が立ったが、それがどうと言うことだろう。
とりあえず店の中に入ってみる。外見から察するに洋服屋だったのだろう。
ギシギシと軋むスイング式のドアを開け、中に入る。
店内は薄暗く、外からの光がなんとか店の奥まで照らしているような状況だ。
陳列されている服はどれもボロボロになっており、とても着られたものではないようだ。
カウンターにおいてあったレジスタはどこにでもありそうな一般普及品だ。
健二はそれを見て一種の安堵を感じていた。この訳もわからない状況において、唯一このレジスタだけが理解の及ぶ物だったのだから。
何も得るものも無く健二は外へと出てきた。
この状況がなんなのか。夢か、たちの悪いイタズラか。それとも超常的な何かが働いたのか。
彼の脳内には混乱が渦巻いていた。
少々冷静さを欠いた彼は熱に浮かされた患者のようにふらふらと近くにあった建物へと入っていく。
しかし、そのどれもが致命的なまでに荒廃している。
そうすること20軒目にて彼の精神は支えを失った積み木の塔のように唐突に崩壊した。
彼は狂ったように笑いながら手当たり次第に物を壊していく。
騒々しい破砕音が誰もいない町に響き渡る。その頃には、明るかった空ももう暗くなっていた。