深刻な問題
それはちょっと考えればすぐに気づくはずの事態であった。
こうなることに気づかなかった俺の失態といえよう。
俺の目の前には、男心をくすぐる女性フェロモンをまき散らしている洗濯物の山。
「ねえキミ達、明日からどうするの?」
「着るものがなくなってしまいました、ゲンボクちゃん」
アリスはこの事態がどれくらいやばいのかは飲み込めているようだね。
「で、そこの全裸ロリ、何か言ってみなさい」
「着るものがないので着ていないの、ゲンボクちゃんの顔が怖いの」
「あのね小町、お前はその格好で明日役場に行くつもりなの?」
「まだエプロンがあるの」
ロリの裸エプロンは犯罪だ。
バスタオルを身体に巻いただけのアリスと、裸にエプロンの小町の前で、俺は威圧的に腕を組んでみる。
「ところで、お前らは何で洗濯をしようと思わなかったの?」
「洗濯は苦手なんです」
またそういうふうに言い訳するのねアリスは。
「動いている洗濯機は怖いの」
小町もいい加減、一般社会と料理道具以外の機械に慣れないとまずいな。
「わかった、俺が何とかする」
今から全部洗って明日の一着分だけでも無理やりアイロンをかけて乾かすか。
今日は徹夜だな。
するとアリスが媚びるような物言いで言いよってきた。
「ねえねえ、ゲンボクちゃん、お掃除とお洗濯ができる付喪って欲しくないですか?」
何言ってんだアリスは。
お前は小町の時もそうだったけれど、自分の欲求を俺に代償させてはダメだろうに。
ところが無言で洗濯を続ける俺に小町もすり寄ってきた。
「小町もお掃除とお洗濯ができるお友達が欲しいの」
小町も、もう少し自分で何とかしようとは思わなければまずいよなあ。
まあ、アリスと小町の言うことにも一理ある。
俺も楽になるし。
「でもな、付喪を増やしたら、家族も増えちゃうけれどいいの?」
「私は毎晩ゲンボクちゃんからお情けをいただければそれだけで」
アリスは毎晩が当然なんだ。
「小町は三日に一回くらいで大丈夫かもなの」
大丈夫ってどういうことだ?
「わかった、三人目の付喪を招くとしよう、その代りお前らも協力するんだぞ」
なんだその二人してのハイタッチは。
しかし、冷静に掃除用具を探してみると、なかなか穴の開いたものが見つからない。
こりゃ結構大変かな。
と、なんだい小町?
「ゲンボクちゃん、これなの!」
小町が自慢げにオレに突き出しているのは、洗濯機の排水チューブ。
「大きな穴だし、ゲンボクちゃんの分身もすっぽり入るの!」
「そうか、よく探したな小町。でもな、洗濯機を付喪にしてしまったら、何を使って洗濯をさせるつもりなんだ?」
「あっ」
べそをかかなくていい。
お前はよくやった、小町よ。
ほら、お前が敬愛するお姉さまが、何かを持って息せき切って走ってきたぞ。
もう俺は嫌な予感しかしないけれどな。
「ゲンボクちゃん、この穴はどうかしら!」
「アリスお前ね、俺に苦行を求めているの?」
「そんなことないですわ、これは棒状のものを輪にした、まさしく穴ですわ!」
そう言いながらアリスが自慢げに俺に突き出したもの。
それは「亀の子たわし」というシロモノ。
「で、俺はこのたわしに向かって、何をすればよろしいのでしょうか」
「まあ、ゲンボクちゃんったら、わかっているくせに」
アリス、さっきから口調が変わっているよ。
あとな、小町は飽きたようで既にちゃぶ台で居眠りをしているぞ。
「ここは大人の刺激ですわ! このイガイガがたまりませんわゲンボクちゃん」
これはまた露骨なことを言うねアリスは。
さすが大人のお人形さん出身だよ。
でもね、たわしでイクのって、やかん以上にありえないんですけれど。
「そんなこともあろうかと、これをとっておきましたわゲンボクちゃん!」
そう言いながら、アリスが自慢げにオレに差し出したのは、量販衣料店のチラシ。
ああ、ショッピングモールへ買い物に行った時にもらってきたのを大切にとっておいたんだな。
ちなみにこの村では、新聞は第三種郵便扱いで郵便局から届くので、チラシなんぞない。
まあそもそも、村役場以外の誰も新聞契約などしていないのだけれどな。
「この方とか、いかがでしょう!」
アリスが指さしたのは、秋冬物の服をお召しになっている清楚な熟年女性モデルさん。
お前はこの写真でイケというのね。
これって少年週刊誌のアイドル水着よりハードル高いと思うけれどね。
「私も手伝いますから!」
「ん?」
そしたらアリスはアリスはたわしとチラシを俺の前に置くと、アリス自身は俺の後ろに回って、こんなろくでもないことを、俺の耳元で囁きやがった。
「おばさんが、し・て・あ・げ・る」
おばさんシチュエーションだと!
これはまたニッチなところを攻めてくるなアリス!
よし、頑張るか。
引き続き頼むぞアリス!
エネルギー充填完了、発射!