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お泊りだと!

「もしもし、ヤマトだけどユウかい?」

「今は勤務中だから後にしてくれないか」

「ならいいや、アリスさんたちとは俺一人で遊ぶから」

「ちょっと待てヤマト、いやヤマトさんお願いですから!」


 街と村の間にある三差路の自動販売機前にトラックを止めると、ヤマトはユウに今日の流れを教えてやることにした。

 これは前回の麻雀大会のときに互いに約束したということもあるのだが、本音は共闘し、喜びを分かち合いたい仲間が欲しいから。

 それにアリスさんは特別としても、他の四人も基本はゲンボクさんにべったりなので、自分一人だけでは警戒されて浮いてしまう恐れが高い。

 しかしユウと一緒ならば、先日のようにフレンドリーに接してくれるはずだ。


「実は次の土曜日に千里ちゃんの免許を受領がてら俺達の街までやってくるそうなんだよ」

「へえ、千里ちゃん免許を取ったんだ」

「しかも教習場に通わずに取ったらしいぞ」

「マジですか」

 ヤマトはこのまま千里ちゃんの話だけでもご飯一杯いけそうだが、なんとか我慢する。

「それより、ゲンボクさんにお前と俺で街を案内しますよって約束しちゃったんだよ」

「ナイスですヤマト!」


 その後二人は街で落ち合い、すぐにでも最高のプランを立てることにしたのである。


 その晩、夕食とお風呂も済ませて、ゲンボクとアリス以外はアミューズメント施設「一回戦」をタブレットで検索するのに夢中になっているところで、つけっぱなしのノートパソコンが「ぴろりん」と音を立てた。


「ゲンボクちゃん、ヤマトさんからメールが入っていますよ」

 メールを確認したアリスの横に移動し、画面を確認しようとすると、他の四人も一斉に寄ってきた。

「どれどれ」

 背中越しにアリス以外の喉をごくりと鳴らす音が聞こえる。

 静まった中でメールをクリックする音がかちりと鳴った。


「ゲンボクさん、小町さん、千里さん、エミリアさん、リザさん、アリスさんこんばんわ」

 微妙に順番がヤマトのお気に入り順を示しているようだが気にしないことにする。


 メールの内容はこんなところだ。

 9:30に運転免許センターで、俺達と彼らは合流する。

 その後、彼らの案内で「一回戦」に移動する。

 午前中は皆でボウリングに挑戦する。

 お昼はカラオケボックスを押さえて、そこで皆でランチを楽しむ。

 その後はそれぞれが遊びたいアミューズメントを選んでチャレンジする。


 ここまでの説明で娘たちは大興奮におちいった。

「ランチのメニューを検索するの!」

「生ビールが300円で飲めるのかい!」

「やったあ、ボウリングだあ!」

「ゾンビがわらわら沸いてくるのをビシバシ撃てるのか!」

 あーうるさい。


 ここまでで16:00となる。

 日帰りならばここで夕食を取らないと村への到着は深夜になってしまう。

 ところがメールには続きがあった。


「ユウの親戚が近くで旅館を経営しているのですが、よかったら一泊しませんか?」

 続きの説明によれば、その旅館は観光旅館というよりも合宿などの宿泊に利用されるのがメインで、豪華な夕食も温泉もない。

 その分繁華街が近いので、夕食は街の居酒屋に皆でどうですかというものだった。

 ちょうど季節の変わり目で他に客の予定もないので、格安で泊まれるとのことだ。


 これにはアリスが喰いついた。

「お泊りですって! ゲンボクちゃん、ぜひ参りましょう!」

 アリスの琴線を響かせるネタもいまいち基準が分からない。

 とりあえず皆の意見を聞いてみることにしよう。

「お前らはどうしたい?」


「海鮮居酒屋で新鮮なお刺身をたくさん食べるの!」

 これはちゃんとした店にしてもらわないと小町がまたシェフを呼ぶとか言い出すだろうな。

「よーし、お姉さんは意識を失うまで飲んじゃうぞ!」

 エミリアお前は前科があるにそれを言うのか。

「ゲンボクちゃん、カレーとデザートがあるのか聞いてよ!」

 千里もたまには違うものを食べような。

「その店には洋食はあるのか?」

 リザが好きそうなのは昼食の方に集中しているだろうけれど、一応ヤマトに希望を出してみよう。


「お部屋は大部屋ですよ、個室は許しません」

 アリスはそっちの方が気になるのか。

 それでは少しいじめてみよう。

「ユウとヤマトも同部屋になってもいいのか?」

「構いませんわ! たっぷりと見せつけてあげますわ!」

 いじめ返されてしまった。


 それでは返信するとしよう。

「ユウとヤマトの提案に乗った。但し費用は全て割り勘だ、なんぜ俺達は全員公務員だからな」

 その他にもいくつかの注文事項を記載してから送信ボタンを押す。


 ぴろりん。


 ヤマトのスマホから着信音が響いた。

 メールの発信人を確認すると、ヤマトはトラックを脇に寄せ、停車させてからメールを開いた。

「やったぜ! 早速ユウにも転送しよう」


 この時間も彼は残業しながら配送の仕事を続けている。

 なぜならば、今週末の土日を何としてでも休日にしたいから。

 既に所長には「休みをくれないとブラック企業だと告発する」と半ば脅しのような申し入れを済ませてある。

 所長も何をいまさらという感じで苦笑いをしていたが、了解は取り付けた。

 これで今週末は天国の二日間だ。


 そんな気分の高揚にパトカーのサイレンが水をさす。

 ここ最近、やけにパトカーを目にするようになった。

 全国版では放送されないが、地方紙や地方のニュースで暴力沙汰のニュースを目にすることも多くなった。


「彼女達を危ない目にあわせないようにしないとな」

 ヤマトはそう呟くと、再びトラックの運転へと戻っていった。

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